hotspot2公開シンポジウム
1.はじめに
科学研究費補助金新学術領域研究「変わりゆく気候系における中緯度大気海洋相互作用hotspot」(通称「hotspot2」プロジェクト)の一般向け公開シンポジウムを,2024年3月23日午後に東京大学先端科学技術研究センターで開催した.hotspot2は2019年4月からの5年間にわたって行われたプロジェクトで,シンポジウムはその最終月に行われた.hotspot2プロジェクトは,オンラインでの会議の開催などを先駆的に行い,そこで用いたシステムGather(木戸ほか 2021)は,現在の日本気象学会春季大会で利用されている.
このシンポジウムでは,これまでにない新しい試みとして,講演者と共同研究者で1つの講演を行う「バディシステム」を採用した(詳細は2節参照).また,現地開催とオンライン配信のハイブリッド形式とし,SNS等を使って積極的に宣伝を行った.その結果,シンポジウムは成功裏に終了し,特に若い参加者の割合が高かった.本報告では,今後の同様のシンポジウム開催の参考にして頂くことを目的に,このシンポジウムの準備・運営に関する知見を提供する.
今回の公開シンポジウムでは,4件の講演と登壇者によるパネルディスカッションを,休憩を挟んで約3時間30分間行った.会場として,東京大学先端科学技術研究センターのENEOSホールを利用した.司会者・登壇者は以下の通りである:
・司会:
多森成子(三重テレビ・気象キャスター)
・登壇者「講演タイトル」:
西川はつみ(東大大気海洋研)・岡 英太郎(東大大気海洋研)「台風に影響を与える海の中の巨大な“アレ”」
川瀬宏明(気象研)・今田由紀子(東大大気海洋研)「温暖化で極端な気象が増えたのは本当か」
杉本周作(東北大)・栃本英伍(気象研)「終わらない黒潮大蛇行!?見えてきた日本への影響」
中村 尚(東大先端研)・野中正見(海洋研究開発機構)「昨夏の記録的猛暑─海からの影響は?」
当日の参加者は,現地参加49名,オンライン視聴が261名(YouTubeのユニーク視聴者数)であった.このうち,合計114件のアンケート回答を集計できた.以下,2節でバディシステムを採用した講演・パネルディスカッション,3節で宣伝,4節でオンライン配信について詳細に説明する.
2.バディシステム
2.1 構想
hotspot2プロジェクトの特徴は,多くの気象と海洋の専門家が協働していることである.そこで,その締め括りのシンポジウムを行うにあたり,事務局メンバー(本稿著者ら)が以下のような構想を立てた:
・講演者(プロジェクトメンバー)同士の対話を通じて,聴講者に,このプロジェクトの面白さを知ってもらうこと,
・1つの講演(テーマ)について,異なる専門の研究者による様々な観点からの知見を聴講者に提供すること,
・聴講者からの質問が出やすい,講演者との双方向的なコミュニケーションの取れる形にすること.
これらの点から着想を得て,「バディシステム」を導入した.通常,講演は講演者が1人で行うが,「バディシステム」では講演者と共同研究者(バディ)とで1つの講演を行う.講演者が壇上でスライドを使って講演し,バディは,スクリーン横の司会者席から講演についてのフォローを行う.この試みは,おそらく前例のないものである.そのため,講演にバディがどのように介入(共同)するかについては,各講演者の裁量に任せる形とした.その結果,講演によって講演者とバディとの共同の仕方が四者四様となって,講演の幅が広がったように感じた.
hotspot2プロジェクトの特徴を活かして,各講演について,気象と海洋の専門家両方からの見方で議論するために気象学者と海洋学者とで,あるいは得意分野の異なる研究者同士でコンビを組むように企画した.まず,講演者4名を決定し,各講演者にそれぞれバディの選定を依頼した.
2.2 事前打合せ
講演者・バディと事務局メンバーとは,1月上旬にオンラインで一度打ち合わせを行った.事務局メンバーと司会の多森氏とは,1月下旬とシンポジウム1週間前の,計2回オンラインで打ち合わせを行った.多森氏と事務局メンバーとで進行台本を作成し,前日に講演者・バディと事務局,当日のアルバイトスタッフとで共有した.進行台本には,当日の講演者や事務局・スタッフのタイムスケジュールやステージでの配置が記載されている.
