IPCC第52回総会(2020年2月24-28日、パリ)の様子 [写真撮影:日本気象協会]

がっつり深める

研究者コラム

コロナ禍のIPCC報告書作成プロセスへの影響

記事

地球環境部門 環境変動予測研究センター
センター長 河宮 未知生

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、気候変動予測研究や活動にも影響を与えています。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は1988年、地球温暖化について科学的、技術的、社会経済的見地から評価を行うことを目的に、国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)によって設立されました。2007年には、IPCCがノーベル平和賞を元アメリカ副大統領アル・ゴアと共同受賞したことでも記憶されている方も多いでしょう。

IPCCは数年に一度、温暖化研究の最新成果をまとめた報告書を発行していますが、この報告書は、気候変動への対応を検討するうえで最も信頼のおける基礎資料として、国際的な政策や交渉に影響を与えています。2013年に「IPCC第5次評価報告書」が公表され、2021年に「IPCC第6次評価報告書(AR6)」の公表が予定されています。

今回のコラムでは、この「AR6」の作成にCOVID-19による影響が出ている現状について、IPCC報告書作成に関わり、温暖化研究の最前線で活躍するJAMSTECの研究者がご紹介します。

ちょっと長めのコラムですが、どのようなプロセスで報告書がまとめられているのか、COVID-19の影響に国際的な科学コミュニティはどのような対応をしているのかなど、新聞やテレビなどでは報道されない、リアルな研究現場の一端を知ることができますのでぜひご一読ください。(広報課)

新型コロナウイルス感染症は気候変動予測研究・活動にも影響している

世界の心胆を寒からしめている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、気候変動予測研究の活動にも大きな影響を与えています。本稿では、2021年に公表が予定されている「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の第6次評価報告書(AR6)の作成プロセスに対するCOVID-19の影響を報告します。

IPCCは国連に設けられた組織で、数年に一度公表する評価報告書は、気候変動への対応を検討するうえで最も信頼のおける基礎資料と認識されており、国際交渉にも影響を与えます。筆者は、IPCCに設置されたタスクグループ(TG-Data)のメンバーとして、IPCCのデータ利用に関わる運営業務に関わっています。また報告書の承認などを行うIPCC総会への日本代表団メンバーや、「IPCC第1作業部会国内幹事会」副代表として、国内のとりまとめも担当しています。さらにJAMSTECでは、2名の代表執筆者(Lead Author)と1名の査読編集者(Review Editor)が在籍しているほか、報告書のベースとなる科学論文を多数公表し、報告書草稿の査読に多くの在籍研究者が関わるなど、JAMSTECをあげて報告書作成に貢献しています。

COVID-19の流行はIPCC報告書作成プロセスへも影響を与え、筆者らも対応にあたっています。ここでは、特に自然科学的検証を受け持つ第1作業部会(WG1)に重点を置いて、原稿執筆時の2020年5月中旬時点での状況に基づいた報告を行います。

写真
   IPCC 第5次評価報告書の第1作業部会報告書

IPCC報告書はどのように作成されるのか

COVID-19の影響をお伝えする前に、もともと想定されていたAR6作成プロセスについて説明します。まずAR6作成作業の進行をつかさどる議長団(Bureau) は、2015年クロアチア・ドゥブロブニクでのIPCC第42回総会で選出されました。その後、AR6の章立て(Outline)を決めるスコーピング会合に続くIPCC第46回総会(2017年9月)において章立てが承認されました。承認された章立てに基づき、2018年4月には執筆陣が公表されています。以降、WG1のAR6公表まで、コロナ禍発生以前にもともと立てられていたスケジュールを図1に示します。

