がっつり深める
オマーン掘削プロジェクト~かつての海洋プレートを掘る!~
第2期は、はんれい岩とかんらん岩の境界を掘り出す!
――2017年11月から、第2期が始まりましたね。
第1期でははんれい岩とかんらん岩をそれぞれ掘削しましたが、第2期ではそれらの境界を掘削する予定です。そして我々は、その境界が「モホロビチッチ不連続面(モホ面)」かどうかを検証します。
――モホ面とは、何ですか?
モホ面は、地球内部を地震波で調べたときに、その速度がジャンプするように急激に変わるところです。地震波(P波)の速度はモホ面の上ではだいたい秒速7km以下ですが、モホ面の下では秒速8kmに達します(図7)。モホ面がある深さは、海底下は約6km、大陸下は30~70kmです。
――なぜ、そんなジャンプが起こるのですか?
地震波の速度は物性によって変わります。その物性は、物が大きく違えば変わります。だから速度ジャンプが起こる原因は“はんれい岩(地殻)とかんらん岩(マントル)の境界”ではないかと考えられてきました。しかし、物質を直接見たわけではないのでわかりません。
一方で、速度ジャンプが起こる原因は“蛇紋岩とかんらん岩の境界”ではないかという説もあります(図8)。蛇紋岩は、かんらん岩が海水と反応してできる岩石です。蛇紋岩はかんらん岩と化学組成が同じで物質的な違いはないのに、なぜか地震波速度が秒速7kmです。これが原因で速度ジャンプが起こる可能性も残されています。
オマーンオフィオライトでは、はんれい岩とかんらん岩の物質境界が見てとれます。しかし地震波を計測していないので、その境界がモホ面にあたるかはわかりません。
第2期では境界を深く掘って新鮮な岩石を連続的に採りだし、地震波速度を測ります。もし、はんれい岩で秒速7km、かんらん岩で秒速8kmという値がでれば、2つの岩石の境界でモホ面を形成していると言えます。そうでなければ…例えば蛇紋岩化の境界だったり、断層のような構造的な変化だったりなど、別の原因が出たりした場合、結果次第では教科書が変わるかもしれません。第2期の分析がとても楽しみです。
――そのモホ面を知ることは、どんなことにつながっていくのでしょうか。
海洋地殻をつくるはんれい岩は、マントルから上がってきた玄武岩質のマグマが冷え固まってできたものです。だからマントルからのマグマ生成率や放出される熱量は、地殻の厚さ、つまりモホ面の深さから見積もられてきました。もし蛇紋岩とかんらん岩の説が正しいとなると、マグマの生成率も熱量も大きく変わることになります。
――それは、すごいことですね…!
オフィオライトは、かつての海洋プレートの断片だと考えられています。陸上に露出するまでの過程で変成や変形をしているので、完全に海洋プレートそのものではありませんが、オフィオライトの構造や物質を詳しく調べれば、海底下の海洋プレート構造や物質に関して新たな知見を得ることができるでしょう。海底下の構造は直接目で見ることができませんが、オフィオライトでは広い範囲で構造を見ることができるので、こうした分析結果は、地下構造の推定に大いに役立つでしょう。オマーン掘削は、海底からマントルまで掘削するための重要なマイルストーンになると思います。
――ありがとうございました。