2016年夏の予測の“答え合わせ”

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あっという間に秋になり、少しずつですが木々も色づいてきました。爽やかな気候のもと、スポーツ、読書、秋の味覚などを楽しんでいる方も多いことと思います。秋刀魚も美味しい季節ですね(季節ウオッチのタイトル画像も秋Ver.になっております)。風邪が流行り始める時期でもありますので、体調管理に気をつけて秋を満喫してください。

さて、本投稿では季節ウオッチの“答え合わせ”第二弾ということで、過ぎ去った2016年の夏に注目しましょう。

まずはエルニーニョ予測から見てみましょう。下図は、エルニーニョ現象やラニーニャ現象が発生しているかどうかを判断する際によく使われる指標Nino3.4の現在までの推移です。青が観測、つまり実際の値です。2015年末から発生していたエルニーニョ現象は、年が明けて、その勢力は次第に弱まり、今年5月には終息しました。それからも指標Nino3.4は冷え続け、8-9月にかけてエルニーニョ現象とは逆の現象である”ラニーニャ現象のような状態”が弱いながらも発生しました。2016年5月1日時点でのアプリケーションラボの予測シミュレーションの結果は赤線で示してあります。青線と赤線は驚く程よく一致していますね。アプリケーションラボの予測システムがエルニーニョ予測に関して世界最先端であることは既に学術的にも認められています(例えば、Jin et al. 2008, Climate Dynamics)。

指標Nino3.4:熱帯太平洋東部で領域平均した海面水温がどのくらい平年値からずれているか(偏差と呼びます)を示す数値。単位は°C。

上記で”ラニーニャ現象のような状態” と曖昧な表現をしたのは訳があります。指標Nino3.4だけを見ていると気付けないのですが、エルニーニョモドキ・ラニーニャモドキ現象の指標EMIを見てみると、9月の熱帯太平洋の状態はむしろ“ラニーニャモドキ現象”が発生しているような状態であることが確認できます。(エルニーニョモドキ/ラニーニャモドキ現象とは?)。2016年5月1日時点でのアプリケーションラボの予測シミュレーションの結果(赤線)は、観測(青線)の概ねの傾向は予測できていたと言えますが、9月の振幅をかなり過少評価していました。このようなエルニーニョモドキ・ラニーニャモドキ現象の予測精度向上に資する研究は、環境研究総合推進費(2-1405)「最近頻発し始めた新しい自然気候変動現象の予測とその社会応用」{研究代表者:山形 俊男, 国立研究開発法人海洋研究開発機構 アプリケーションラボ}で実施中です。その成果についてはまた別の記事でまとめる予定です。

指標EMI:熱帯太平洋中央部の海面水温偏差が東部と西部の海面水温偏差と比べてどの程度高いかを示す数値。単位は°C。

fig2-2016JJA-Doi

今年の夏はエルニーニョ現象からラニーニャ(あるいはラニーニャモドキ)現象への遷移の時期だったため、それらの振幅自体はそれ程大きいものではありませんでした。一方でインド洋では勢力の強いダイポールモード現象の負のイベントが発生し現在も継続中です(インド洋ダイポールモード現象とは?)。今年の夏の気候変動の主役はむしろこのインド洋ダイポールモード現象だった可能性が高いです。

 インド洋ダイポールモード現象の指標DMIをみると、6月から7月にかけて負のイベントが急速に発達し、8、9月と強い勢力を保っていることが分かります。2016年5月1日時点でのアプリケーションラボの予測シミュレーションの結果(赤線)は、観測(青線)の傾向を概ね予測できており、負のイベントの発生予測に成功したと言えます。しかし7、9月の振幅を過少評価していました。インド洋ダイポールモード現象の予測は、エルニーニョ現象の予測に比べて難しく未だ科学的にもチャレンジングな課題とされています。アプリケーションラボではその予測精度向上のための努力を続けています。

指標DMI:熱帯インド洋の海面水温偏差の東西差を示す数値。単位は°C。

fig3-2016JJA-Doi

次に、2016年夏(6-8月平均)における地上気温の平年値からの差を見てみましょう。下図左は実際の状況(正確には米国NCEP/NCARから配信される再解析データ)で、暖(寒)色が平年より気温が高(低)いことを示しています。右図が2016年5月1日からの予測値です(つまり5/1時点から2~4ヶ月先の将来予測)。世界のほとんどの地域で気温が平年より高めになると予測していましたが、概ね成功したと言えます。例えば、アフリカ北部、ロシア、中国、北米大陸、ブラジル、豪州で平年より高温であることが予測できています。しかし、残念ながらナミビアを中心としたアフリカ南西部や西アフリカの一部、欧州の一部、中東の一部やインド北部、日本の本州域などの予測は外れていますね。

fig4-2016JJA-Doi

最後に2016年夏(6-8月平均)における降水量の平年値からの差を見てみましょう。下図左は実際の状況(正確にはCMAPと呼ばれる観測データ)で、緑(茶)色が平年より多雨(少雨)であることを示しています。右図が2016年5月1日からの予測値です。熱帯太平洋上や熱帯インド洋上の降水分布はよく似ており、上述したラニーニャ(あるいはラニーニャモドキ)現象や負のインド洋ダイポールモード現象の特徴がよく予測できています。陸上では、インドネシアの多雨傾向が見事に予測できました(インドネシアの日刊邦字新聞”じゃかるた新聞”でも取り上げられました)。しかし、ブラジル北部の少雨、豪州東部の多雨、日本を含む中緯度域の降水分布などについては、予測が外れていることが分かります。

Fig5-2016JJA-Doi

”答え合わせ”第二弾は如何だったでしょうか?予測は現象の物理的理解の結晶です。従って予測の”はずれ”にはまだ理解しきれていない何かが隠されているはずです。そう思うと少しワクワクしてきませんか?アプリケーションラボではそれを解明し予測を改善する研究を続けています。例えば、予測を外してしまうメカニズムの理解や、予測シミュレーション技術の発展(気候モデルや初期値の取り扱いなど)、あるいは予測が潜在的にどこまで可能なのかの理論的解明などを進めています(季節予測とは?)。いずれその成果についても紹介したいと考えております。

同時に、アプリケーションラボでは、精度の高い季節予測情報を、作物の豊凶やマラリア流行予測情報など、より人々が利活用しやすい情報に変換する研究も実施しています。その成果の一端を以下のサイトで紹介していますので、興味がある方は覗いてみてください。

     –オーストラリアの冬小麦収量を左右するのはインド洋のダイポールモード現象

     –南部アフリカにおける気候予測モデルをもとにした感染症流行の早期警戒システムの構築

なお、季節予測の最新情報(2016年10/1からの予測)はこちらをご覧ください。

 

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