登壇者同士の打ち合わせについては,シンポジウム当日の午前中に講演者・バディと司会者(多森氏)が顔を合わせて2時間ほどリハーサルを行った.リハーサルでは全体の流れを確認しながら,各講演者が使用するPCの接続のテスト,講演者・バディと司会者での立ち位置や動きも含めた講演の打ち合わせ,パネルディスカッションの流れを確認した.最後に,事務局と講演者・バディとで相談して,パネルディスカッションで取り上げる事前質問の選定を行った.
講演時には,ステージ上の講演者と司会者・バディから見える場所に,ディスプレイとタイマーを設置した.ディスプレイにはYouTubeの配信映像(4節参照)を表示した.
2.3 講演
今回,登壇者が通常のシンポジウムよりも多かったことから,シンポジウム開始時に,司会者から登壇者(講演者・バディ)8名を呼び込む形で紹介した.その際,参加者が研究者に親しみを持ってもらえるよう,それぞれに“キャッチフレーズ”をつけて紹介を行った(例えば,「40度傾いても大丈夫!観測船命のドラゴンズファン」).
各講演では,講演者が壇上,バディと司会者がステージ反対側の司会者席にマイクを持って着席し,25分の講演を行った.最初は講演者が話を進めるが,途中でバディが様々な形で講演に介入するスタイルである.講演後,司会者から講演者・バディへの質問を行い,これを含めて各講演につき30分とした.なお,一般の参加者からの質問はここでは受けず,パネルディスカッションの際にまとめて受け付ける形式とした.
西川氏・岡氏の講演では,講演タイトルの「“アレ”」が何なのかを解き明かすことをメインのテーマとした.この講演では,バディ(岡氏)が西川氏の講演の途中で質問をする形で講演者とバディとのやりとりがなされていた.ちなみに“アレ”とは「モード水」のことであった.
川瀬氏・今田氏の講演は,イベントアトリビューションとは何であるか,をメインテーマとしてなされた(第1図a).この講演では,川瀬氏の講演の途中でバディ(今田氏)が登壇し,2人でかけあいをしながらスライドを数枚紹介する,というやりとりがなされた(第1図b).
杉本氏・栃本氏の講演では,日本付近の海流の変動,特に黒潮大蛇行が日本の気候に与える影響が紹介された(研究成果紹介ページ).杉本氏がバディ(栃本氏)に講演スライド数枚について補足を促す形での掛け合いがなされた.
中村氏・野中氏の講演では,2023年夏の日本での猛暑について分析がなされた.講演の最後にバディの野中氏からスライドを数枚紹介する形で中村氏の講演を総括した.
2.4 パネルディスカッション
パネルディスカッションには1時間の枠を設け,司会者・講演者とバディ全員がステージに登壇して(第1図c)以下の構成で進められた:
(1) 講演者・バディからのコメント,
(2) 事前質問への回答,
(3) 会場からの質問と回答.
(1)では,各講演について,その講演者とバディそれぞれから1つずつ追加のコメントをもらった.(2)では,事務局スタッフと講演者・バディとで選定した事前質問に対して,司会者が回答可能な講演者・バディから2〜3名を指名し回答する形とした.事前質問は多岐に渡ったが,類似の質問をまとめ,本シンポジウムに関係の深いものを中心に全部で12件用意し,優先度の高いものから取り上げた.約20分程度の時間で,6つの事前質問に対して回答を行った.(3)では,現地参加者からの質問を受け付けた.今回,若い参加者が多かったこともあり,今後の研究の発展についてや,今後の海洋教育について期待することなど,未来志向的な質問が多かった.
今後の研究の発展に関しては,登壇者の1名である岡氏から,hotspot2後継プロジェクトについての紹介があった(5節参照).なお,オンラインからは,事前質問だけに限り当日質問は受け付けなかった(3.2節参照).
2.5 アンケート
Google Formsでアンケートを集計し,紙媒体での集計は行わなかった.閉会後のスクリーンスライドや会場の2箇所にQRコードを設け,そこからWebに接続する形である.
各講演について8〜9割の方が「分かりやすかった」と回答した.各講演にそれぞれ約30件のコメントや回答(記述)が寄せられ,講演者・バディに対しても多くのフィードバックを得ることができた.今回バディシステムを採用したことで,1つの質問に対して,複数の講演者・バディ(研究者)から回答がなされ,質疑応答の幅が広がったように感じた.司会者がそれぞれの研究者の専門性を把握し,適切な登壇者に質問を振り分けた点も良かったと考えられる.
