現在、熱帯太平洋はほぼ全域で、平年より水温の高い状態が続いています。専門家の間では、今後、ラニーニャ現象が発生するのかどうかが注目されていますが、今のところ予測が不確実な状況です(例えば、コロンビア大学IRIのサイト)。今後の熱帯太平洋の動向も気になるところですが、これからの季節は、熱帯インド洋の動向にも注意する必要がありそうです。それは、熱帯インド洋で負のダイポールモード現象が発生する可能性が高まっているためです。2017年、2018年、2019年と3年連続で正のダイポールモード現象が発生していましたが、予測通りに進行するならば、2020年は、2016年以来、4年振りに負のダイポールモード現象が発生することになります。
負のインド洋のダイポールモード現象とは?
インド洋のダイポールモード現象は、熱帯インド洋で見られる気候変動現象で、数年に1度くらいの頻度で、夏から秋にかけて発生します。ダイポールモード現象には正と負の現象があり、特に負の現象が発生すると、熱帯インド洋の南東部で海面水温が平年より高く、西部で海面水温が低くなります。この水温変動によって、通常時でも東インド洋で活発な対流活動が、さらに活発となり、インドネシアやオーストラリアで雨が多くなります。一方で、東アフリカでは干ばつが発生しやすくなります。2016年に負のダイポールモード現象が発生した際は、東アフリカの多くの地域で深刻な干ばつが発生し、食料や飲み水の安全が脅かされました。負の現象の日本への影響はまだよく分かっていません(正の現象発生時は、日本は猛暑になりやすい傾向があります)。また、地球温暖化が進行すると、ダイポールモード現象が極端化・頻発化する可能性が指摘されています。
インド洋ダイポールモード現象の発生は事前に予測できるか?
インド洋ダイポールモード現象は、最先端の科学技術でも、数ヶ月前から事前に予測することが難しいとされています。その中で、アプケーションラボのSINTEX-Fと呼ばれる予測シミュレーションは、スーパーコンピュータ”地球シミュレータ”を使って、数ヶ月前からインド洋ダイポールモード現象の発生予測に成功した実績があります(例えば、昨年の正のダイポールモード現象の発生予測は的中しました。詳しくは、プレスリリース「2019年スーパーインド洋ダイポールモード現象の予測成功の鍵は熱帯太平洋のエルニーニョモドキ現象」)やコラム「今夏、インド洋に正のダイポールモード現象が発生」)。
このシミュレーションを使って、今夏から秋にかけてのインド洋ダイポールモード現象の発生を、2020年5月1日時点で予測したのが、図1です。強さの不確実性は残るものの、この夏から秋にかけて負のインド洋ダイポールモード現象が発生する確率がかなり高いと予測しています。
また、世界の他の予測シミュレーションでも、同様に、負のインド洋ダイポールモード現象が発生する確率が高いと予測しているようです(豪州BoM、 北米マルチモデル予測、 APEC Climate Center など)。
今後も、熱帯インド洋の状況に注意していく必要があります。アプリケーションラボのSINTEX-F予測シミュレーションの結果は毎月更新されます。最新情報は、季節ウオッチ、APL VirtualEarth などをご参照ください。