2018年6月にはWG1第1回代表執筆者会合(LAM1)が開催され、草稿執筆が本格的にスタートしました。執筆陣によって作成された草稿は、研究コミュニティに公開され、希望する研究者ならほぼ誰でも、申請のうえ草稿を入手し内容を審査することができます。この「査読」と呼ばれる過程を経て草稿に対するコメントが世界中から集められ、執筆者らはすべてのコメントに対して何らかの対応をする、という工程を2回繰り返します。2度目の査読では、気候変動問題にかかわる政策決定者向けに、大部となる報告書本体(前の第5次評価報告書は、WG1のものだけで1,535ページありました)の内容を要約した30ページ前後の「政策決定者向け要約」(Summary for Policymakers, SPM)の草稿が用意されます。こちらはIPCC参加各国の政府名義でも査読が行われます。研究者らによる査読は専門家査読、政府名義の査読は政府査読と呼ばれ、SPMの政府査読も2回行われます。そして2度目の政府査読と、それに対応した修正を経たSPM承認と報告書本体の受諾が、総会で審議されます。

気候変動の影響評価を担当する第2作業部会(WG2)や、緩和抑制策を評価する第3作業部会(WG3)は、半年ほど遅れて同様のプロセスを経たうえで公表されます。温暖化後の環境予測をまとめるWG1の成果は、影響評価や緩和抑制策の基礎となる情報を提供する役割を受け持つため、他の作業部会の報告書より一足早く公表されるのが通例です。

表
図1 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第1作業部会(WG1)の第6次評価報告書(AR6)作成スケジュール。コロナ禍発生以前に立てられた予定。現在は灰色の矢印で示した段階にある。IPCCウェブサイトより入手(2020年5月18日)した予定表を筆者が日本語訳したもの。

議論紛糾のIPCC総会

総会でのSPM承認はまだ先のことですが、30ページ前後におよぶ文章を、進行役が1文1文読み上げ、IPCCに参加する195か国の代表団からのコメントを受け付けることになります(報告書本体を読み上げることはせず、査読期間で目を通してあるという前提で会期中に受諾します)。SPMは、政治的立場に関係なく科学的知見を網羅したIPCCの評価報告書をまとめたものとはいえ、どういった観点に着目した表現をすべきかについては、参加各国によって立場が異なってきます。

揉める点としては、例えば過去の総会では、いわゆる2°C目標や1.5°C目標を達成するのに、人間社会が排出を許される二酸化炭素の量はいかほどか、という問題について甲論乙駁の議論を目の当たりにしたことがあります。過去の排出分に重点を置いた記述にするか、今後許される排出量に重点を置いた記述にするかという点が問題になりました。どちらかというと発展途上国は前者に、先進国は後者に重点を置く傾向があります。いずれにしても科学的に正しい記述はできるはずなのですが、限られた紙幅でバランスのとれた記述にたどり着くのには相応の時間を要します。

意見がまとまらないときには、本会議と並行して別の分科会が設定され、関心をもつ参加国の間で詳細に検討されます。分科会で合意された内容は再度本会議で審議にかけられ、そこで初めて正式に承認されます。ただし、代表団の規模は国によって差があり、1人だけの代表団もあります。分科会と本会議が並行して開催されると、代表団としてどちらかを聞けなくなってしまいます。そういうわけで、時として分科会を開催するかどうか自体で議論が紛糾します(日本は毎回10数人規模の代表団を派遣しているので、この点で不利益を被ることはあまりありません)。

こんな調子で審議が進むので、総会後半になっても承認が十分に進まず、最終日は徹夜、そのまま会期延長、といったこともしばしばです。それでも、AR6サイクルに入ってから公表された3つの特別報告書(1.5°C特別報告書、土地関係特別報告書、海洋・雪氷圏特別報告書)に関しては、時に揉めながらも何とかSPMの承認にいたっています。

表
2015年に国連の気候変動枠組み条約の締約国会議で採択された「パリ協定」では、産業革命前からの気温上昇を2°Cより十分に抑えるとともに、1.5°C上昇に抑える努力を継続する、という目標が掲げられた。2016年、パリ協定が発効。2018年には、IPCCが「1.5°C特別報告書」を発表した。