バディシステムに関して,77%の人が「面白かった」,16%が「(通常通り)1人の講演者のみによる講演が良い」と回答した.ポジティブなコメントとしては,
・雰囲気が柔らかくなって楽しく聴くことができた,
・講演者とバディとのやり取りで難しい話題でも理解しやすくなった,
・(登壇者同士の)人と人の繋がりが見えて興味深く,若い方を鼓舞すると思った,
といったものが寄せられた.一方で
・もっと講演者とバディとで対話があると良かった,掛け合いが少なかった,
・2人で講演するメリットを活かしきれていなかった(試みは面白いと思ったので今後に期待),
・論点がボケてしまった,
といったコメントも寄せられた.今回はそれぞれの講演やそこでの講演者とバディとのやり取りについてはほぼ各コンビに任せる形とした.もし,シンポジウムの準備段階で各講演についてさらに事務局や司会者からの介入を増やせば,より有機的な掛け合いが可能であったかもしれない.一方で,今回のようにある程度任せたことで,それぞれの一般講演に広がりが生じ,予定調和過ぎない意外性のある講演がなされた可能性もある.
今回のバディシステムによって,必然的に登壇者が通常通りの講演会よりも多くなったが,その分上記のような多くのメリットが得られた.今回の試みを発展させたシンポジウムが今後現れることを期待したい.

第1図:当日のシンポジウムの様子.(a, b)川瀬氏・今田氏による講演の様子.(a)はYouTubeでのオンライン配信画面のキャプチャで,講演者(川瀬氏)が講演中に参加者に問いかけを行っている.スクリーン投影画像に加え,講演者(左上段),バディと司会者(左下段)をレイアウトしている.(b)は現地の様子を撮影したもので,バディ(今田氏)が講演者(川瀬氏)の隣に移動し,講演で「掛け合い」をしている様子.(c)会場でのパネルディスカッションの様子.多森氏の司会のもとで,事前質問の1つに中村氏が回答している場面.
3.宣伝
3.1 方法
今回のシンポジウムでは,将来の気象学・海洋学を志す(担う)高校生や大学生(研究者の「卵」)の参加者を増やすことを目標に,宣伝活動を進めた.
まず,1月後半に,宣伝用にA2サイズのポスター(第2図)とA4サイズのチラシを作成した.2月上旬と中旬に,これらを印刷会社を通じて全国の地学教育に関係する中学校・高校(約500校)や各都道府県教育委員会へ郵送した.他に全国各地の大学・研究所に在籍するhotspot2の分担者と,主に関東近郊の大学の知り合いの研究者に,シンポジウム事務局から郵送した.また,気象庁と港区みなと科学館に依頼してポスターを掲示していただいた.さらに,シンポジウムの約2週間前に開催された,気象学会が協賛する地学オリンピックの国内本選大会においても,全国から参加した中学3年生から高校2年生の約70名にチラシを配布した.
また,2〜3月にシンポジウム事務局と司会者の多森氏から,マスメディア関係者,気象キャスター関係者,気象予報士会に対してメールによる宣伝を行った.これには気象学会教育と普及委員会の協力も得た.
本シンポジウムでは日本海洋学会,日本地球惑星科学連合(Japan Geoscience Union,JpGU),日本気象学会から後援を頂き,各学会のウェブページからシンポジウムのお知らせ(イベント情報)を掲載していただいた.また,JpGUからは3月の定期メールニュースにも情報を掲載していただいた.
ウェブページとSNSを使った宣伝は,海洋研究開発機構(Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology,JAMSTEC)のウェブサイトとJAMSTECアプリケーションラボのX (旧twitter)アカウントを用いた(第3図).hotspot2ではプロジェクト関係の情報をウェブページに集約しており,「研究組織・メンバー」や「業績一覧」だけでなく,プロジェクトで得られた「研究成果紹介」やhotspot2に参画する学部生・大学院生や若手研究者による「用語解説」などの解説ページも作成している.今回のシンポジウムは,hotspot2プロジェクトで得られた成果の紹介が主な目的だったので,hotspot2ウェブページをシンポジウム当日までの約1ヶ月間にわたって宣伝をした.Xのアカウントで,各ページについての解説とリンクを1日1回程度投稿した.事務局スタッフのSNSアカウントを使っての定期的な宣伝と,JAMSTECのアカウントからXとFacebookを使った1〜2回の宣伝も開催前に行ってもらった.
