がっつり深める

JAMSTEC探訪

日本の豪雨の7割は“大気の川”の影響だった!~気象「極端現象」研究の最前線から~

大気の川の発生は予測できるか?

──大気の川の発生を予測することはできるでしょうか?

大気の川はとても大きなスケールでの現象ですが、天気予報と同じように3日以内であれば、現在でも比較的高い精度で予測できます。モデルを使った予測と実際の観測結果を比較してみると、水蒸気量に関していえば、3日以内であれば80%以上の正確さで予測できています。

また、大気の川がどこに上陸するかという予測に関しては、3日以内であれば300〜400キロメートルの誤差で予測可能です。ただし、5日を超えると、誤差は500キロメートルほどに大きくなります。大気の川の幅は300キロメートルほどですから、誤差が500キロメートルを超えると予測としてはまだきびしいですね。

目に見えない水蒸気を見るには?

──そもそも目に見えない水蒸気をどうやって測定するのでしょうか?

そのためには、「上から見る」「下から見る」「横から見る」という三つの方法があります。見るといっても目には見えないので、これは電波などを使って間接的に測定することになります。

まず、「上から見る」とは、人工衛星を使った観測です。海面や大気中の水蒸気から出るマイクロ波(電波の一種)を人工衛星で観測することで、水蒸気量を求めることができます。

次に、「下から見る」は、上空のGPS衛星などから出ている測位用の電波を地上や海上で観測することで水蒸気量を求める方法です。大気中の水蒸気量が多いと、衛星から地上に電波が届くまでにわずかな遅れが生じます。その遅れの度合いを換算して、大気中の水蒸気量を求めるというわけです。また、水蒸気ライダーという方法もあります。これは、電波の代わりにレーザー光を上空に発射し、水蒸気による散乱光を観測することで、大気中の水蒸気量を測る方法です。

最後の「横から見る」は、地上のレーダー施設から電波を出して、周辺数百キロメートルの範囲の水蒸気量を観測する方法です。

このほかにも、各種センサを搭載した「ラジオゾンデ」という機器をバルーンに付けて上空まで飛ばしたり(図4)、逆に航空機から観測機器を投下したりして、水蒸気量を測定する方法もあります。

写真
図4 ラジオゾンデ このバルーンに観測装置を付け上空からのデータを受け取る(JAMSTEC 提供)

地球温暖化で大気の川の発生頻度が高まる

──地球温暖化が進行すると、大気中の水蒸気量が増えて雨が降る頻度が高まり、降水量も多くなるといわれています。地球温暖化によって、大気の川も発生しやすくなるのでしょうか?

地球温暖化によって大気の川が今後どう変化するかを予測した研究があります。これによると、アフリカ南部を除く世界のほとんどの地域で、大気の川の発生頻度が高まることが予測されていて、日本を含む東アジアでも、大気の川の発生頻度が高まることになります。

未来の予測ではありませんが、過去40年間の大気の川の変化を調べた研究があります。この研究では、この40年間で大気の川によって日本に供給される水蒸気の量が増えていることが指摘されています。昔に比べて、亜熱帯から日本に向けて、水蒸気がたくさん運ばれるようになってきていることが言われています。

豪雨の被害をできるだけ減らしたい!

──今後はどんな研究を行う予定ですか?

やはり気象災害を減らしたいということがいちばんです。大気の川の発生予測がより正確になれば、豪雨などへの備え、つまり防災や減災に役立てられますよね。

大気の川が豪雨をもたらすメカニズムは、まだ詳しくわかっていません。そのためには、大気の川についてもっと理解する必要があります。

残念ながら大気の川に関する研究が、日本ではまだ少ないんです。たとえば研究の進んでいるアメリカでつくられたモデルは、アメリカで発生する現象の予測精度は高いのですが、遠く離れた日本で起きる現象の予測精度はあまり高くありません。日本で何が起きるのかを知りたければ、データを集めて、日本周辺の大気の川の発生メカニズムを研究する必要があります。

今後は、インド-太平洋域における観測データを使って水蒸気の流れと収支過程を調べる研究などを行っていく予定です。アジアで発生する極端現象と水蒸気とのつながりを明らかにしていきたいですね。

写真
趙寧研究員 (撮影:JAMSTEC)

 

  • トップ
  • JAMSTEC探訪
  • 日本の豪雨の7割は“大気の川”の影響だった!~気象「極端現象」研究の最前線から~

こちらもおすすめ!>>