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研究者コラム

【トンガ海底火山噴火】日本の観測網が捉えたトンガの火山噴火後に発生した海面変動の伝播

記事

海域地震火山部門 地震発生帯センター
主任研究員 利根川貴志

2021年1月15日にフンガトンガ・フンガハアパイ火山で大規模の噴火が発生し、太平洋沿岸地域では大きく分けてその噴火に伴う2種類の波が観測されました。最初に到来した波は、噴火に伴う大気中を伝播する気圧変動で、これは世界中に設置された気圧計で観測されています。次に到来した波が津波で、大気中を伝わる気圧変動のほうが津波の伝播速度よりも速いために津波が遅れて到来しました。日本では、最初に到来した気圧変動で引き起こされた潮位の変化(気象津波)が津波の到達時刻よりも2〜3時間ほど早く観測され、それがメディアにも取り上げられたことは記憶に新しいと思います。

これらの波の詳細についてはコラム「大規模噴火に伴い発生した大気・海洋の変動について」や「フンガトンガ・フンガハアパイ火山の噴火がもたらした日本列島沿岸の津波」で取り上げられていますので、ご参照ください。これらのコラムでは、後から到来した津波には、火山噴火による地殻変動で発生した津波だけでなく、気象津波による影響も含まれている可能性が検討されています。そのため、ここでは最初に到来した波を1波(気象津波)、後から到来した波を2波(地殻変動による津波+気象津波)と呼ぶことにします。

日本列島の海域では、観測点密度の高い充実した海底地震計や水圧計の観測網が設置されています。本コラムでは、これらの観測網の記録で波の伝播のアニメーションを作成することで、今回の噴火に伴う気圧変動や潮位変化が日本周辺をどのように伝播したのかを解説したいと思います。

日本列島周辺の海域に設置された観測網とその記録

南海トラフ域では、地震・津波観測監視システム(DONET)がJAMSTECによって構築され、現在は防災科学技術研究所(NIED)によって運用されています。また、日本海溝域では、日本海溝海底地震津波観測網(S-net)がNIEDによって展開されており、各観測点に水圧計が設置されています(図1)。

海面が上昇・下降することによって、海底より上にある水の量が変化し、海底にかかる水圧が変化します。そのため、津波(や気象津波)が伝播してきて水圧計の真上を通過すると、水圧計で海面の上下変動を観測することができます。

図1 DONETとS-netの観測点配置図

大気・海洋を伝播する波のアニメーション

海域の水圧計(S-net)の記録を使って、2022年1月15日19時から5時間分(300分)の海面の上下変動のアニメーションを作成しました(図2)。まず、20時40分ごろに、関東地方の南東沖で振幅が大きくなり始めます(図3a)。これは、1波(気象津波)が到来したことを示しており、北北西に向かっていることがわかります。動画では、この到達の後2時間ほど、振幅は小さいながらも引き続き北北西に向かって波が伝播している様子がわかります。これは、大気中を伝播する気圧変動による気象津波を示しており、様々な速さの気象津波が後続波として引き起こされています。その後、22時20分ごろに大きな変化が現れます(図3b)。これまで伝播していた波よりも大きな海面変動が関東沖から同じく北北西に向かい始めます。これが2波(地殻変動による津波+気象津波)に相当します。23時ごろに最も大きな海面変動が現れ(図3c)、深夜まで伝播している様子がわかります。

図2 水圧計で観測された海面の変動
周期帯は200-2000秒で、Generic Mapping Tools(GMT)(Wessel and Smith, 1998)のnearneighborコマンドで100 km以内に入る観測点の振幅を内挿してプロット。

図3 アニメーションのスナップショット
(a) 20:40のスナップショット(1波)。(b) 22:21のスナップショット(2波の到来)。(c)23:05のスナップショット(2波の海面変動が大きいとき)。矢印の向きはおおよその伝播方向を示し、トンガの方向から到来していることがわかります。

大気・海洋・固体地球の波動伝播の研究

本コラムでは、日本周辺の海洋を伝播する波をアニメーション化して調べてみました。その結果、1波と2波に加えて、その間にも振幅は小さいながらも波が到達していることがわかりました。今回のトンガ噴火では、大気や海洋を伝播する波だけでなく、固体地球を伝播する地震波も引き起こされており、それらは世界中の観測網で捉えられています。その一方で、噴火の際にその周辺でどのような現象が発生したのかに関しては、まだ多くの謎が残されています。これらを解明するためには、大気・海洋・固体地球を伝播する波や、また、それらの相互作用を調べることが役に立つと考えられます。そのため、海域はもちろん、陸域に設置された観測網のデータも最大限活用して研究を進めていくことが大切だと考えられます。

謝辞
本稿ではS-netおよびDONETで観測されたデータを使用しました。詳細は、海底地震津波観測網(https://www.seafloor.bosai.go.jp/S-net/)をご参照ください。また、図のプロットにはGMTを使用しました。

参考文献
Wessel, P., and W.H.F. Smith, New, improved version of Generic Mapping Tools released, EOS Trans. AGU, 79(47), p. 579, 1998.

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