コロナ禍の影響 「締め切りを伸ばして!」

さてCOVID-19の影響に話を戻します。WG1評価報告書の作成プロセスは、今のところ図1の中ほどに付した矢印のあたりにあります。本来であれば研究者らによる2回目の本文の査読、および各国政府による最初のSPMの査読が終了している時期なのですが、コロナ禍の影響を受け、これらの査読の締切が6月5日に延長されています。草稿自体はインターネットを通じて配信され、研究者または政府関係者であれば世界中どこでも入手できるので、コロナ禍が発生したからといって締切を延ばす必要はないような気もします。が、研究者の中には大学教員も多く、オンライン授業への切り替え準備など大学としてのコロナ禍対応に時間を割かざるをえなかったり、教員でなくても職場への出入りができず資料の確認に手間取ったり、ということで締切延長を希望する声が世界中からあがったようです。

また図1からわかる通り、4回目の代表執筆者会合(LAM4)が6月1-6日に予定されていたわけですが、この会合は査読が終了していることを前提にしていたので、査読締切の延長とともに延期になっています。延期後の期日はまだ決まっていませんが、オンラインの形式ではなく、対面式での開催を目指しています。オンライン形式での国際会議は、時差への対処が難しく、また国によっては通信環境が十分でないかもしれないなど、国内でのオンライン会合より解決すべき問題が多くあります。ただ、対面式の会合が行える程度に世界の情勢が落ち着くまでには、相当の時間がかかるでしょうから、早くても年が明けて2021年になってからの開催になることが予想されます。

オンライン会合だけでは難しい報告書の作成

ただしそれまでの間、何も活動がないわけではなく、pre-LAM activitiesと称して一連のオンライン会合が予定されています。5月下旬の、オンライン会合用ソフトウェアのユーザーインストラクション的な会合から始まって、6月上旬から9月下旬にかけて、オンラインで様々な打ち合わせがなされる予定です。ただしわざわざ、”pre-LAM”(「代表執筆者会合以前の」という意味)と呼んでいることからわかるように、あくまで対面式会合を開催する前提での準備的な活動という位置づけです。こうした方針は、全参加予定者を対象に、然るべき形式についてのアンケートを実施するなどの検討を経た結果、たどり着いた結論です。

実はこの2020年4月には、WG3の第3回代表執筆者会合がオンラインの形式で開催されています。ただし、IPCC議長のHoesung Lee氏が「顔を合わせての会合と同じ成果は期待できない」と認めている通り1 、その効果や効率はどうしても落ちてしまいます。現実問題として、4月のWG3の会合は、世界保健機関(WHO)がCOVID-19の流行を「パンデミック」と宣言した3月11日直後の開催でもあり、とっさの対応として同じ日程でオンライン会合を開催するほかに手立てがなかったという事情はあったと思います。とはいえ、WG3の場合は11月にもう一度会合が予定されています。一方で、6月に予定されていたWG1の会合は、報告書作成までに予定されていた最後の、特に大事な会合です。やはり直接顔を合わせてのコミュニケーションが不可欠だということで「オンラインで代表執筆者会合を開催したことにはしない」という判断に落ち着いたものと思われます。

またWG2でも、今年8月から10月で予定していた査読期間を4カ月後ろ倒しにして今年12月から来年1月にかけてに設定し、また今年11月1-7日の開催予定だったLAM4を来年3月ころに延期するなどの対応をとっています2

1 https://www.ipcc.ch/2020/04/09/ipcc-wgiii-virtual-lam/
2 https://www.ipcc.ch/2020/04/24/ipcc-wgii-extends-ar6-schedule/

「第6次評価報告書」はスケジュール通り公表できるのか?

第4回代表執筆者会合の延期以降のプロセスに関しては、スケジュールの変更・維持についてまだ何も決まっていません。なので、この節以降で述べている延期の可能性などは、すべて筆者の個人的見解であることにご留意ください。

予定に従えば、WG1の評価報告書草稿は2021年4月の第54回IPCC総会に諮られ、SPMの承認と報告書本体の受諾が行われるはずです。しかし、LAM4が2021年に入ってから開催されることになれば、この総会で報告書の審議にこぎつけることは、非常に困難と言わざるをえません。というのも、総会前にSPMの2回目の政府査読を行う必要があるからです。元々の予定では、今年12月7日から来年1月31日の2カ月近くにわたって、各国政府がSPM草稿の内容を詳細にチェックしコメントを送ることができる査読期間が設けられていました。科学的妥当性という条件を満たしたうえで、各国の意見が十分反映されていることは、SPM承認にあたっての大前提です。このステップをおろそかにすることは受け入れられないでしょう。

