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研究者コラム

2023年2月6日にトルコ南東部で発生した地震

記事

海域地震火山部門 地震津波予測研究開発センター
山本 揚二朗 副主任研究員

トルコ南東部で大地震が発生

 202326日、トルコ南東部にて、マグニチュード7.8の地震が発生しました(1)。また、その後M7.5の地震を含む余震も多く発生しています。震源が浅い直下型地震であることに加え、建物の耐震性の低さや、地震発生時が未明だったことから、多数の死傷者を含む大きな被害が出ています。私は約10年間、トルコでの地震観測に関わってきましたが、今回のような災害が生じてしまったことは残念でなりません。この地震により亡くなられた方々にお悔やみ申し上げます。また、被災されました方々に心よりお見舞い申し上げますとともに、より多くの方が救われ、一刻も早く平穏な日常を取り戻されるよう、お祈り申し上げます。

どんな地震だったのか?

今回の地震の震源は、アラビアプレートとアナトリアプレートとの左横ずれ型プレート境界である、東アナトリア断層付近に位置します(図1)。この断層は、マグニチュード7以上の地震が東から西へ順番に発生する北アナトリア断層同様に活発な断層帯であり、トルコ政府機関(災害緊急事態対策庁:AFAD)によって、北アナトリア断層沿い、20201030日に地震が発生したトルコ南西沿岸部(2)と並んで、地震危険度が最も高い領域であると評価されています(3)。今回の地震の最大震度は国際メルカリ震度でIXであり、日本の気象庁による震度に換算すると、最上位である7に相当します。

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図1:2023年2月6日Mw7.8の地震の発生位置(1)と東アナトリア断層を含む周囲のプレート分布(6)。北アナトリア断層と東アナトリア断層におけるおおよその相対変位方向を矢印で示す(8)

東アナトリア断層付近の地震・余震活動

アメリカ地質調査所(USGS)の地震データベース(4)によると、東アナトリア断層やその周辺域では、1998年以降にマグニチュード6以上の地震が5つ発生しています(図2)。特に20035月、2010年、および2020年の地震は東アナトリア断層に沿って発生したように見えます。今回の地震の本震は、東アナトリア断層の南側、ちょうど断層の向きが折れ曲がっているようにみえる場所の近くで発生しました。一方で、その9時間後に発生したマグニチュード7.5の余震は、東アナトリア断層から少し西に外れています。

トルコ・ボアヂチ大学のカンデリ地震観測所(KOERI)による1日間の地震活動分布の速報値5を見ると、2020年に発生したマグニチュード6.7の地震より南西側の東アナトリア断層をほぼカバーする震源列と、マグニチュード7.5の地震を含み、東アナトリア断層を起点として西へ離れていく震源列という、2つの大きな余震域を確認できます。この領域には他にも複数の断層の存在がわかっており、今後も活動範囲の拡大に注意する必要があります。

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図2:東アナトリア断層付近の地震活動。星は1998年以降に発生したM6以上の地震分布(黄色:本震、赤:9時間後の余震、オレンジ:過去の地震、白色:本震後1日間)。丸はKOERIによる、本震発生後24時間以内の地震活動分布の速報値(5)。背景の黒細線は、トルコ国内の断層分布を示す。

日本の内陸断層との共通点と違い

日本では、地震の発生場所について、海のプレートが陸のプレートに沈み込むプレート境界で発生する海溝型地震と、陸のプレート内にある活断層で発生する内陸地震という2つの分類で説明されることが多いです(7)。今回のトルコの地震はプレート境界で発生したものですが、横ずれ型であるため、逆断層型である海溝型地震とはタイプが異なります。そのため、2016年熊本地震などの内陸地震と似た地震である、ということもできます。

一方で、日本の内陸地震は、日本列島周囲のプレート運動が内陸部に及ぼす力に対する内陸地殻の反応として発生しますが、北・東アナトリア断層はプレート境界に位置するため、2つのプレート間にかかる力の影響を直接受けるという違いがあります。北・東アナトリア断層の平均変位速度は23cm/(8)と、日本の内陸活断層に比べて1桁以上大きい値になっているのは、この違いによります。このため、トルコでは日本の内陸地震よりも短い再来間隔で、多くの大地震が発生しやすい環境になっています。

今回の本震のエネルギーの規模は、同じ横ずれ断層である2016年熊本地震の16倍となっています。一方、1995年兵庫県南部地震においては、熊本地震よりもエネルギーの規模が小さかったにもかかわらず、死者・行方不明者は6,437人にも及ぶ大きな被害を受けました。これらの記録は、地震防災対策が日本においても重要な課題であることを物語っています。特に、地震の被害はその規模だけにはよらず、人口・構造物・地盤・発生時間や季節など、さまざまな複合的要因に依存する、ということに注意が必要です。

図2に記載の2003年1月に発生した地震のマグニチュードをM6.1に訂正し、2003年5月に発生した地震(M6.4)を追記しました。(2023年2月10日更新)

参考文献
(1) USGS web site: https://earthquake.usgs.gov/earthquakes/eventpage/us6000jllz/executive
(2) JAMSTECコラム:https://www.jamstec.go.jp/j/pr/topics/column-20201105/
(3) AFAD web site: https://deprem.afad.gov.tr/assets/img/tdth_eng.png
(4) USGS 地震カタログ: https://earthquake.usgs.gov/earthquakes/search/
(5) KOERI web site: http://www.koeri.boun.edu.tr/sismo/2/en/
(6) Bird, 2003, Geochemistry Geophysics Geosystems, https://doi.org/10.1029/2001GC000252
(7) 気象庁 web site; https://www.data.jma.go.jp/eqev/data/jishin/about_eq.html#4_c
(8) Argus. et al., 2011, Geochemistry, Geophysics, Geosystems, https://doi.org/10.1029/2011GC003751

山本 揚二朗

国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)
海域地震火山部門 地震津波予測研究開発センター 副主任研究員