2017年6月号:正のインド洋ダイポール現象が発達中

写真:横浜研究所の紫陽花

梅雨に入り、紫陽花の季節となりました。横浜研究所でも紫陽花が咲き始め、雨を待ち望んでいます(写真)。気象庁の発表によると、5月の天候は全国的に気温が高めで、雨が平年より少なかった模様です(気象庁:5月の天候)。今後も雨が少ない状態が続くのでしょうか?今年の夏の天候が気になりますね。

SINTEX-Fの季節予測によると、今年の6-8月は、ロシア北部や西アフリカを除く世界の多くの地域で気温が平年より高くなりそうです。また、東南アジアやメキシコ、西アフリカでは雨が平年より多く、インドネシア、オーストラリア、インド、中国東部、ブラジル北部、ペルーでは雨が平年より少なくなる見込みです。

原因の1つとして挙げられる熱帯域の気候変動現象ですが、太平洋ではエルニーニョ現象が発生する可能性(参照:先月の記事)は低くなりましたが、熱帯太平洋の全域で水温が平年より高くなる状態が続きそうです。一方、インド洋では東部で水温が平年より低く、西部で高くなる正のインド洋ダイポール現象が強く発達しそうです。このため、インド洋東部から海洋大陸にかけて対流活動が弱まり、特にインドネシアやオーストラリアでは干ばつが起こる可能性があります。

今年の6月から8月の気温と降水量は?

図1 2017年6月から8月までの地上気温の平年差(ºC)。 予測開始日は6月1日。

今年の6月から8月までに予測される世界の気温です。SINTEX-Fの予測によると、世界の多くの地域で気温が平年より高くなりそうです(図1)。一方で、ロシア北部や西アフリカでは、気温が平年より低くなりそうです。

図2 2017年6月から8月までの降水量の平年差(mm/日)。予測開始日は6月1日。

次に、今年の6月から8月までに予測される世界の降水量を見てみましょう。SINTEX-Fの予測によると、東南アジア、メキシコ、西アフリカでは、雨が平年より多くなりそうです(図2)。一方で、インドネシア、オーストラリア、インド、中国東部、ブラジル北部、ペルーでは、雨が平年より少ない見込みです。

また、日本の6−8月は全国的に、気温がわずかに高めで、雨がわずかに少なくなりそうです。9-11月もこの傾向が続く見込みです(図略)。ただし、中高緯度の予測精度には限界がありますので、今後の予測情報に注意してください。

図3 2017年6月から8月までの海面水温の平年差(ºC)。予測開始日は6月1日。

日々の天気と異なり、季節を決める気候の変動には海面水温が大きく関わっています(参照:季節予測とは?)。特に、熱帯は他の海域に比べて海面水温が高く、わずかな水温の変動が世界の気候に影響をもたらします。

SINTEX-Fの予測によると、今年の6月から8月まで熱帯の太平洋は、全域で海面水温が平年より高くなる見込みです(図3)。先月の記事で予測されていたエルニーニョ現象の発生の可能性は低くなりました。先月に比べて予測が変わった原因の1つとして、春先は他の季節に比べて熱帯太平洋の大気と海洋の結合が弱く、エルニーニョの予測精度が低くなる「Spring Barrier」の影響が考えられます。実際に、他の研究機関でも エルニーニョ現象の発生の可能性は先月に比べ低くなっております(参照:IRI ENSO Forecast)。

一方、熱帯のインド洋は、東部の海水温が平年より低く、西部の水温が高くなる正のインド洋ダイポール現象が強く発達する見込みです。正のインド洋ダイポール現象が発生すると、西日本では気温が高くなる傾向にあります。特に今年は、正のインド洋ダイポール現象に伴う大気の遠隔影響(モンスーン・砂漠メカニズムとシルクロードパターン)によって小笠原高気圧が強まり、気温が高くなる見込みです(図略)。

それでは、これらの気候変動現象は今後どのように発達していくのでしょうか?

図4 2017年6月以降に予測される、エルニーニョ指数とインド洋ダイポール指数(ºC)。予測開始日は6月1日。青線が観測値、灰線が9つの異なる初期条件で計算した予測値、赤線が9つのグレーの予測値の平均値。

そこで、熱帯域の気候変動現象が最もよく現れる海域で平均した海面水温の平年差を見てみましょう。エルニーニョ指数を見ると(図4上段)、11月にはエルニーニョ現象の発生の目安となる0.5度をわずかに超え、冬にピークに達します。年末にかけて、弱いエルニーニョ現象 が発生する見込みです。一方、インド洋ダイポール指数ですが(図4下段)、7月には1度を超えて強く発達し、夏から秋にかけてピークに達する見込みです。

今年の夏から秋にかけて、正のインド洋ダイポール現象が強く発達すると予測していることから、日本の天候は平年に比べて高気圧に覆われやすく、気温が高く、雨が少なくなる見込みです。

日本を含む世界の気候には、太平洋に発生するエルニーニョ現象やラニーニャ現象だけでなく、インド洋に発生するインド洋ダイポール現象なども大きく影響を及ぼすことが分かっています。今年の6月から8月は、インド洋では強い正のインド洋ダイポール現象が発達し、特にインドネシアやオーストラリアでは干ばつが起こる可能性があります。海洋起源の気候変動現象がこれからどのように変動し、世界の気候にどのような影響を与えるか、今後注意してみていきましょう。