とすれば、来年4月で報告書の審議を行うためには、この5月終わりころから9月にかけての pre-LAM activities で相当程度、いま行われている査読(2回目の専門家査読、最初の政府査読)で得られたコメントへの対応に関し、執筆者間での意識合わせを進める必要があります。しかし、6月5日まで査読期間が延長されているため、9月までのpre LAM activities のオンライン形式での会合で執筆者間のコメント対応の意識合わせをすることは大変困難です。来年4月のIPCC総会で予定通りの審議を行うことは難しいのではないでしょうか。前節で述べた既決のスケジュール変更に加え、今後も何らかの予定変更が加わる可能性は高いと筆者は考えています。

なお他の作業部会(WGs2,3)について言えば、もともとがWG1より半年ほど遅れて評価報告書を公表する予定であったため、全体のスケジュールをいくらか後ろ倒しにしても、予定通りの公表が不可能というわけではないと思います。

ただしこの点も、この先の情勢による部分が大きく予断は危険でしょう。さらにその後には、3つの作業部会による評価報告書を俯瞰・統合した統合報告書(Synthesis Report, SYR)の公表が予定されています。ただしSYRの公表はもともと2022年の予定でかなり先の話ですので、作業プロセスへの影響は現段階では全くの未知数です。

「第6次評価報告書」が遅れるとどのような影響があるのか

WHOによるパンデミック宣言の直前、2月24-28日にパリで開催されたIPCC第52回総会(図2)では、IPCCの作業ペースを遅らせるのではなく、むしろ速める可能性が取りざたされていました3 。これは、「国連気候変動枠組み条約」(UNFCCC)の実現のため2015年に合意されたパリ協定で、2023年の第1回を皮切りに5年に1回の「グローバル・ストックテイク」(GS)と呼ばれる国際交渉の場を持ち、参加各国の温暖化対策を総ざらえして検討し、必要に応じて追加の対策も協議することになったことと関係しています。

GSは、開催時点での最新の科学的知見に基づいて対策の検討がなされることになっています。AR6のサイクルが無事に進めば、2022年にはSYRも公表され、適切なタイミングで科学的知見の提供がなされることになります。ただしその次、2回目のGSは2028年ということになります。これまでIPCCの評価報告書は6-8年おきに公表されてきましたので、単純に考えるとIPCCの次のサイクルではSYRの公表が早くても2028年となってしまいます。これは2回目のGSと同じ年になってしまい、多岐にわたる交渉への事前インプットとしては適切な時期の公表とは言えません。さらにその先まで考えると、5年おきのGSと6-8年おきのIPCC報告書とでは当然どんどん時期がずれていってしまいます。 “policy-relevant, but not policy-prescriptive”(政策に関係するが、政策そのものではない)というIPCCの原則4に照らし合わせてどうなのか、という議論が、IPCC総会の場などで続いています。

いろいろな意見がありますが、IPCCもやはりGSと時期を合わせたサイクルにしていくことが大切だろう、という意見に対応して、まずはAR6から次のサイクルへの移行を早める提案がなされていました。一方で、政策立案に対して重要な知見をまとめること自体がIPCCの役割であり、GSとサイクルを合わせなくてもその存在意義はいささかもゆるがない、とする意見もあり、2回目のGSに対しては特に何もしないか、短めの特別報告書4をまとめるので十分とする提案もなされています。

今のところ、COVID-19によるIPCCの作業プロセスの遅れは、2022年のSYR公表までに取り戻すことが可能な範囲内だとは思います。しかし、次のサイクルへの移行を早めることは難しくなった気がしており、影響が今後も拡大するようであれば、GSのような国際交渉にも影響が出てくるかもしれません。世界の国々を巻き込んだ交渉ですので、たとえアジアや欧米といった一部の地域で状況が落ち着いても、今後冬季に入り流行の拡大が懸念されている南半球の国々で事態が悪化すれば、それに合わせた調整を行わざるをえないのです。

