宿毛湾の海を活かしたまちづくりレポート3

〜宿毛湾の漁業関係者との意見交換〜

月日が経つのは早いもので、前回の投稿から1年近く経ちました。この間に、少しずつ進めてきた宿毛湾の海況予測システムの検証を行い、そして、ついに2月24日、宿毛湾の漁業関係者を前に公開することになりました。東京から飛行機で1時間、バスと電車に揺られること3時間、宿毛湾は高知県の最西南端に位置しています。宿毛湾は豊後水道に面していますが、沖合を流れる黒潮の影響を受けて、豊かな漁場となっています。また、ダイビングや釣り、だるま夕日など観光スポットにもなっています。

図1:高知県宿毛湾の漁港

公開を前に、宿毛湾の海況予測システムの検証に協力していただいた現地の漁業関係者を訪問しました。宿毛市内から車で1時間、山道を抜けて見えてきたものは、宿毛湾の青く美しい海でした(図1)。海を取り囲むように集落が並び、背後には急峻な山がそびえ立っています。まるで、山が海を見守っているような光景でした。この湾では資源量の減少が危惧されているクロマグロの養殖が行われ、沖合では中型まき網の漁が盛んです。

早速、現地の漁業関係者を訪ねて、漁船を見せていただきました。漁船には魚影を調べる装置のほか潮流計や水温計がついており、まき網の漁場を決めるのに欠かせないそうです。また、出漁した日には、私たちが試験的に提供した宿毛湾の海況予測システムのどこが正しく間違っていたか、検証していただいてます。宿毛湾の海況予測システム(図2)は分解能が 200 mととても細かく(豊後水道の海況予測システムは分解能3km)、水温や潮流など観測データが不足している沿岸域では漁業関係者による協力が欠かせません。

図2:豊後水道(分解能3km)と宿毛湾(分解能200m)の海況予測システム

宿毛湾の海況予測システムの公開のため、JFすくも湾漁業協同組合を訪問しました。私たちの期待以上に、30名を超える漁業関係者が会場に集まり(図3)、前半には笹川平和財団海洋政策研究所が宿毛湾を含む全国5カ所で行っている沿岸域総合管理のビデオ紹介を、後半にはJAMSTECアプリケーションラボが開発した宿毛湾の海況予測システムの説明を行いました。最後に、漁業関係者との意見交換を行いました。意見交換の時には会場から沢山の質問があり、例えば、潮流の単位は毎秒何mではなくノットで示してほしい、漁業関係者が簡単に観測データを送れる測器を提供してほしい、など漁業者の視点から貴重なご意見をいただくことができました。

図3:JFすくも湾漁業協同組合にて漁業関係者との意見交換

今回の訪問で感じたことは、漁業関係者が宿毛湾の海況予測システムに強い関心があり、また、システムの予測精度を上げるために現場の観測データの提供に前向きな姿勢であることです。宿毛湾の海を最もよく知っているのは漁業関係者です。漁業関係者の関心と協力があってこそ、海況予測システムをより良いものにすることができます。また、海況予測システムは漁業の効率化につながり、ひいては、豊かな海洋資源を持続可能に利用し、管理することにもつながります。海を利用する漁業関係者と研究者の協働作業を通して、「宿毛湾の海を活かしたまちづくり」につながる海況予測システムの開発に、私たちは今後も取り組んでいきたいと考えています。