最近の水温の状況と台風の影響(2019/8)

最近の水温の状況

先月から今月にかけての日本水温の状況を見てみます。

図1は、7月15日と8月15日の海面水温の平年との差を見たものです[1]。平年より高い場所が赤っぽい色、低い場所では青っぽい色になっています。図2は、同じく7月15日と8月15日の、水深100mの図です。水深100mでも海面と同じ変化が見られれば、水温の平年との差が天気だけでなく海流の影響を受けている可能性が高くなります。

7月15日から8月15日の間には暑い日が多く、東日本周辺や日本海では、図の上段に比べて図の下段では平年より水温が高い所が多くなっています。一方で、本州の南方や沖縄周辺では、この間にいくつか通過した台風(台風5,6,8,9,10号。台風の経路は図1下段の線。)の影響があり、平年より冷たい海域が目立ちます(図中のC周辺)。

海面水温が高くなったため、7月15日には見えていた黒潮大蛇行による水温低下が(図1上段A)、8月15日には見えなくなっています(図1下段A)。これは黒潮大蛇行が消えてしまったわけではなく、水深100mの図(図2)では、しっかり残っています。図1の変化は海面近くだけ天気の影響を受けたものであることがわかります。

北海道から東北の東方沖で見られる平年より特に高い温度(B)は、海面(図1)だけでなく水深100m(図2)でも見られることから、海流の影響を受けていることがわかります。「サンマが気になる季節(親潮ウォッチ2019/8)」で解説したように、黒潮からの暖水渦の影響です。

今後の日本周辺の水温については、姉妹サイトの「季節ウォッチ」も参考にしてください。

Fig1

図1: 海面温度の平年との差(℃)。[上段]2019年7月15日。[下段] 2019年8月15日。台風5,6,8,9,10号の経路を加えた。台風経路データはデジタル台風から入手した。

Fig2

図2: 水深100mの水温の平年との差(℃)。[上段]2019年7月15日。[下段] 2019年8月15日。

台風の影響

黒潮親潮ウォッチでは短期予測で使用しているJCOPE-T DAの図を使って、台風通過の影響をさらに見てみましょう。JAXAと共同で運用しているJCOPE-T DAは、JAXAの記事「シリーズ衛星データと数値モデルの融合(第2回)衛星海面水温を用いた「海中天気予報」システムの運用を開始しました」でも取り上げられているように、人工衛星では観測出来ない台風通過時の雲の下の海洋状態も推定することができます。JAXAのサイトで公開されている画像の見方は、「JAXAと共同で新しい海洋予測を開始」で解説しています。

図3では人工衛星「ひまわり」観測とJCOPE-T DAを比較するサイトを使って、8月6日、8月9日、8月14日の変化を見てみました。

図3の左側は、「ひまわり」で観測したクロロフィルa濃度(プランクトン量の指標)にしてあります。雲が広がって観測できない領域(灰色になっている領域)の広がりで、台風の位置がわかります。図3の右側はJCOPE-T DAで推定した海面水温です。

8月6日の段階(図3a)では、台風8号の通過のために小笠原周辺でやや水温が低くなっているものの(図3a右の黄矢印)、日本南方の水温はまだ高くなっています。

8月9日の図(図3b)では、台風10号の下に穴のような形で海面水温が低くなっている領域が見られます(図3b右の黄矢印)。図3bには台風9号の影響で水温が低下した所も見られます(図3b右の白矢印)。

この時期、台風10号は動きが遅く停滞しており、その直下で水温が大きく変化したようです。JCOPE-T DAの水平分布と深さ(鉛直)方向の分布を可視化するサイトを使って、図4でこの地点の様子をさらに見てみました。図4はこのサイトを使って、図3bと同時刻の海面水温分布と深さ方向への変化を見たものです。このサイトでは色の範囲を指定して変えられるので、水温20℃から30℃の範囲に色を限定して、温度の違いを見やすくしています。水平図(図4a)で温度が低下した地点をクリックして、赤線の交差地点を移動して、深さ方向の水温の東西断面(図4b)と南北断面(図4b)を見ると、この地点で深海の冷たい水が浅い所まで上がってきているのがわかります。

図3cは8月14日の図です。台風10号が移動することで、局所的な穴のような形の水温低下ははっきりしなくなりますが、水温が低下した領域が広がっています。興味深いことに、図3bで見た台風10号による局所的な水温低下地点で、クロロフィルaの濃度が上昇しているのが見られます(図3c左の黄矢印)。これは図4で見られた水温低下と共に、栄養塩が深層から上昇することで光合成が増加し、プランクトンの量が増えたことによるものと推測されます。これも台風の影響の一つです。

JAXAのサイトでは台風の影響に限らず海洋状態とプランクトンの分布の関係が見られるので、いろいろ試して見ると面白い発見があると思います。

FIg3

図3: 人工衛星「ひまわり」観測とJCOPE-T DAを比較するサイトで見た「ひまわり」が観測したクロロフィルa濃度(左)とJCOPE-T DAによる海面水温の推定値。(a) 2019年8月6日、(b) 8月9日、(c) 8月14日の13時台。

 

 

Fig4

図4: JCOPE-T DAの水平分布と深さ(鉛直)方向の分布を可視化するサイトで8月6日13時台の海面水温とその深さ方向への変化を見た図。

 

 

  1. [1]この記事では、今年の値はJCOPE2Mを使っています。平年の値はJCOPE2M再解析の1993~2016年の平均を使っています。