気象衛星「ひまわり」黄砂監視画像(2023年4月13日7時(日本時間))
出典:気象庁ホームページ(https://www.data.jma.go.jp/env/kosa/himawari/himawari-TRM.html)JMA, NOAA/NESDIS, CSU/CIRA

がっつり深める

研究者コラム

黄砂って何者? ~2023年4月12-13日の黄砂飛来~

記事

地球環境部門 地球表層システム研究センター
長島 佳菜 副主任研究員

春先の迷惑な風物詩「黄砂」が今年も日本にやってきました。洗濯物を干す時(洗濯物に土埃がついてしまう)、車を運転する時(視程が悪い)、日常の様々な場面で不都合を生じますが、呼吸器に悪影響を及ぼす可能性が高く、喘息などの疾患がある方は、より切実に黄砂飛来を辛く感じていらっしゃるかもしれません。こうした望まれざる客である黄砂ですが、一方で、その素性はあまり知られていません。ここでは、黄砂とは何なのか?どこからどのようにして飛んでくるのか?役に立つ面もある?将来は黄砂飛来頻度が増えるのか減るのか?というテーマでお話しします。

黄砂の基礎知識:いつ、どこから、どうやって飛んでくるの?

黄砂とは、中国やモンゴルの乾燥域(例えば、タクラマカン砂漠やゴビ砂漠)において、低気圧などに伴う強風によって大気中へと巻き上げられ、偏西風によって東の風下域へ運搬される砂塵のことを指します。日本はもとより、北太平洋を横断して北米大陸やさらに東へと長距離輸送される場合もあります(1)。黄砂の輸送経路は、南北に蛇行していることがよくあります(図1)。これは、低気圧に吹き込む風の流れや、高度約10 kmに位置する偏西風強風軸、いわゆる偏西風ジェットの蛇行などを反映しているためと考えられます。

図1:気象庁の黄砂予報図
出典:気象庁ホームページ(https://www.data.jma.go.jp/env/kosa/fcst/

さて、黄砂の組成を調べてみると、石英・長石・雲母・方解石など、様々な種類の鉱物粒子で構成されています(2)。日本付近に飛来する黄砂粒子の直径は数µm(マイクロメートル)~数十 µmの幅を持ちますが(2, 3)、粒子の数では数µm のものが大多数を占めており、わずか1 mmの数百分の1程度の小さい粒子の集まりです。直径2.5 µm以下のPM2.5粒子よりはやや大きめに分布するものの、こうした小ささ故に、私たちの鼻や口から気管支や肺へと入ることで、気管支喘息などを悪化させてしまいます。

黄砂と言うと、春の現象というイメージが定着していますが、なぜ春によく黄砂が観測されるのでしょうか? 主な理由として、砂漠域で雪解けが進み、地表面が露出して乾燥すること、また春には砂漠域で強い風が吹きやすく、黄砂が舞い上がりやすい状況が揃うためではないかと考えられています(4)。また、春には偏西風ジェットがちょうど日本上空を通過するため、砂漠域で発生した黄砂が、効率よく日本に運ばれる、という点も重要です。

黄砂と海:黄砂にも良い面がある?

黄砂には私たちの生活とも関係する、重要な役割があります。それは陸上での役割ではなく、実は、海の中での役割です。黄砂は輸送経路に沿って地表面へと落下しますが、北西太平洋の海洋に落ちると、黄砂粒子中にわずかに含まれる鉄のうち、さらにごく一部が海洋に溶け出します。その鉄が植物プランクトンの増殖にとって重要であることがわかっています(5)。つまり、「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざのように、風が吹けば、植物プランクトンが増え、それを食べる動物プランクトンが増え、それを食べる魚が増え、その結果、食卓に上る魚も増えるかもしれません。少なくとも桶屋が儲かるよりも高い確率で起こるでしょう。では、風が吹けば、どれだけ海洋の生態系に影響があるのかという点についてはまだ不明なことが多く、私を含めた研究者たちの現在進行形の研究テーマとなっています。

未来の黄砂飛来

私たちの生活への影響がますます顕在化してきた地球温暖化ですが、黄砂の飛来量や頻度は温暖化によって変わるのでしょうか? 変わる場合は増えるのでしょうか? 減るのでしょうか?
1960年以降の黄砂発生域での観測データを見てみると「黄砂の発生頻度は、細かい変動はあるものの1970年代以降に長期的な減少傾向を示す」ことがわかります(図2)(6)

図2:主な黄砂発生源における砂塵巻き上げ頻度(Wu et al., 2018を改変)
上:青、赤、黒はそれぞれ異なる定義の砂塵巻き上げ状態を示す。 Tarim Basin:タクラマカン砂漠周辺エリア、Eastern Sources:ゴビ砂漠やその他の複数の砂漠を含むエリア
下:赤丸は1961-2005年を平均した、1年あたりの黄砂発生日数を示す。

温暖化と聞くと、砂漠が拡大して黄砂が増えるようなイメージを持たれる方が多いと思いますので、ちょっと意外な結果かもしれませんが、ここにも「風が吹けば桶屋が儲かる」的に、いくつかの現象が関与しています。黄砂の発生頻度が長期的に減っているおおもとの理由として、指摘されているのは、温暖化による北極の気温上昇のスピードが低緯度域の気温上昇スピードよりも早い、という点です(7)。その結果、北極から低緯度側に向けた気温の差が減少します。気温の差が大きいと風が強く吹くので、気温の差が減少すると、中緯度・砂漠域での強風頻度が減る、その結果、黄砂の発生頻度が減る、という説明ができます。日本に飛来する黄砂に関しては、発生源における黄砂発生頻度に加え、偏西風の強さや経路などによる影響を受けるため、発生源同様に今後観測される頻度が減少するのかどうかは、更なる議論が必要です。

地球温暖化による「困ったこと」として、気温の変化だけではなく、集中豪雨や洪水の頻発といった気象の極端現象の増加にも目が向けられるようになってきました。しかし、温暖化による影響は、それだけには留まらず、さらに多様なものであるということが徐々に明らかになっています。この春の黄砂の飛来と共に、地球の気候に思いを馳せて頂けたらと思います。

1.黄砂の基礎知識に説明を追加しました。(2023年4月20日更新)

(1) Uno et al., 2009, Nature Geoscience, https://doi.org/10.1038/ngeo583.
(2) Jeong, 2020, Atmospheric Chemistry and Physics, https://doi.org/10.5194/acp-20-7411-2020.
(3) Nagashima et al., 2016, Geophysical Research Letters, https://doi.org/10.1002/2015GL067589.
(4) Sun et al., 2001, Journal of Geophysical Research (Atmosphere), https://doi.org/10.1029/2000JD900665.
(5) Jickells et al., 2005, Science, https://www.science.org/doi:10.1126/science.1105959.
(6) Wu et al., 2018, Geophysical Research Letters, https://doi.org/10.1029/2018GL079376.
(7) Wu et al., 2022, Nature Communications, https://doi.org/10.1038/s41467-022-34823-3.

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