新青丸航海
6月20日から7月4日にかけて海洋研究開発機構所有の東北海洋生態系調査研究船「新青丸」により、東北沖での調査航海が実施されます(2025年度共同利用採択課題KS-25-5「黒潮続流の異常北偏が東北地方の気象および大気海洋間CO2交換に与える影響」 主席研究者:山口凌平)。筆者(美山)も乗船します。学術変革領域研究(A)「ハビタブル日本」の研究の一環でもあります。
親潮ウォッチでも書いてきた通り、黒潮続流の北偏が2022年後半から継続し、東北・北海道沖の海水温は異常に上昇しました[1]。現在は最も水温が高かった時ほどではないものの、所により高めの水温となっています。本調査研究では、その異常高海水温の形成メカニズムと、周辺気象および海洋低次生態系・物質循環への影響を調べます。
高海面水温の大気にも影響を与えています[2]。そこで、海面水温前線域で海面水温の影響を受け変質する大気を3次元的に捉えるための集中的な大気観測も、三重大学練習船「勢水丸」と東京大学大気海洋研究所大槌沿岸センターと共同で行います。
見通し(長期予測)
海洋予測モデルJCOPE2Mで、約2か月先までの予測を行っています。図1はJCOPE2Mによる水深100メートル[3]で6月11日の水温(色、℃)と流れ(矢印)です。赤色が黒潮の影響を受けた暖かい水温で、青色が親潮の影響を受けた冷たい水温です。親潮の影響を受けている範囲の指標として、水温5°Cに赤線を引いています。
2024年は黒潮続流(A)が例年に比べて異常に北上していましたが、今年の2月頃にその部分が暖水渦(B)として取り残される形で、それほど北上しない形で東に流れるようになっていました(「2024年(+2025年1~3月)の親潮を振り返る」参照)。とはいっても、かなり高い緯度まで黒潮続流が北上しています(A)。Dの部分は渦としてちぎれそうな形をしています(図5も参照)。
暖水渦のあるところでは水温が高い一方、そうでない東北沿岸は水温が低めになっています。気象庁の推定する親潮面積は平年よりも小さくなっています。
今後は、黒潮続流の北上していた部分(A)が渦Bにくっつく形で渦Bが強化されそうです(図2~3)。黒潮続流では、新たな北上部ができるという予測になっています(F 図3)
日本海では、日本海北部で水温5度線の分布が平年より広く(図1)、今後もそれが続く予測です(D)。
図4は2025年6月11日から8月20日までの予測をアニメーションにしたものです。

図1: JCOPE2Mによる2025年6月11日の水深100メートルでの水温(色、℃)と流れ(矢印)。赤色が5°Cより高い黒潮の影響を受けた暖かい水温で、青色が5°Cより低い親潮の影響を受けた冷たい水温。親潮の影響を受けている範囲の指標として水温5°Cに太い赤線を引いた。青線は1993-2020年平均の水温5°C線で平年の親潮の影響範囲。
図4: 図1に対応する2025年6月11日から8月20日までの予測のアニメーション。クリックして操作してください。途中で停止もできます。
短期予測
長期予測(JCOPE2M, 約9kmメッシュ)よりも高分解能のモデル(JCOPE-T DA, 約3km)による20日予測のアニメーションを、YouTubeに1週間に一度の間隔で掲載しています。親潮ウォッチの更新は月に一回ですが、一週間に一度の予測のアニメーションも参考にしてください。
今月のハイライト: 黒潮続流と暖水渦
JAXAひまわりモニタ・海中天気予報のサイト (解説は「JAXAひまわりモニタ・海中天気予報のサイトがリニューアル」) 。このサイトでは上の予測(JCOPE2M, 約9kmメッシュ)よりも高分解能のモデル(JCOPE-T 1ks 約1kmやJCOPE-T DA 約3km)の様々な図を見ることができます。モデルの結果と人工衛星「ひまわり」の図を重ねることもできます。
図5は、6月18日の「ひまわり」観測の海面水温です。
黒潮続流の北に暖水渦BとCがあります。Dの部分も黒潮続流から切り離されそうになっています。
暖水渦Bは黒潮続流から完全には切り離されてはおらず、黒潮続流から暖水が流れ込んでいるように見えます。

黒潮親潮ウォッチでは、親潮の現状について月に一回程度お知らせします。親潮に関する解説一覧はこちらです。 JCOPE-T-DAによる短期予測はJAXAのサイトで見ることができます。 4日毎に更新されるJCOPE2Mによる親潮の長期解析・予測図はJCOPE のweb pageで見られます。親潮関係の図の見方は2017年1月18日号と2017年2月1日号で解説しています。
- [1]参考: 「2023年以降、三陸沖での水温上昇は世界で過去最大~黒潮続流の異常進路が示す未来~」(2025/2/14 東北大学プレスリリース) ↩
- [2]参考:
「2023年北日本の歴代1位の暑夏への海洋熱波の影響がより明らかに」(2024/7/19 気象庁プレスリリース)
「近年の黒潮続流の大蛇行に伴う海洋熱波が豪雨の発生をもたらしたことを解明」(2025/2/19 立正大学プレスリリース)↩ - [3]天気の影響を受けやすい海面よりも海流の状態を反映していると考えられます。↩