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話題の研究 謎解き解説

全生物の共通祖先は、混合栄養生命だった?
生命誕生に迫る始原的代謝系を発見

すべての生命に共通する祖先が誕生したのは、38億年以上前だと考えられています。その生命は、自ら有機物をつくれる「独立栄養生命」だったのか、ほかから有機物を利用して生きる「従属栄養生命」だったのか。その議論が世界中の研究者の間で続く中、このたび、この2つの説を統合してそれぞれの弱点を解決した「混合栄養生命説」が発表されました。

生命誕生に迫る始原的代謝系の発見
~多元的オミクス研究による新奇TCA回路(クエン酸回路)の証明~

論文タイトル:A primordial and reversible TCA cycle in a facultatively chemolithoautotrophic thermophile .

  • 生命の共通祖先が「独立栄養生命」または「従属栄養生命」かで、議論が長く続いている。
  • 沖縄の熱水域から単離した始原的な微生物Thermosulfidibacter takaiiを分析した。その結果、TCA回路(クエン酸回路)という反応経路を使って、自ら有機物を合成する独立栄養生物としても、また、環境中から有機物を取り込んで混合栄養生物としても、生きることがわかった。
  • 混合栄養生物は、エネルギーも有機物から獲得する従属栄養生物と違って、有機物を取り込む一方で、エネルギーは有機物以外から獲得する。Thermosulfidibacterは、有機物を取り込んだ時も、エネルギーは水素から獲得する。
  • 全生物の共通祖先は「混合栄養生命」だったと考える。

この論文をScienceに発表した、布浦 拓郎海洋生命理工学研究開発センター長代理に聞きます。今回の内容はちょっと難しいですよ! がんばって一緒に謎解きしましょう!

【目次】
最初の生命は、従属栄養か独立栄養か?
始原的な微生物Thermosulfidibacter
全ゲノム解析から出てきた謎
どのようにして炭素固定をしている?
混合栄養生命説

最初の生命は、従属栄養か独立栄養か?

布浦さんは、どのようなきっかけで研究の道へ進まれたのですか?

小さい時から生き物を不思議に思い、なんとなく好きで興味がありました。生物を扱う仕事がしたいと京都大学農学部に進学しました。講義を受けたり本を読んだりするうちに、生物の一番根源的な問題である“生命の起源”に興味を抱くようになりました。そして海洋微生物学の研究室に入り、現在に至ります。ただ、実際に海洋微生物が研究対象になったのはJAMSTECに来てからです。


写真1 布浦 拓郎 海洋生命理工学研究開発センター長代理

学部生時代から興味を抱いた生命の起源について、今回は新しい考えを発表されたのですね。そもそもどのような説があったのでしょうか。

初期生命については、現在2つの説があります(図1)。1つは、「独立栄養生命起源説」です。たとえば鉱物などの表面で水素などの化学エネルギーを得て、炭素固定をして有機物をつくり生きるものが誕生したという説です。

もう1つは、「従属栄養生命起源説」です。有機物のプールで、その有機物を利用して生きるものが誕生したという説です。


図1 地球上で最初の生命は、どっち?

しかし、従属栄養生命起源説だと、プールの中の有機物を生物自身が使いきったら生命が途絶えることになります。だからといって独立栄養生命起源説でも謎が残ります。有機物をどのように濃集させて細胞をつくるのか、また、生命が誕生するには有機物が濃くなることが必要ですが、それだけ濃い有機物を何故使わなかったのかわからないのです。

議論の決着がつかない中、このたび我々が発表したのが、2つの説を統合してそれぞれの弱点を解決した「混合栄養生命説」です。

どのようにしてその結論に至ったのか、ぜひ聞かせてください。