最近の水温の状況
最近の日本周辺の海面の水温の状況を見てみます。
図1は、7月26日と8月23日の海面の水温の平年との差を見たものです[1] 。平年より高い場所が赤っぽい色、低い場所では青っぽい色になっています。図2は、同じく水深100mの図です。水深100mでも海面と同じ変化が見られれば、水温の平年との差が天気だけでなく海流の影響を受けている可能性が高くなります。
8月23日は台風10号が近づく前の日付になっていることにご注意ください。
引き続き、日本周辺の海面で多くの海域が平年より高い水温になっています。
海面では(図1)、先月はほぼ全域で水温が平年が高くなっていました(a)。しかし、台風が通過したために広い範囲で平年を下回るようになりました(b)。
このような中で台風10号が日本に近づきました。台風10号が935hPaまで強く発達した鹿児島南方は、海面(図1)でも海面下(図2)でも、平年より水温が高い状態でした。この海域は黒潮が流れており水温が下がりにくいことに加えて、このように平年より水温が高く、台風がこの海域で停滞したことが強く発達した原因の一つと考えられます。
東北・北海道太平洋側は、黒潮続流が北よりに流れているのと、暖水渦が存在しているために、海面だけでなく、海面下も水温が高くなっています。この海域では台風5号や7号が通過したにもかかわらず、深い所まで水温が高いので、平年より高い海水温が保たれています(「台風通過後も水温は高い」(親潮ウォッチ2024/8)参照)。
日本海でも海面・海面下とも温度が高くなっています。
海面下の黒潮大蛇行による冷水渦のある紀伊半島南の海域や、黒潮の離岸している九州東では、海面下で水温が平年より低くなっています。
今後の日本周辺の水温については、「季節ウォッチ」も参考にしてください。平年より高い水温が続くことが予測されます。
海洋熱波・海洋寒波
海洋熱波とは、数日以上極端に海水温が上昇する現象です。その発生頻度は近年に大幅に増加しており、海洋生態系に与える影響が危惧されています([プレスリリース] 北海道・東北沖で海洋熱波が頻発していることが明らかに)。
図3は、海洋熱波でよく用いられている基準[2]を使って日本周辺の海面での海洋熱波・寒波の発生状況を見たものです。同じく、図4は水深100mでの海洋熱波・寒波の発生状況です。
数字が1以上になっている所が統計的に10%以下しか発生しない高い温度である海洋熱波が発生している所です。数字が大きいほど強い海洋熱波であることをしめしています。図1,2(b)が平年よりどれだけ水温が高いのかを温度差でしめしているのに対し、図3,4はその中でもまれな温度変化をしめしています。
図3・4の8月23日は台風10号が近づく前の日付になっていることにご注意ください。
海面(図3)でも水深100m(図4)でも、目立つ海洋熱波は東北沖太平洋沖、日本海、東海沿岸、琉球諸島周辺です。特に暖水渦や黒潮続流の影響を受けている東北沖太平洋沖は、レベル2以上海洋熱波が見られます。台風10号の発達した鹿児島南方でもレベル2以上の海洋熱波でした。
日本黒潮大蛇行の冷水渦では、水深100mでレベル4(極端)の海洋寒波になっています。
アニメーション
図5は水温、平年からの差、海洋熱波指数のアニメーションです。
図5: JCOPE2Mによる2024年7月26日から2024年8月23日までの水温、平年からの差、海洋熱波指数。左が水温(等値線, ℃) 、温度の平年との差(色, ℃) 。平年は1993-2020年平均。右が海洋熱波指数。上段が水深1m。下段が水深100m。クリックして操作してください。途中で停止もできます。
- [1]この記事では、今年の値はJCOPE2Mを使っています。平年の値はJCOPE2M再解析の1993~2020年の平均を使っています。JCOPE2M再解析データは学術研究利用では無償で公開しています。↩
- [2]JCOPE2Mの1993~2020年のデータを使い、統計的に10%以下(90パーセンタイル)の高温が5日以上続いた場合に海洋熱波としています。平年との差が海洋熱波の基準(90%タイルと気候平均の差)の2倍以上である場合は2,3倍以上である場合は3とカテゴリー化しています。逆に統計的に10%以下(10パーセンタイル)の低温が5日以上続いた場合には海洋寒波としています。↩