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研究者コラム

【トンガ海底火山噴火】フンガトンガ・フンガハアパイ火山の噴火がもたらした日本列島沿岸の津波

記事

フンガトンガ・フンガハアパイ火山の噴火

2022年1月15日13時頃(日本時間)にフンガトンガ・フンガハアパイ火山が噴火しました。噴火に伴った大規模な地形変化については、今後の詳細な調査が待たれるところではありますが、この火山爆発指数(VEI,※1)は6クラス、マグマ噴出量は四立方キロメートルともいわれています。この火山噴火により285ヘクタールにおよぶ火山島は消失しました。

この噴火による衝撃波で駆動された大気圧変動と火山島の消失に起因した地形変動により津波が発生し、噴火発生からおおよそ7時間後に日本列島沿岸に到達しました。火山性津波は噴火に伴う山体崩壊やカルデラ形成が引き起こす海面変動で発生することが多く、当初はこのような現象により津波が生じたと仮定して日本列島に到達する時間を予測すると噴火発生からおおよそ10時間後とされていました。しかし、実際には小笠原諸島の父島で1月15日19時58分、本州の千葉県勝浦で同日20時20分に海面変動が観測されました(※気象庁報道発表)。津波走時に基づいて予測された時刻は23時頃でしたから、3時間も早く津波が到達したことになります。

日本列島沿岸での津波

日本列島太平洋の沖合には、海底地震津波観測網が展開されています。そのうち、地震・津波観測監視システム(DONET)はJAMSTECが構築し、現在は防災科学技術研究所(NIED)によって運用されています。このDONETでフンガトンガ・フンガハアパイ火山の噴火によって励起された気圧変動によって駆動された海面変動は観測されていました(図1)。

DONETの水圧観測値をみてみると、20時過ぎには水圧変動として捉えられていることがわかります。この海面変動はコラム「大規模噴火に伴い発生した大気・海洋の変動について」で検討されているように、フンガ・ハアパイ火山の噴火によって励起された気圧変動によって駆動された津波(気象津波、例えば、Proudman, 1929)と考えられます。また、23時過ぎに有意な海面変動(以下、後続波と称します)が捉えられていることもわかります。この後続波には前述の気象津波の影響と噴火に伴った山体崩壊によって引き起こされた津波の影響が含まれるものと考えられます。ただし、これだけでは後続波の津波増幅をすべて説明することは難しく、伝播過程での反射や屈折、海嶺などの大規模な海底地形起伏によって発生する導波効果の影響(越村・他、1999)などもその要因と考えられます。

この津波の特異性

一般的に遠方で発生した地震性津波は周期が極めて長くなることが多く、 2010年チリ中部地震による津波は伊豆大島の岡田港で100分にせまる周期でした。しかし、今次津波では20~30分程度と比較的短い周期でした。日本沿岸における各港湾の共振(副振動、あるいはセイシュと呼称している)する周期は20~30分程度の場合が多く(宇野木、1959)、例えば、岩手県久慈港や高知県土佐清水港の共振周期は20分程度(永井・小川、2004;村上・島田、1979)であり、23時以降に到達した津波の周期に近いことがわかります。より定量的な評価には今後の詳細分析が必要になりますが、今次津波の卓越する周期が20~30分程度であったため港湾で共振が発生し、津波の振幅が増幅したために漁業被害が拡大したものと考えられます。

非地震性津波を検知するために

火山噴火が励起した今次津波は様々な諸現象が絡み合った複雑なメカニズムによるものと考えられ、現在もなお、津波の波源の諸相はわかっていません。このような津波に対して、早期検知を行うことは不可能なのでしょうか?リアルタイムの沖合観測網(DONETやS-net)の観測データを利用することで検知することができます。JAMSTECでは沖合観測網を利用した津波予測手法の開発(Takahashi & Imai, 2022)やその社会実装(石橋・他、2018)に取り組んでおり、和歌山県や三重県では今次津波を検知することができました(※2)。ただし、海底観測網では気圧変動の直接観測はできません。今次津波のように噴火イベント発生と同時に気圧や海面変動のモニタリングを行い、その変動を検知した場合に津波に備えることで、見逃しのない津波検知ができるようになるでしょう。具体的には大気変動、海面変動、海底水圧変動の同位置かつ同時観測が必要で、この観測を実現するための一つの方法として、気圧変動、海面変動、海底水圧変動を同時に観測するための洋上ブイシステムの開発(Takahashi et al., 2014)も行っています(図2)。

