「ちきゅう」のための海流予測4 (2) 黒潮大蛇行で流れが弱い中、パイプを降ろす

この記事は「ちきゅう」のための海流予測4の連載第2回目です。

作業始まる

「ちきゅう」から海流の観測データが届いたので、今回はそれを見ていきます。前回予測していたように、黒潮大蛇行で掘削地点では流れが弱く、作業が順調に進められているようです。

「ちきゅう」は、10月10日の出港し、伊豆半島石廊崎南西沖でコア試料採集装置のテストを行った後、10月13日に掘削地点に到着しています。図1の赤線は、10月13日から19日午前9時までの「ちきゅう」の航路です。13日に掘削地点に到着以来、掘削地点(点線の緯度・経度の交点)で作業を継続しています。BOP(噴出防止装置)とライザーパイプを下降させ、海底の孔口装置への接続に成功しています。「ちきゅう」の作業内容に関しては「ちきゅう」公式twitterをご参照ください。

図1の背景は予測モデルJCOPE-T DAで推定した海流で、灰色の陰影で海流の流れの強さ、流線で流れの向きを表現しています。前回に書いたように、現在は黒潮が南に大きく蛇行して流れています。「ちきゅう」の掘削地点は大蛇行にともなう時計回りの海流の渦の中心近くにあり、下で観測値をしめすように、流れが弱い所になっています。

今回の観測には支援船も参加しています。支援船は、「ちきゅう」に紀伊半島の港から物資を補給したり、「ちきゅう」の上流から強い海流が来ないかを警戒したりすることで、「ちきゅう」の観測を助けます。支援船「第八明治丸」の航路を青線で図1にしめしました。

図1: 2018年10月13日から19日までの「ちきゅう」(黒太線)と「第八明治丸」(青線)の航路。背景は予測モデルJCOPE-T DAで推定した水深15mの期間平均の海流で、灰色の陰影で海流の流れの強さ(ノット)、流線で流れの向き。点線の緯度・経度の交点が掘削地点。

 

「ちきゅう」公式twitterより


 

掘削地点での流速

図2の薄い青線は、海流予測モデルJCOPE-T DAで予測した掘削地点の流速(15m深)です。毎日更新される予測をすべて図にしているので、複数の線があります。黒潮大蛇行のために流速は弱く、1ノット前後の流速を予測していました。

図2の黒太線は、掘削点で(15m、ドップラー流速計)の「ちきゅう」が実際に観測した流速です。観測された流速は、さらに小さい流速でした。観測がある期間の予測の平均値は1.02ノット、観測値の平均は0.61ノットでした。JCOPE-T DAは、これからさらに流速が小さくなると予測しています(図2)。次回以降の連載で答え合わせします。黒潮予測記事でも黒潮が大きく変化する兆候は見えないことから、このまま黒潮大蛇行が続き、掘削地点では小さな流速で推移すると思われます。「ちきゅう」にとっては良い条件です。

支援船「第八明治丸」も流速を観測していますが、「ちきゅう」の近くでほぼ同じ流速を観測していることから、今回は省略します。

Fig2

図2: 黒太線は「ちきゅう」のドップラーによる15m深の流速(ノット)の時系列。掘削地点1.5km圏内にいるデータのみをプロット。薄い青線は、JCOPE-T DAによる海面近く(15m深)の流速(ノット)予測結果。毎日更新される予測をすべて重ねた。横軸が時間で、例えば「10/14」は10月14日の0時(日本時間)。縦軸が流速の強さ(ノット)。

 

流速は過大に予測していましたが、変動の様子それなりに良く再現できていました。変動の様子を良く比較するために、図2の観測のある期間を拡大し、大きさをそろえるために、予測に0.6を掛けてみました(図3)。こうした形で見ると予測と観測は割と合っています。予測でも観測でも1日に2回上下しているのは潮汐(潮の満ち引き)の影響です。2018年1・2月の航海の時は変動はここまでうまく合っていなかったので、予測モデルの改良の効果が出ているのかもしれません。ただ、まだ航海は始まったばかりですので、これからも検証していきます。

Fig3

図3: 観測と予測の比較。黒太線は「ちきゅう」の流速(ノット)の時系列。薄い青線は予測結果。予測には0.6を掛けた。