「ちきゅう」夏合宿 (2016/11/10追記あり)

8月9・10日に、地球深部探査船「ちきゅう」上で、JAMSTECの様々な分野の研究者が集まり、研究合宿を行いました(図1)。この研究会は、JAMSTEC内のイノベーションアウォード萌芽研究「海底~海面を貫通する海洋観測データの統合解析」(代表:地震津波海域観測研究開発センター・有吉慶介研究員)の一環です。JAMSTECの異なる部署で個々に取り扱っていたデータを組み合わせることで、全く新しい海洋観測体制を構築する可能性を探るためです(図2)。

Fig1

図1: 研究合宿の集合写真。奥の高い青いやぐらが掘削のための塔。手前の白い搭は気象センサーなどが設置されている。

 

Fig2

図2: イノベーションアウォード萌芽研究「海底~海面を貫通する海洋観測データの統合解析」の概念図。

 

異なる分野の協力の例をあげます。連載:「ちきゅう」のための海流予測で見たように、「ちきゅう」と、その支援船は、航海中に海流や気象のデータを集めています。この観測の目的は「ちきゅう」が安全に掘削を行うためですが、ただでさえ強い海流のため観測が難しい黒潮の中で集められたデータは、海流や気象の研究者にとっても貴重です。連載でも見たように、海流予測の検証にも使うことができます。「ちきゅう」のデータを使って、海流予測の精度を向上することができれば、「ちきゅう」の安全な運航に貢献することができます。このように研究者が協力しあうことは、双方にとってメリットがあります。

もう一例あげます。地震・津波観測監視システム(DONET)には地震計だけではなく海底圧力計も設置されています。津波の早期検知を目的として置かれたものですが、地震に関係した海底地殻変動もとらえることができます。しかし、海底圧力計のデータは、その上を通る海流や気象の影響も受けることが精度良い分析を難しくしています。一方で、海流や気象の研究者にとっては、今までにない新しい観測データを入手するチャンスです。データをうまく使って海流などの動きを正確に求めることができれば、その変動成分を海底圧力計から取り除き、ゆっくり地震などによる微少な海底の動きをとらえられるようになります。双方の研究者にとってメリットになるだけでなく、海流と地震活動の関係など新しい科学が生まれるかもしれません。

例としてあげた「ちきゅう」とDONETのデータ以外にも、JAMSTECでは海面から海底まで様々なデータを取り扱っており(図2)、データを組み合わせるさまざまなアイディアが、研究合宿で話し合われました。この目的のために、従来の観測機器の改良や新しい開発も必要になるでしょう。いろいろな現象が混じりあったデータを、うまく取り扱う統計手法も求められています。

分野をまたいだ新たな観測体制を「海底~海面を貫通する海洋観測データの統合解析」と呼び、海洋研究者が集まったJAMSTECならではの研究を進めて行きます。これからの成果にご期待ください。

2016/11/10 追記

海底~海面を貫通する海洋観測データの統合解析に知りたい方は、JAMSTECの情報誌であるBlue Earthの第28巻第3号の特集「JAMSETC発のイノベーション」中の記事「海底から海面を貫通する統合解析で 地震・海洋科学にパラダイムシフトを起こす」をご覧ください。