2016年6月号:負のインド洋ダイポール現象が発生

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写真:ガクアジサイ(JAMSTEC横浜研究所)

梅雨に入り、あちこちでアジサイが咲いています。今のところ関東では目立った雨がなく、研究所のアジサイも雨を心待ちにしています。これから夏の季節、世界の気温や雨はどうなるのでしょうか?SINTEX-Fの季節予測によると、6-8月は世界のほとんどの地域で平年より気温が高くなりそうです。熱帯の太平洋ではラニーニャ現象が、インド洋では負のインド洋ダイポール現象が発達し始め、これらの現象が地域の降水に影響を与えそうです。以下で詳しく見ていきましょう。

今年の6-8月の気温と降水量は?

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図1 2016年6月から8月までの地上気温の平年差(ºC)。 予測開始日は6月1日。

今年の6-8月に予測される世界の気温です。SINTEX-Fの予測によると、世界のほとんどの地域で6-8月の気温は平年より高くなりそうです(図1)。一方で、アメリカ中央部やオーストラリア中央部、南米南部では、平年より低くなりそうです。

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図2 2016年6月から8月までの降水量の平年差(mm/日)。予測開始日は6月1日。

次に、今年の6-8月に予測される世界の降水量です。SINTEX-Fの予測によると、東アフリカやインド西部、カリフォルニア周辺で雨が平年より少ない見込みです(図2)。一方で、インドネシアやオーストラリア、南米の北西部では、雨が平年より多くなりそうです。

ま た、日本の夏は、平年より気温が高く、雨が多い予測となっています。7月はフィリピン海の積雲活動が活発化し、小笠原高気圧が発達することで、梅雨前線が 日本の上空に停滞しそうです。8月は日本の南側から高気圧の西縁に沿って、湿気に富んだ風が入るため、雨が多い模様です。7月と8月の日本は高気圧に覆わ れ、チベット高気圧とつながり、猛暑のパターンになりそうです。

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図3 2016年6月から8月までの海面水温の平年差(ºC)。 予測開始日は6月1日。

どうしてこのような予測になるのでしょうか?日々の天気と異なり、季節を決める気候の変動には海の状況、特に、海面水温が大きく関わっています(参照:季節予測とは?)。熱帯太平洋では昨年より、中央部と東部で水温が平年より高くなる「エルニーニョ現象」が発生していましたが、今年の3-5月にはほぼ終息しました(参照:気象庁 エルニーニョ監視速報)。これから6-8月にかけて、熱帯太平洋の東部で海面水温が徐々に平年より低くなりそうです(図3)。その後、年末に向かって、熱帯太平洋の西部で水温が平年より高く、東部で低くなる「ラニーニャ現象」が発達する見込みです。

一方、インド洋ですが、今年の3-5月まで全域で水温が平年より高い傾向にありましたが、6月の観測値を見ると、東部で水温が平年よりも高く、西部で低くなっています(参照:NOAA/PSD)。これは、「負のインド洋ダイポール現象」として知られるもので、これから6-8月にかけて発達する見込みです。そのため、インド洋の西部では平年より雨が少なく、東部では雨が多くなりそうです。

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図4 2016年6月以降に予測される、ニーニョ3.4指数とインド洋ダイポール指数(ºC)。 予測開始日は6月1日。青が観測値、グレーが9つの異なる初期条件で計算した予測値、赤が9つのグレーの予測値の平均値。

最後に、ラニーニャ現象負のインド洋ダイポール現象が 今後どのように発達するか、見てみましょう。図4は、2つの現象がそれぞれ最もよく現れる海域で計算された海面水温の平年差になります(図4)。ニー ニョ3.4指数は、赤の予測値の平均をみると、10月以降にマイナス0.5度を越えて、年末に向かってラニーニャ現象が発達することを予測しています。そ の後、ラニーニャ現象は2017年の3-5月まで持続する見込みです。

一方、インド洋ダイポール指数は、6月から11月までマイナス0.5度を越えて、負のインド洋ダイポール現象が発達することを予測しています。その後、年末にかけてインド洋ダイポール現象は減衰する見込みです。

日本を含む世界の気候には、太平洋に発生するエルニーニョ現象やラニーニャ現象だけでなく、インド洋に発生するインド洋ダイポール現象も大きく影響を及ぼすことが分かっています。今年の6-8月は、ラニーニャ現象負のインド洋ダイポール現象が 発達してきそうです。ラニーニャ現象は、日本付近に猛暑をもたらす傾向がありますが、負のインド洋ダイポール現象は不順な夏をもたらす傾向があります。海 洋起源の2つの気候変動現象がこれからどのように発達し、日本付近にどちらの影響がより強く現れるか、今後注意して見ていきましょう。