航海順調
「ちきゅう」から海流の観測データが届いたので、今回はそれを見ていきます。前回予測していたように、黒潮大蛇行で掘削地点では流れが弱く、調査が順調に進められているようです。
図1の赤線は、航海が始まった1月15日から29日までの「ちきゅう」の航路です。16日に掘削地点に到着以来、掘削地点で調査を継続しています。
図1の背景は予測モデルJCOPE-T-EASで推定した海流で、灰色の陰影で海流の流れの強さ、流線で流れの向きを表現しています。前回に書いたように、現在は黒潮が南に大きく蛇行して流れています。「ちきゅう」の掘削地点は大蛇行にともなう時計回りの海流の渦の中心近くにあり、下で観測値をしめすように、流れが弱い所になっています。
調査開始以来「ちきゅう」が継続して掘削地点にいることが注目されます。2016年3-4月に同じ熊野灘で行われた以前の航海時には、黒潮の強い流れによるリスクを避けるために、掘削地点と黒潮が弱い海域との移動を繰り返しながら作業が進められました(例えば、「ちきゅう」のための海流予測 (7) 「ちきゅう」の観測と答え合わせ」)。今回は、そのような移動は必要ないようです。
今回の観測には支援船2隻も参加しています。「あかつき」(支援船1)と「第八明治丸」(支援船2)です。支援船は、「ちきゅう」に紀伊半島の新宮港から物資を補給したり、「ちきゅう」の上流から強い海流が来ないかを警戒したりすることで、「ちきゅう」の観測を助けます。支援船1と支援船2の航路は、それぞれ緑線と青線で図1にしめしました。
「ちきゅう」公式twitterより
【#IODP Expedition380】<January 31, 2018> ☁️
CLSI@Sea Lab Manager Lena signing the Hole C0006G LTBMS CORK head in the moonpool before deployment.#CHIKYU #JAMSTEChttps://t.co/Qcuqz6CUU5 … pic.twitter.com/zhyafBSOEB— CHIKYU 地球深部探査船「ちきゅう」 (@Chikyu_JAMSTEC) 2018年2月1日
周辺の海流
結論から言うと、予測モデルは黒潮の位置などを良くとらえていました。
図2(a)は、例として1月17日の「ちきゅう」、支援船1、支援船2の航路です。●が1日の最初の地点で▲が一日の最終地点です。背景に重ねているのはJCOPE-T-EASが計算した水深15mの流速です。「ちきゅう」(赤線)は掘削地点(★)で停まっています。支援船1(緑線)は黒潮を横切ってます。支援船2(青線)は黒潮大蛇行にともなう反時計回り渦の北西部を横切っています。
図2(b)は、船の緯度位置と船が観測した流速(15メートル深)の関係です。図2(c)は、時刻による流速の変化です。モデルがしめす黒潮の位置を支援船1が通過する時に、支援船1の観測する流速が非常に大きくなっています。実際に支援船1が黒潮を横切ったことがわかります。同じように、支援船2が黒潮大蛇行にともなう反時計回り渦の北西部を通過するときに流れが若干大きくなっており、反時計回りの渦を実際に横切っていることがわかります。
図3には、支援船1と支援船2の航路上に、支援船1と2が観測した流速の1時間平均の流速を向きと強さの矢印で表現して重ねました。モデルと観測の流れの向きもだいたい合っています(観測は1時間平均、モデルは1日平均なので同じものを比べているわけではないことに注意)。
掘削地点での流速
掘削地点での流速をJCOPE-T-EASとJCOPE-T-JCWという2つのモデルで予測しています。この2つのモデルについては、「ちきゅう」のための海流予測2 (6)予測モデルJCOPE-Tについてと(7)予想どおり海面下の流速上昇で解説しています。
図4の薄い青線は、JCOPE-T-EASで予測した掘削地点の流速(15m深)です。毎日更新される予測をすべてプロットしているので、複数の線があります。同じく緑線は、JCOPE-T-JCWによる予測です。黒潮大蛇行のために流速は弱く、1ノット前後の流速を予測していました。
図4の赤線は、掘削点で(15m、ドップラー流速計)の「ちきゅう」が実際に観測した流速です。観測された流速は、予測よりもさらに小さく、平均0.47ノット、最大でも0.92ノットでした。予測は流速を過大に予測していましたが、黒潮が遠く流速が小さいことは予測できていたということになるでしょう。
「ちきゅう」のための海流予測サイトでは、掘削地点では1ノット前後の流速が続くと予測しています。黒潮親潮ウォッチの黒潮予測でも黒潮が大きく変化する兆候は見えないことから、このまま小さな流速で推移すると思われます。