なお、コロナ禍を発端とした経済の悪化で二酸化炭素排出量が減ったことで、気候変動対策そのものにも影響があるのではないという疑問もあると思います。新聞報道5などによれば今年の二酸化炭素排出量は前年比で5-8%程度の減少が予想されています。大幅な減少ではありますが、パリ協定で取り上げられた1.5°C目標の達成のためには、あと30年くらいで排出をゼロに近くする必要があります。つまり年3%ほどの減少を、毎年続けないといけない、ということです。コロナ禍の収束後に排出量が戻るようであれば、「猶予期間」が2-3年程度長くなったにすぎません。1.5°Cなどの野心的な目標を達成するためには、ある年に特異的に排出を減らすだけではなく、社会構造を根本から変えていく必要があります。今回のコロナ禍のような大きな経済打撃をもってしてもこの程度の効果、ということは、見方を変えれば根本的な対策の難しさを物語っていると解釈することもできます。

写真
図2 IPCC第52回総会(2020年2月24-28日、パリ)の様子。この時期はイタリアで感染が拡大していたが、フランスでは感染者が出始めていたころだった。中国代表団はCOVID-19の影響で入国できず、不参加だった。[写真撮影:日本気象協会]

3 https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/2019/12/120220200944-Doc.5futureworkIPCC.pdf
4 https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/2018/04/ipcc-statement-principles-procedures-02-2010.pdf
5 例えば、日本経済新聞5月10日朝刊「温暖化ガス、コロナで急減 今年、リーマン時の6倍」

コロナ禍収束後の気候変動予測研究

今の状態の延長としてコロナ禍が落ち着いたとしても、第2波、第3波への懸念から、人々が自由に国境を越えて行き来するようになるのには、流行の終息から幾分の時間遅れが必要かもしれません。国際的なコミュニティでコロナ禍以前のように共同作業を進められるようになるか否かについては、流行の終息以外の要素も絡んでくるでしょう。

それでは、IPCCやUNFCCCの行く末は新型コロナウイルスの振る舞い次第かというと、それだけではないとも思います。ワクチンや新薬の開発が劇的なスピードで進み世界中にあっという間に流布する可能性がないとは言えません。そこまで楽観的でなくても、オンライン形式での会合に人々が慣れてきたりソフトウェアが発展したりして、対面式に近いコミュニケーションや意思決定が可能になるかもしれません。

今回のコロナ禍では、事態の収束に向けて人々が時に強制的に時に自発的に自身の行動を劇的に変容させました。筆者の立場でとくに印象的だったのは、専門家によるシミュレーションモデルの結果を一般の人たちが相当程度信頼し、自分にとって短期的には不利益になる行動も受け入れたことです。翻って、筆者を含め、シミュレーションモデルをツールとした気候変動予測を専門とする研究者たちが同じような信頼を得ているか、という点に思いを致すと、身が引き締まる思いがします。

収束後しばらくは、社会がコロナ禍で負った傷から立ち直っていく過程で人々が変化を余儀なくされることがあるでしょう。でもそれは決して不可能なことではないし、変化のなかでレガシーとしてその後の社会でも継承されていくものが生まれうる、ということが今回の事態で証明された気がしています。

写真
「IPCC第6次評価報告書(AR6)」に向けたシミュレーションモデル研究の一例

参考資料
JAMSTECの広報誌Blue Earthには下記の参考記事がありますので合わせてご覧ください。
BlueEarth129号特集『地球温暖化の行方「IPCC第5次評価報告書」を読み解く』では、「第5次評価報告書」について解説。
BlueEarth154号特集「温暖化対策に貢献する地球システムモデル」では、パリ協定について、また「IPCC第6次評価報告書」に向けたJAMSTECの取り組みについて解説しています。

河宮 未知生

地球環境部門 環境変動予測研究センター
センター長