「ちきゅう」のための海流予測4 (1)「南海トラフ地震発生帯掘削計画」航海開始

「ちきゅう」第358次研究航海始まる

海洋研究開発機構の地球深部探査船「ちきゅう」は、国際深海科学掘削計画(※IODP: International Ocean Discovery Program)の一環として、紀伊半島沖熊野灘で、第358次研究航海「南海トラフ地震発生帯掘削計画:プレート境界断層に向けた超深度掘削」を実施します。今回は2018年10月から2019年3月までの予定の、半年に及ぶ航海です。

掘削を行うには、「ちきゅう」は海に対して静止する必要があります。強い海流は「ちきゅう」が位置を保つのを難しくします[1]。そこで、わたしたちJCOPEグループは「ちきゅう」のために、紀伊半島沖熊野灘365次航海(「ちきゅう」のための海流予測)・室戸沖第370次航海(「ちきゅう」のための海流予測2)・紀伊半島沖熊野灘380次航海(「ちきゅう」のための海流予測3)に引き続き、海流予測情報を提供します。海の一地点の海流予測をするのは難しい挑戦ですが、様々な予測のための情報、予測の注目ポイント、「ちきゅう」の海流・気象条件との闘い等の点に注目してください。

研究航海名 国際深海科学掘削計画(IODP)第358次研究航海
「南海トラフ地震発生帯掘削計画:プレート境界断層に向けた超深度掘削」
期間 2018年10月7日~2019年3月31日 (10月10日出航)
なお、気象条件や調査の進捗状況によって変更の場合があります。
海域 紀伊半島沖熊野灘
プレスリリース URL
特別サイト URL

 

「ちきゅう」公式Twitterより

 


今回の予測情報

今回の「ちきゅう」のための海流予測では、室戸沖第370次航海(「ちきゅう」のための海流予測2)・紀伊半島沖熊野灘380次航海(「ちきゅう」のための海流予測3)で使用したJCOPE-T[2]の改良版であるJCOPE-T DAという予測モデルを使用します。JCOPE-T DAについては後日詳しい情報をお知らせする予定です。

今航海のための海流情報予測特設ウェブページを開設しています。

海流予測特設サイト
https://www.jamstec.go.jp/jcope/vwp/chikyu.2018.10/

黒潮親潮ウォッチでも、航海期間中は「ちきゅう」のための海流予測のハイライトを解説する予定です(不定期)。

黒潮大蛇行

2006年3月から4月に熊野灘で行われた第365次航海の時は(「ちきゅう」のための海流予測1)、黒潮が流れるど真ん中で掘削作業が行われました。黒潮は最大5ノット[3]を超える流速に達しており、「ちきゅう」は難しい操船をせまられました。

一方、2018年1月から2月に熊野灘で行われた第380次航海の時は(「ちきゅう」のための海流予測3)、2017年8月に始まった黒潮大蛇行が続いており、掘削地点からは黒潮が遠く、流速が小さい状態でした。そのため「ちきゅう」は順調に作業を進めることができました。

現在も黒潮大蛇行は続いています(黒潮予測記事参照)。図1は海流予測特設サイトによる10月10日午前9時の流速の予測図です。黒潮の強い流れは今回の掘削地点C0002(図1)から大きく南に離れています。そのため掘削地点では小さめの流速を予測しています。今回の航海期間中に黒潮大蛇行が続くのかが今後の最大の注目点です。また台風の季節はまだ続いていることから、台風の動向も気になる所です。

Fig1

図1: 海流予測特設サイトによる2018年10月10日午前9時の流速の予測図。色が流れの強さ(ノット)。黒矢印(ベクトル)は海流の向き。白い矢羽記号は風速風向の記号。C0002(●)が今回の掘削地点。

 

 

 

 

  1. [1]参考: National Geographic 日本版【連載】海の研究探検隊 JAMSTEC File8 巨大探査船「ちきゅう」を動かす3人の男  第2回「ちきゅう」、南海トラフで黒潮と闘う
  2. [2]JCOPE-Tに関しては、「ちきゅう」のための海流予測2 (6)予測モデルJCOPE-Tについて、で解説しています。
  3. [3]「ちきゅう」のための海流予測では流速の単位にノットを使います。2ノット=1メートル毎秒です。