SNSでの宣伝に関しては,広く目に止まるように定期的に行ったが,それはXを中心としたものとなり,複数あるSNSをうまく使えなかった可能性がある.また,後援学会にそれぞれが運用するSNSでの宣伝を依頼できなかった点も課題として挙げられる.
2月の初めにシンポジウム専用のウェブページを用意し,シンポジウムの参加登録を開始した.ポスターにはウェブページへのリンクをQRコードで掲載した.参加フォームで,講演者に対する事前質問も受け付けた.登録はシンポジウム前日まで受け付けた.
3.2 結果
参加登録者は,現地参加107名,オンライン聴講324名であった.宣伝の効果として,10〜20代の参加登録者が多かったことが挙げられる.24歳以下の登録者が23.5%,30代までが43.9%となっていた.シンポジウムを知ったきっかけは,知人からの紹介,Eメール,ポスターやウェブページがそれぞれ約25%程度であった.約14%がSNS,主にXを見て登録をしたとのことであった.また,学校で先生から紹介された,地学オリンピックでの宣伝をきっかけとしたというものも一定数あった.宣伝は様々な手段で複合的に行うことが有効であったらしく,若い参加者を増やすことにつながったと考えられる.講演者への事前質問は18件集まった.うち7件は30代以下からであった.事前質問は適宜,各講演者とバディに事前に共有した.集まった事前質問の6件について,当日のパネルディスカッションでの回答を行った.
シンポジウム後に回収されたアンケートでは,30代以下の年代が約31%,50代以下で60%であった.シンポジウムに参加した動機は,ポスターを見て,ウェブページを見て,SNSでの宣伝を見て興味を持ったという人がそれぞれ21%,20%,25%であった.気象,海洋に興味があると回答した人がそれぞれ68%と62%,気候変動や地球温暖化,異常気象や自然災害に興味があると回答した人がそれぞれ73%と64%であった.科学や研究の話が好きと回答した人は29%であった.シンポジウムの内容に関連した仕事をしていると答えた人が22%,進路の参考とするためが6%,学校での学習の参考とするためが2%であった.今回のシンポジウムの参加者は,気象・海洋に興味があって参加した人と,仕事や将来の進路のために参加した人の両方が集まっていたことが伺える.また,参加していた科学コミュニケータの方から,パネルディスカッションで大学生などの若い参加者からの質問が多かったのが印象に残ったというコメントがあった.

第3図:(a)hotspot2ウェブページ(2024.5.1閲覧).このウェブページを介して,研究成果や業績の紹介などを一般向けに発信している.(b)SNSのX (旧twitter)を使ったウェブページの「つぶやき」(宣伝)例.ここでは,JAMSTECアプリケーションラボが運用するXアカウントを使った宣伝が行われた.
4.オンライン配信方法
4.1 配信の設定
今回のシンポジウムは現地開催とオンライン配信のハイブリッドで行った.オンライン配信は専門業者に依頼せず,シンポジウム事務局だけでYouTubeの(ライブ)ストリーミング配信に挑戦した.専門業者に依頼しない分,安価に開催できるメリットはあるが,慣れていないと設定がかなり大変であり,また配信のクオリティが会場の環境や機器にも依存する.そこで今後の参考のために,今回行った配信の方法を詳しく紹介する.
ストリーミングはZoomを介して行い,Zoom Pro以上のアカウントとストリーミング機能が備わったYouTubeアカウントの両方が必要である.なお,Webexでもストリーミングが可能であることを確認したが,OBS (Open Broadcaster Software) Studioと組み合わせた運用が事務局メンバーの技量ではうまくいかず,使用しなかった.
Zoom側では,Zoomのアカウントのページから,ストリーミング機能を有効にする.この機能を有効にすると,Zoomでのmeeting画面からYouTubeでのストリーミング配信開始を選択できるようになる.Zoom会議の形式にはmeetingとwebinarモードがあるが,おそらくmeetingと同様にストリーミング機能が利用可能であると思われる.
