「ちきゅう」のための海流予測 (2) アンサンブル予測KFSJ

掘削船「ちきゅう」にとって問題になる強い海流がいつ来るかを、ぴったり予測するのは難しい挑戦です。それは、天気予報で、ある地点で強風が吹き始める時刻を、ぴったり予測するというのが難しいのと同じです。そのため、天気予報でも行われているように、幅をもたせた予測が必要です。

そこで、「ちきゅう」のための海流予測では、黒潮親潮ウォッチで通常使っているJCOPE2に加えて、新開発のアンサンブル予測KFSJも投入します(※1)。

アンサンブル予測については2016年3月4日号解説「黒潮はどれくらい先まで予測できるのでしょう?」で触れました。この予測では、ほんの少しずつ変化をつけた「並行世界」を用意します(このような並行世界の集まりをアンサンブル、個々の並行世界をアンサンブルメンバーといいます)。この「並行世界」からスタートして、黒潮の予測をします。もし「並行世界」のメンバーのちょっとした違いが小さいまま同じような予測結果であれば、予測はかなり確実ということになります。もし予測結果がばらつくようであれば、予測結果に幅があることになります。

アンサンブル予測KFSJでは20のアンサンブルメンバー(並行世界)を使って黒潮を予測します。このKFSJを使った、「ちきゅう」のための海流予測の特別サイトがhttps://www.jamstec.go.jp/jcope/kfsj/です。

中身については、おいおい解説するとして、今回は図を一枚紹介します。図1は、「ちきゅう」掘削地点での、KFSJによる、海面(深さ0m)での流速(青線)と流れの向き(緑線)の3月11日からの予測です。20のアンサンブルメンバーで計算しているので、予測結果の線が20本づつあります。

流速(青線)を見ると、時期にやや幅があるものの、3月末にかけて、どの線も流速が上昇すると予測しています。つまり、KFSJは、この時点の予測で、3月末に流速が上昇することを確実視していることがわかります。

一方、4月中旬にはいくつかの青線が流速の急激な下降を予測しています(※2)。同時に、流れの向きをしめす緑線もいくつか急激に変化しています。ただし、流れが急速に変化する時期は線によってばらばらですし、あまり流速が変化しないという予測の線もあります。つまり、4月中旬の流速下降の予測はまだ確実ではないようです。

Fig1

図1: KFSJによる3月11日からの予測。青線は海面(深さ0m)での流速(単位はノット。2ノットは約1メートル毎秒)。緑線は流れの向き(北向きが0度, 東向きが90度)。

 


※1
専門用語ではアンサンブル・カルマンフィルターという手法を使います。
参考: Miyazawa, Y., T. Miyama, S. M. Varlamov, X. Y. Guo, and T. Waseda, 2012: Open and coastal seas interactions south of Japan represented by an ensemble Kalman filter. Ocean Dynamics, 62, 645-659. doi:10.1007/s10236-011-0516-2 (英語)

※2
この急激な変化は、3月25日号で、離岸傾向jが、「ちきゅう」の掘削地点に近づき、黒潮が岸から離れることによって、流速が下降するという黒潮予測に対応しています。


kurosio-mini2

「ちきゅう」のための海流予測の連載記事一覧はこちら
この連載では、流れの速さの単位として船舶でよく使われるノット(2ノットは約1メートル毎秒)を使用します。
「ちきゅう」のための海流予測KFSJの特別サイトはhttps://www.jamstec.go.jp/jcope/kfsj/です。KFSJついては連載第2回で紹介しました。
「ちきゅう」の観測の様子に関しては「ちきゅう」公式twitterを参照