黒潮大蛇行が終わる時: 2005年の場合

典型的な黒潮大蛇行の終わり方を、前回の大蛇行が終了した2005年を例にして見てみます。一方、2017年から始まった今回の大蛇行はあまり典型的でないようです。

典型的な黒潮大蛇行の始まりと終わり

まず図1ので、典型的な黒潮大蛇行を説明します。「2004年の黒潮大蛇行と今年(2017年)の比較」などで説明した通り、九州南東の小蛇行と呼ばれる現象が(図1a)、東に進みながら成長することで黒潮大蛇行が始まります(図1b)。反時計回りの渦(オレンジの矢印)の成長の見ることもできます。

黒潮の渦は、黒潮の強い流れによって通常は東に流されます。しかし渦はスケールが大きくなると、西向きに進もうとする効果[1]が強くなってきます。そのため、黒潮大蛇行のように渦が大きくなると、黒潮の東に流そうとする力に釣り合うようになり、渦が停滞します。さらに、黒潮大蛇行の東には伊豆海嶺とよばれる海底地形があり、これも黒潮大蛇行の渦が東に流されにくくします。こうして黒潮が東に流そうとする力と、それに抵抗する力がバランスして黒潮大蛇行は長期間続きます(図1b)。

黒潮が強くなったり渦が弱まったりすると、バランスがくずれ、渦が東に流され始めます。渦が伊豆海嶺を乗り越えるようになると、地形は渦を弱めるように働きます。こうして渦が弱まりながら東に流されることで黒潮大蛇行が終了していきます。

Fig1

図1: 典型的な黒潮大蛇行の始まりから終わりまでのイメージ。色は海底地形で海の深さ(単位: メートル)。は八丈島の位置。(a) 黒潮大蛇行以前。小蛇行。(b) 黒潮大蛇行期。 (c) 黒潮大蛇行終了期。

 

2005年の場合

前回の2004年7月から2005年8月まで続いた黒潮大蛇行は、典型的な大蛇行でした。2004年に黒潮大蛇行が始まる様子は「2004年の黒潮大蛇行と今年(2017年)の比較」や、「2017年の黒潮をアニメーションで振り返る」の図3で見てますので、ここでは2005年に黒潮大蛇行が終わる様子を見てみます。

図2は、まだ黒潮大蛇行が続いていた2005年1月1日から、黒潮大蛇行が終わった後の10月31日までのアニメーションです。過去の海況をよく再現するデータであるJCOPE2M再解析を使用しています。矢印(ベクトル)は海面近くの流れの向きで、色は海面高度です。黒潮大蛇行が次第に東に流されて消えていく様子を見てください。


図2: 観測値を取り入れて作成した推測値(JCOPE2M再解析)の2005年1月1日から10月31日までのアニメーション。矢印(ベクトル)は海面近くの流れの向き(メートル毎秒, 長いほど速い流れ)、色は海面高度(メートル, 相対値)。赤丸()が八丈島の位置。クリックして操作してください。途中で停止もできます。

八丈島の潮位

このような黒潮大蛇行の終了を簡易的に見る方法があります。過去の解説[2]、伊豆諸島付近の黒潮流路を判断するには、八丈島での海面高度(潮位)を見れば良いことを説明しました。流れの強い黒潮をはさんで、本州に近い方は海面高度が低い、逆の沖側では海面高度が高いという関係があるからです(図2参照)。黒潮大蛇行以前(図1a)や黒潮大蛇行時(図1b)のように黒潮が八丈島()の北を流れる場合は、八丈島の潮位は高くなります。一方、黒潮大蛇行が終わっていく時(図1c)は、黒潮が八丈島の南を流れるようになるため、八丈島の潮位は低くなっていきます。その様子は図2のアニメーションでみることができます。

観測を確認してみましょう。図3は、過去の解説でも使用した、東京大学大気海洋研究所の「潮位データを用いた黒潮モニタリング」から、八丈島での海面高度(潮位)の2004年から2005年の変化をグラフ作成したものです。八丈島の潮位は2005年の1月から徐々に低下し、黒潮の蛇行が次第に東に移動し、黒潮大蛇行が終了していく様子がとらえられています。

Fig3

図3: 東京大学大気海洋研究所「潮位データを用いた黒潮モニタリング」の「各潮位データの図示」から、「期間: 2005年までの 2年間」で、「八丈島」でグラフ作成。単位はセンチメートル。矢印と字で注釈を追記した。

2017/2018年の場合

2017年から始まった黒潮大蛇行は、2004/2005年の大蛇行ほど単純ではないようです。図4は、図3に対応する図を、2017年から2018年で作成したものです。

まず、黒潮大蛇行以前に八丈島の潮位が大きく変化しています。これは「2004年の黒潮大蛇行と今年(2017年)の比較」で解説したように、2004年とは違って、2017年は黒潮が大蛇行以前に複雑な動きをしたためです。

黒潮大蛇行が始まってからも、図3のように徐々に低下するのではなく、図4では急激な低下を何回か繰り返しています。これらの低下は短期的な低下にとどまり、現在のところ長期的な傾向は見られていません。八丈島の水位が複雑に変化していることから、今回の大蛇行の終了を予測するのは2005年の時より難しくなるかもしれません。

図4: 東京大学大気海洋研究所「潮位データを用いた黒潮モニタリング」の「各潮位データの図示」から、「期間: 2018年までの 2年間」で、「八丈島」でグラフ作成。単位はセンチメートル。矢印と字で注釈を追記した。

 

 

  1. [1]このような効果はベータ効果と呼ばれており、地球が丸いので緯度によって地球の回転の効果が変化することで発生します。
  2. [2]過去の八丈島水位の解説一覧はこちら