日本海が暖かい状況が続いています。これには昨年から強い対馬暖流の影響があると考えられます。対馬暖流の強さは日本海側の降雪と関係する可能性があります。 |
日本海が暖かい
図1は、2017年1月29日の海面水温の平年との差をJCOPE2再解析のデータを用いて見たものです。平年は1993から2012年の20年平均の平均で、それより高い場所が赤っぽい色、低い場所では青っぽい色になっています。東北・北海道沖(図1のA)の平年より高い水温は親潮ウォッチで解説の予定です。沖縄周辺(図1のB)の高温については、海面水温が1月としては解析値の存在する1982年以来最も高くなったことを沖縄気象台が発表しています[1]。
ここでは、日本海(図1のC)が平年より高くなっていることについて見ます。この高温には、対馬暖流が関わっていると考えられます。
対馬暖流とは?
まず対馬暖流について説明します。図2は、JCOPE2よる平年(1993-2012年平均)の日本周辺の海面温度と海流です。黄色の太線で強調した流れが対馬暖流に対応します。対馬暖流は、東シナ海を黒潮水を主な起源とし[2]、 対馬海峡を通って日本海に入る海流です。暖流として、日本海に南から暖かい水を運んでいます。流量は黒潮の約1/10ほどです。
対馬暖流は、津軽海峡を抜ける津軽暖流につながっており、2015/10/2号「親潮ウォッチ2015/10」の津軽暖流の解説の中にも出てきます。
対馬暖流が強い
最近の対馬暖流はどうなっているでしょうか?図3では、2017年1月29日の流速と水温(図3上)を平年の1月29日(図3下)と比較しています。天気に影響されやすい海面ではなく、海流の様子が見やすい水深100mの図を見ています。
平年(図3下)と比較すると、今年(図3上)は対馬暖流が強くなっています(青っぽい矢印ほど強い流れ)。10℃等温線である赤線を目安に水温を比較すると、強い対馬暖流に対応して、今年は暖水が平年より日本海に広がっています。
対馬海峡を通過する対馬暖流の流量の時間変化(図4, 赤線)を見ると、昨年2016年の夏頃から平年(黒線)よりも流量が大きくなっています。
対馬暖流の流量を8月から11月で平均し、各年で比べると、2016年は2011年以降、過去5番目の大きさでした(図5)。
対馬暖流の強さをしめす別の指標として、気象庁は、日本海における深さ100mの水温が10℃以上の領域(図3参照)の面積によって定義した対馬暖流の勢力を計算しています。その図を見ても、やはり昨年から対馬暖流の勢力は非常に強くなっています。この強い対馬暖流が、図1の日本海の海面での高温につながっていると考えられます。
対馬暖流と雪の関係
対馬暖流は日本海側の雪に深い関わりがあると考えられています。それを模式図にしたのが図6です。冬になると、大陸から日本に向かって乾いた季節風が吹きます。乾いた風が日本海を越える時に、暖かい日本海からたくさんの水蒸気が蒸発し、水蒸気を大量に含んだ湿った空気になり、雪雲が作られます。この雲雪による雪が、日本海側が世界でも屈指の豪雪地帯になる理由です。対馬暖流は日本海の暖かさを作り出しています。
対馬暖流は日本海の暖かさを維持して日本海側に雪をもたらすだけではなく、対馬暖流の強さの変化によって雪の量が変わるらしいという研究があります[3]。例えば、Hirose and Fukudome (2006)は、観測データから、秋(8~11 月)の対馬海峡における対馬暖流の流量が多いときに、日本海側の 12 ~ 2 月の降水量(多くの場合、雪)が多くなる傾向をしめしています。対馬暖流が強いことで、日本海がより暖まり、雪につながる水蒸気がより発生するためだと考えられています。秋の対馬暖流の強さが冬の水温と関係するのは、対馬暖流が強くなり始めてから日本海が暖まるまでしばらく時間が必要だからです。
去年の年末から今年の冬に関しては多くの雪が降りました[4]。この雪に強い対馬暖流の影響がどれだけあったかは興味深い研究テーマです[5][6]。
- [1]「1月の沖縄地方の平均気温と沖縄周辺海域の海面水温が過去最高」(報道発表資料, pdf, 2017年2月1日)↩
- [2]黒潮と対馬暖流の関係はやや複雑です。くわしくは2016/8/5号で紹介した書籍「海の教科書 波の不思議から海洋大循環まで」の第4章で解説されています。↩
- [3]参考文献
1. Hirose N, Fukudome K (2006) Monitoring the Tsushima Warm Current Improves Seasonal Prediction of the Regional Snowfall Sola 2:61-63 doi:10.2151/sola.2006-016 (英語)2. Hirose N, Nishimura K, Yamamoto M (2009) Observational evidence of a warm ocean current preceding a winter teleconnection pattern in the northwestern Pacific Geophys Res Lett 36 doi:10.1029/2009gl037448 (英語)
3. 広瀬直毅・山本勝・西村和也・福留研一 (2007) 対馬暖流と冬季降水量の関係, 気象研究ノート216: 2005/06年 日本の寒冬・豪雪, 第16章
- [4]例えば、「1月の天候」(気象庁, 2017/2/1)。↩
- [5]雪の量は海の温度だけでは決まらないので大気の状態も考慮に入れる必要があります。↩
- [6]筆者(美山)は科研費基盤(A)「日本周辺の海面水温場が局所的な豪雨・豪雪の予測可能性に与える影響の定量的評価」(中村尚・代表、平成28-31年度)の連携研究者です。↩