現在、熱帯インド洋全域で水温が高い状態が観測されています。しかし、アプリケーションラボのSINTEX-F大気海洋結合モデル(※1)では、今初夏には、極端に強い負のインド洋ダイポールモード現象が発生することを予測しています。熱帯太平洋では、現在ラニーニャ現象が発生している様な状態ですが、この状況が、秋の中旬頃まで持続し、晩秋に衰退すると予測しています。これら熱帯海水温の状況に伴い、インドネシアやオーストラリア(東アフリカ)では、平年より極端に雨が多く(少なく)なるかもしれません。
負のインド洋のダイポールモード現象とは?
インド洋のダイポールモード現象は、熱帯インド洋で、海洋と大気が連動し、相互に作用しながら発達する気候の変動現象です。負のダイポールモード現象が発生すると、熱帯インド洋の南東部で海面水温が平年より高く、西部で海面水温が低くなります(図1)。この水温変動によって、通常時でも東インド洋で活発な対流活動が、さらに活発となり、インドネシアやオーストラリアなどでは大雨・洪水の被害が甚大化する傾向があります。一方で、東アフリカでは干ばつや山火事が発生しやすくなります。それらの被害に備えるためにも、この現象の発生を事前に予測する技術が重要になります。
インド洋ダイポールモード現象の発生は事前に予測できるか?
インド洋ダイポールモード現象の発生を事前に予測できるかについては、物理法則に基づき予測シミュレーションする手法や、統計的・経験的な手法などを用いて、研究がされてきました。その結果、ダイポールモードが発生する前兆がいくつか見出され(例えば、熱帯インド洋の亜表層や熱帯太平洋の状態)、予測がある程度可能であることもわかってきました。しかし、依然として、ダイポールモードを正確に予測するは難しいのが現状です。その中でも、アプケーションラボのSINTEX-Fと呼ばれる予測シミュレーションは、近年のダイポールモードの予測で高い実績をあげてきました。(例えば、2019年の正のダイポールモード現象の発生予測は的中しました。詳しくは、プレスリリース「2019年スーパーインド洋ダイポールモード現象の予測成功の鍵は熱帯太平洋のエルニーニョモドキ現象」)。
極端に強い負のインド洋ダイポールモード現象が今夏発生か?
SINTEX-Fは、今初夏に、極端に強い負のインド洋ダイポールモード現象が発生することを予測しています(図2)。秋の中旬頃に最盛期を迎え、晩秋に衰退し始めると予測しています。季節平均でみた秋(9-11月平均)の降水量予測を見ると(図3)、東アフリカでは、昨年と同様に、平年より極端に雨が少なくなるかもしれません(昨年の東アフリカの干ばつについては、コラム「東アフリカの干ばつについて」を参照)。予測通りに干ばつが連続で発生すると、東アフリカ諸国の社会・経済に甚大な被害を与える可能性があります。加えて、インドネシアやオーストラリアなどでは、負のダイポールモードとラニーニャの様な状態の同時発生により、大雨・洪水の被害が甚大化するのが危惧されます。
今後も、これら極端な気候イベントに注意していく必要があります。アプリケーションラボのSINTEX-F予測シミュレーションの結果は毎月更新されます。詳しくは、SINTEX-Fウェブサイトや季節ウォッチご参照ください。
インド洋ダイポールモード現象の指数DMI(西インド洋熱帯域の海面水温異常の東西差を示す数値で単位は°C)。黒線が観測で、2022年5/1時点で予測したのが色線。SINTEX-F2と呼ばれる気候モデルを用いて、初期値やモデルの設定を様々な方法で少しずつ変えて、スーパーコンピュータで36通りの予測実験を行った(アンサンサンブル予測と呼ぶ)。それぞれ、海面水温データを初期値に取り込んだSINTEX-F2(緑色の破線:アンサンブル平均値、黄緑色の破線: 各アンサンブルメンバー)、海洋亜表層観測データを初期値に取り込んだSINTEX-F2-3DVAR(青色の線:アンサンブル平均値、水色の線: 各アンサンブルメンバー)、海面水温と海氷密接度データを初期値に取り込んだSINTEX-F2si(濃いオレンジ色の二点鎖線:アンサンブル平均値、薄いオレンジ色の二点鎖線: 各アンサンブルメンバー)の結果。紫色の線は全ての予測アンサンブルの平均値。それぞれの詳細は、SINTEX-Fウェブサイトを参照。
- 1: アプリケーションラボでは、主に季節予測研究のため、日欧協力に基づき大気海洋結合大循環モデルSINTEX-Fを開発してきた。それを基盤とした予測システムを使って、ダイポールモード、エルニーニョ ・ラニーニャ、エルニーニョモドキ・ラニーニャモドキの予測研究について先駆的な成果を上げてきた。詳細は、SINTEX-Fウェブサイトを参照。