日本の東の海域からの水の沈み込みを船舶観測で捉える
日本の南や東の海域では冬季に、黒潮が南から運んできた暖かい水が北西の季節風によって冷やされ、深さ数百メートルに達する深い対流が起こります。 その結果つくられる厚さ数百メートルの鉛直一様層「モード水」は、春以降、海洋内部に沈み込んでいきますが、その際、水温偏差や二酸化炭素等の物質を運び、 気候変動に影響を及ぼします。日本の南の海域では「亜熱帯モード水」が形成されるのに対し、日本の東の海域では海洋前線や中規模渦が複雑な構造をなしており、 そこでは「軽い中央モード水」「重い中央モード水」「移行領域モード水」といった数種類のモード水が形成されます。これらの形成や沈み込みの実態はまだよく分かっていません。
そこで私たちは、2013年4月と2016年6月に「気候系のhotspot」第1期の支援を受け、日本の東方海域で白鳳丸による各1か月間の観測を行いました。 北緯41度と北緯37.5度に沿った東西2測線において、水温・塩分などの観測を経度10分ごとに細かく行う計画でしたが、2013年4月の航海では低気圧の直撃を7度も受け、 北緯41度測線での観測は計画の1/3程度しか行うことができませんでした。これに対し、2016年6月の航海は非常に天候に恵まれ、2013年の北緯41度測線を延伸するとともに、 北緯37.5度測線を端から端まで観測することができました。その結果、北緯41度測線の亜寒帯前線付近では「重い中央モード水」と「移行領域モード水」、 両測線の東側部分では「軽い中央モード水」と「重い中央モード水」が形成され、北緯37.5度測線の西側部分ではモード水の形成がほとんど見られないといった 詳細な水塊形成構造が明らかとなりました(図1)。

図2:渦A(a)、渦B(b)、渦C(c)の中でCTD観測により得られた、ポテンシャル渦度(太線)とAOU(見かけの酸素消費量。細線)の鉛直プロファイル。上側は圧力(メートル単位の深さにほぼ等しい)、下側は密度を鉛直座標として描いたもの。矢印はモード水の「コア」を表す
私たちのA02-5班では今後、酸素・pHセンサー付アルゴフロート13台を日本の南東~南の海域に展開し、 2年間にわたり亜熱帯モード水の詳細な形成・輸送・散逸過程を調べる予定です。フロートによる物理・化学データは、 モード水の新たな形成・輸送・変質プロセスを明らかにしてくれることでしょう。