マグニチュード8を超える巨大地震の震源域のほとんどは海底下に広がっています。その広い海底での地殻や海水の動きをリアルタイムに観測する技術を開発するとともに、それらの観測データを最大限に活用して、巨大地震の準備から発生、発生後の地殻の変動、地震や海底地すべりなどに伴う津波など、いま起きている現象を把握しつつ、その後の動きを予測する仕組みを開発・実装することが、このセンターのミッションです。
地震津波予測研究開発センター
センター長 堀 高峰
地震・津波の予測につなげるため、南海トラフの海底地殻変動を連続リアルタイムで広域にモニタリングするシステムの開発を進めています。
JAMSTECでは、南海地震と東南海地震の震源域の海底51地点に地震計と水圧計を設置し、ケーブルで陸上と結んで連続リアルタイムで地震と津波のモニタリングを行う「地震・津波観測監視システム(DONET)」を整備してきました(現在は防災科学技術研究所に移管)。
海域での地殻変動をさらに高精度でモニタリングするためには、海底の掘削孔で測定することが効果的です。紀伊半島沖では、地球深部探査船「ちきゅう」による掘削調査を続けてきました。現在、海底下数百mの掘削孔3地点に長期孔内観測システムを設置、DONETに接続して地殻変動を連続リアルタイムでモニタリングしています。今後、紀伊水道以西の3地点でも「ちきゅう」により海底下数百mを掘削して長期孔内観測システムを設置、DONETなどのケーブル観測システムに接続する計画です。
また、海底広域研究船「かいめい」のBMS(Boring Machine System)で海底下20mほどの孔を掘削して地殻変動観測装置を埋設したり、地殻の伸び縮みを広帯域に観測するための光ファイバーを海底に敷設したりして、それらをDONETに接続することで、連続リアルタイム地殻変動観測網の拡充を進めています。
海底と陸域の地殻変動のデータを地震発生帯研究センターなどが推定した地下の構造や物性などのデータを反映させたモデルに基づいて解析することで、断層の固着・すべりの現状を把握するとともに、断層をすべらせようとする力と断層強度を推定して、断層の固着・すべりの近未来の状態を予測することを目指しています。
南海トラフの地震発生帯の浅部や深部では、断層が数週間~数ヵ月かけて数cm~数十cm動く「ゆっくりすべり」が発生し、注目されています。ゆっくりすべりは普段から起きていますが、その範囲が地震発生帯の中に広がったり、マグニチュード6~7の地震が発生したあとにゆっくりすべりが引き続いて領域が広がったりなど、普段とは異なる状態が生じた場合には、巨大地震の起こる可能性が普段より高くなると考えられています。
海底変動のモニタリングシステムなどを用いてデータを蓄積することで、普段とは異なる固着・すべりの状態を検知することを目指します。
南海トラフで起きる地震では、最初に東海あるいは東南海地震が起きて、1日半や2年たった後に南海地震が起きた事例が知られています。巨大地震が起きたとき、壊れ残った領域を特定し、次に起き得る地震の規模や範囲、それによる津波を予測します。また、最初の地震が起きた後、ゆっくりすべりの領域が周囲に広がっていき、次の地震が起きる可能性があります。そのようなゆっくりすべりをモニタリング・予測して、次の地震に備えるための情報を提供できるように研究開発を進めます。
JAMSTECではDONETを活用した即時津波予測システムを構築し、既に和歌山県や三重県、中部電力、香川大学などに導入し、DONETを運用している防災科学技術研究所と連携して運用しています。即時津波予測システムは、DONETでの沖合の水圧観測値から、沿岸の津波の高さや浸水までの時間と広がりなど、防災に役立つ情報を即時に発信するものです。
ただし、津波だけでなく台風などの高潮でもDONETの水圧計の計測値が高くなります。また、地震だけでなく、海底の地滑りによって比較的狭い領域で高い津波が発生するケースも考えられます。そこで、高潮と津波を区別しつつ、地滑りによる津波も予測できるように改良を行うことで、即時津波予測システムのさらなる高度化を進めています。
センター長 堀高峰
専門:地震発生予測
地震発生の原因となる現象の過去から現在をとらえ、その未来を予測する仕組み作りを進めています。将来、地震が起きた時に、「やっぱりあそこで起きたんだね、事前に備えておいてよかった。」と言ってもらえるように。