親潮域があったかくなっているって聞いたけど?(親潮ウォッチ2015/5)

4月前半までは、親潮域で冷たい海面水温が目立っていたことがAPLコラム「茨城県の海岸に打ち上げられた多数のイルカと海洋異変について」で述べられています。その後、5月にかけて状況が一転して、平年よりも暖かい海水面の領域が増えてきました。図1の色は、今年の5月1~15日の海面水温が平年値(※1) とどのくらい違っていたかをJCOPEで推定したものです。特に緑で囲った領域では、例年よりも4度から5度以上高いところが見られます。緑の領域で5月 1日から15日の海面水温を平均して過去の年と比較すると(図2)、JCOPEのデータが利用できる1993年以降、今年が最高の温度です。今後、漁業などに影響が出てくるかもしれません。

なぜ、このような温度上昇が見られたのでしょうか?この時期、天候が良く暖められたという側面もありますが、ここでは時計回り渦(高気圧性渦※2)によって運ばれた暖水の影響が大きいです。図1の矢印は海面での海流の流れで、時計回りの渦の中に暖水が取り込まれているのがわかります。この暖水は黒潮から派生して、南から渦にのって北に流されてきたものです。この領域では黒潮から派生した水が時計回りの渦に乗ってしばしば北に流されることは知られていますが(※3)、なぜ年によって変動が生じるかはわかっていないことが多く、研究の最前線です(※4)。

図3に、4月1日から5月31日(5月17日以降は予測値)までの、水深100mの水温と海流の流れをアニメーションでしめしています。なぜ水深100mかというと、海面とは違い直接天候から影響を受けないので、より海洋の動きを捉えられるからです。時計回りの渦にのって暖水が北に広がっていることがわかります。図には水温5℃の等温線もしめしてます。水深100mで5℃の以下の領域は親潮の影響範囲の指標として用いられており(※5)、暖水の広がりとともに親潮の影響範囲が後退しています。

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図1: JCOPEで推定した2015年5月1から15日平均。矢印は海面での流れ、色は海面温度(ºC)の平年値からの差。赤っぽいところが平年よりも海面温度が高いところ。

 

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図2: 図6の緑枠(145-148ºE,40-42ºN)での5月1~15日平均の海面温度の平年値からの差の時系列。横軸は年。

 

図3: JCOPEで推定した2015年4月1日から5月31日までの水深100mの水温(℃、色)と流速(矢印)。5月17日以降は予測値。黒の等値線は水温5℃。

 

 

※1 JCOPEの1993年から2012年の20年平均を平年値とした。

※2 北半球の気象で見られる高気圧の循環のように時計回りに回るために高気圧性循環と呼ばれます。ただし、ここで高いのは気圧ではなくて、水圧です。暖水がまとまって動くので、暖水塊とも呼ばれます。

※3 参考資料:東大大気海洋研究所・伊藤幸彦/安田 一郎「黒潮とオホーツク海の遭遇 ~渦に運ばれる暖水と冷水の結合~

※4 参考資料: 新学術領域研究・杉本 周作 (東北大学)「日本東岸沖の海と大気は10年で変わる 〜その原因は黒潮続流にあり!?〜

※5 気象庁「親潮の面積の時系列

 

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