また、天気予報で実務利用されている観測データと数値シミュレーションの融合によって予測精度を格段に向上させ得るデータ同化手法(Maeda et al. 2015; Wang et al. 2021)も、これからの津波予測を実現するための強力な手法といえます。これらの予測手法は、波源の情報が不明でも、沖合の津波振幅や津波の伝わる様子を面的に観測することができれば、今次津波のように波源の正体が判らないまま、沖合観測データを使って沿岸の津波高さを予測することはできます。JAMSTECでは上述のような津波防災に資する観測と予測の技術開発に邁進して行きたいと考えております。

※1:火山爆発指数(Volcanic Explosivity Index, VEI) は、火山噴火の爆発性を相対的に評価する指標で、米国地質調査所のChris Newhall氏とハワイ大学のStephen Self氏が1982年に考察しました。関東一円に灰を降らせ数十年の影響を与えた1707年の富士山宝永噴火におけるVEIは5クラスに分類されます。
※2:和歌山県や三重県に実装されている即時津波予測システムは南海トラフ巨大地震に対応するために開発されているため、気象予報業務上、南海トラフ沿いの地震以外のイベントに対する予測と予報は行っていません

図1-1
(a)DONETシステムの概要
図1-2
(b)DONETで捉えたフンガ・ハアパイ火山の噴火によって励起された津波。DONET観測点の南北方向距離に従って並べている。観測波形には120分のハイパスフィルター処理を行って潮汐成分を除去している。
 
図1 DONETシステムと今次津波の観測波形

 

図2
図2 大気変動、海面変動、海底水圧変動を同時に観測するための洋上ブイシステム(Takahashi et al., 2014)

謝辞
本稿に掲載した今次津波の観測波形はDONETで捉えられた水圧観測波形を利用しました。詳細は、海底地震津波観測網(https://www.seafloor.bosai.go.jp/DONET/)をご参照ください。

参考文献
気象庁、報道発表、オンライン、
https://www.jma.go.jp/jma/press/2201/16b/kaisetsu202201161415.pdf
Proudman,J., Theeffects on thesea ofchangesin atmospheric pressure. Geophys. Suppl., Mon. Not. Roy.Astron.Soc., 2, 197-209, 1929.
越村俊一・今村文彦・首籐伸夫、南本州海嶺の津波導波特性、海岸工学論文集、46,331-335,1999.
宇野木早苗、港湾のセイシュと長周期波について、海岸工学講演会講演集、6,1-11,1959.
永井・小川、平成15年(2003年)十勝沖地震津波波形の特性、港湾空港技術研究所資料、No. 1070, 92pp., 2004. 村上仁士・島田富美男、資料および実測に基づく副振動の特性に関する考察(2)、第26回海岸工学講演会論文集、129-133,1979.
Takahashi, N., Ishihara, Y., Ochi, H., Fukuda, T., Tahara, J., Maeda, Y., Kido, M., Ohta, Y., Mutoh, K., Hashimoto, G., Kogure, S., Kaneda, Y., New buoy observation system for tsunami and crustal deformation, Mar. Geophys. Res., 35, 243–253, 2014.
Takahashi, N., Imai, K., Realtime tsunami prediction system using oceanfloor network for local Regions, Appl. Sci., 2022 (accepted)
石橋正信・馬場俊孝・高橋成実・今井健太郎、DONET 観測情報を活用した津波予測システムの社会実装-和歌山県の事例-、自然災害科学、37,1,125-142,2018.
Maeda, T., K. Obara, M. Shinohara,T. Kanazawa, and K. Uehira, Successive estimation of a tsunamiwavefield without earthquake sourcedata: A data assimilation approach toward real-time tsunami forecasting, Geophys. Res. Lett.,42, 7923–7932, 2015. doi:10.1002/2015GL065588.
Wang, Y., Satake, K., Seismological Research Letters (2021) 92 (4): 2145–2155, 2021. doi.org/10.1785/0220200447.

 

 

 

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