2017年7月号:暑い夏がやって来た

写真:横浜研究所の中庭

今年も暑い夏がやって来ました。写真を撮ろうと中庭に出たら、汗でびっしょりになるほど、日差しが強かったです。気象庁の発表によると、6月の天候は、東日本で日照時間が平年に比べてかなり多く、雨もかなり少なかった模様です(気象庁:6月の天候)。今後も雨が少ない状態が続くと、暑さによる熱中症の被害だけでなく、関東地方では水不足(参考;東京都水道局)も懸念されます。これからの季節、日本を含む世界の天候は一体どうなるのでしょうか?

SINTEX-Fの季節予測によると、今年の9-11月は、ロシアやアメリカの中央部を除く世界の多くの地域で気温が平年より高くなりそうです。また、西アフリカや東アフリカでは雨が平年より多く、インドネシア、オーストラリア、中国東部、ブラジルでは雨が少なくなる見込みです。

原因の1つとして挙げられる熱帯域の気候変動現象ですが、太平洋では熱帯域全体で水温が平年より高い状態が続き、一方で、インド洋では東部で水温が平年より低く、西部で高くなる正のインド洋ダイポール現象が強く発達しそうです。このため、インド洋東部から海洋大陸にかけて対流活動が弱まり、特にインドネシアやオーストラリアでは干ばつが起こる可能性があります。

今年の9月から11月の気温と降水量は?

図1 2017年9月から11月までの地上気温の平年差(ºC)。 予測開始日は7月1日。

今年の9月から11月までに予測される世界の気温です。SINTEX-Fの予測によると、世界の多くの地域で気温が平年より高くなりそうです(図1)。一方で、ロシアやアメリカの中央部では、気温が平年より低くなる見込みです。

図2 2017年9月から11月までの降水量の平年差(mm/日)。予測開始日は7月1日。

次に、今年の9月から11月までに予測される世界の降水量を見てみましょう。SINTEX-Fの予測によると、西アフリカや東アフリカでは、雨が平年より多くなりそうです(図2)。一方で、インドネシア、オーストラリア、中国東部、ブラジルでは、雨が平年より少ない見込みです。

また、日本の9−11月は、気温がわずかに高めで、雨がわずかに少なくなりそうです。ただし、中高緯度の予測精度には限界がありますので、今後の予測情報に注意してください。

図3 2017年9月から11月までの海面水温の平年差(ºC)。予測開始日は7月1日。

日々の天気と異なり、季節を決める気候の変動には海面水温が大きく関わっています(参照:季節予測とは?)。特に、熱帯は他の海域に比べて海面水温が高く、わずかな水温の変動が世界の気候に影響をもたらします。

SINTEX-Fの予測によると、今年の9月から11月まで熱帯の太平洋は、全域で海面水温が平年より高くなる見込みです(図3)。一方、熱帯のインド洋は、東部の海水温が平年より低く、西部の水温が高くなる正のインド洋ダイポール現象が強く発達する見込みです。正のインド洋ダイポール現象が発生すると、西日本では気温が高くなる傾向にあります。今年の場合、正のインド洋ダイポール現象に伴う大気の遠隔影響(モンスーン・砂漠メカニズムとシルクロードパターン)によって小笠原高気圧が強まり、気温が高くなる見込みです(図略)。

それでは、これらの気候変動現象は今後どのように発達していくのでしょうか?

図4 2017年7月以降に予測される、エルニーニョ指数とインド洋ダイポール指数(ºC)。予測開始日は7月1日。青線が観測値、灰線が9つの異なる初期条件で計算した予測値、赤線が9つのグレーの予測値の平均値。

そこで、熱帯域の気候変動現象が最もよく現れる海域で平均した海面水温の平年差を見てみましょう。エルニーニョ指数を見ると(図4上段)、今年の冬まで水温が平年よりもわずかに高い状態が続きます。その後、来年の春には平年並みの状態に戻る見込みです。一方、インド洋ダイポール指数ですが(図4下段)、8月には1度を超えて強く発達し、夏から秋にかけてピークに達する見込みです。

今年の夏から秋にかけて、正のインド洋ダイポール現象が強く発達すると予測していることから、日本の天候は平年に比べて高気圧に覆われやすく、気温が高く、雨が少なくなる見込みです。今年と似たケースが過去にもあり、正のインド洋ダイポールが発生した1994年には、日本は背の高い高気圧に覆われ、雨が少なく、記録的な猛暑になりました(参照)。また、2006年には、豪州で記録的な干ばつになり、小麦の収量が減りました(参照)。このように、正のインド洋ダイポール現象が大気の遠隔影響を通して引き起こす異常気象に今後注意する必要があります。

日本を含む世界の気候には、太平洋に発生するエルニーニョ現象やラニーニャ現象だけでなく、インド洋に発生するインド洋ダイポール現象なども大きく影響を及ぼすことが分かっています。今年の9月から11月は、インド洋では強い正のインド洋ダイポール現象が発達し、特にインドネシアやオーストラリアでは干ばつが起こる可能性があります。海洋起源の気候変動現象がこれからどのように変動し、世界の気候にどのような影響を与えるか、今後注意してみていきましょう。

なお、9-11月の予測を示しているのは、秋という季節の気候を意識しているからです。気候の研究者は、1年のうち4つの季節を春(3-5月)、夏(6-8月)、秋(9-11月)、冬(12-2月)に分けて議論することがよくあります。ちなみに、南半球の9-11月は春にあたります。