YouTube側では,アカウントのチャンネル(アップロードした動画倉庫の入口(窓口)のようなもの)でストリーミング配信の開始時刻を予約して,配信用URLの作成を行う.予約すると配信用URLとストリームキーとストリームURLが取得できる.配信用URLからストリーミング配信を視聴できる.実際にストリーミング配信を始める前に配信用URLに接続すると,待機画面が表示される.待機画面には,待機用の画像(サムネイル)とストリーミング配信についての説明文を付与することができ,配信用URLを作成する際に設定する.チャット機能を有効とするかもここで設定ができる.配信の開始は予約した開始時刻と前後しても問題ない.YouTubeアカウントには,JAMSTECの公式アカウントを利用した.
講演者のスライドは講演者PCからHDMIケーブルで出力し,これをビデオキャプチャーと呼ばれる機器に入力した.ビデオキャプチャーは入力されたHDMIシグナルをそのままHDMIで出力しつつ,同時に入力画像を取り込んでUSBケーブルで別のPCへと出力することができる.HDMI接続を会場のプロジェクターに投影すると同時に,USB接続をホストPC(今回はMacbook air)上で動作するOBS Studioに取り込んだ.ホストPC(OBS Studio)にはこれに加えて,会場に備え付けの後方カメラ映像,講演者前に設置したハンディカムの映像もそれぞれビデオキャプチャーを用いて取り込み,これらの3つの入力映像をOBS上でレイアウトしたもの(第1図a)を,OBS仮想カメラとしてZoomで画面共有した.Zoomでは「第2カメラのコンテンツ」を画面共有する.これにより,講演時には講演者PCのスライドを大きく表示しつつ,ハンディカムと会場後方カメラを使って講演者とバディの両者を映し,パネルディスカッション時には会場後方カメラを用いてステージ全景を映しつつスライドを脇に示すようにして,オンライン環境での視認性を向上させることが可能となった.このような運用のためにOBS Studioに複数の「シーン」(入力画像のレイアウト)を用意しておき,それらを場面に応じて切り替えつつ配信した.
音声配信は,会場備え付けのオーディオミキサーをUSBでホストPCに接続し,これをZoomのマイクとスピーカーとして選択することで行った.これにより,会場のマイク音声を(Zoomを介して)YouTubeに流すことができる.ホストPCの音声を会場のスピーカーから流すことができるため,例えば講演者が急に現地参加できなくなった場合には,Zoom meetingに参加しリモートで講演を行うことができる(実際には使用せずに済んだ).また,休憩中のBGMをホストPCで用意し,会場内とYouTubeの両方で流すことができた.
4.2 当日・シンポジウム後の作業
ストリーミング配信を行う際は,まず,ストリーミングを行う配信用PCでZoomのmeetingを立ち上げ,ホストPCからZoom meetingに参加する.ホストPCで画面共有を行い(4.1節),配信用PCでストリーミングを行う.配信用PCでYouTubeの配信用URLとストリームキーとストリームURLを入力するとストリーミング配信が開始される.
ホストPCに事務局スタッフ1名が張り付き,OBS studioの調整,会場カメラの調整,音声の調整,BGMのon・offを調整した.
設備の工夫としては,ステージ上の登壇者と司会者・バディ席から見える場所に,ディスプレイとタイマーを設置し,ディスプレイには配信映像を表示した.
アンケートを集計するため,閉会後のスライドにQRコードを掲示し,その状態でストリーミング配信を終了した.YouTubeのストリーミング配信は終了後も動画が視聴できるため,シンポジウム終了後1日程度は配信URLを閉じずに残しておいた.また,Eメールを登録した参加者にアンケートのURLを送付した.
当日の録画を,シンポジウム後,1週間だけ参加登録者にYouTubeで限定公開した.100件以上の視聴回数があり,追加で6件のアンケート回答が寄せられた.
4.3 ハイブリッド開催に関するアンケート結果
開催方法については,ハイブリッドでの開催が良いという回答が92%であった.これは,気象学会が主催する気象サイエンスカフェでも同じような割合になることが多い.関東(シンポジウム開催地)以外に在住の方が参加できるというオンラインのメリットが多く挙げられた.同時に,対面での臨場感を重要視して,完全オンラインよりもハイブリッドでの開催が良いという意見がこの割合に関係していそうだ.オンライン配信では参加者の拍手や笑い声などが音声に含まれないことがあり,現地における講演者と参加者との一体感が伝わりにくいことに留意が必要である.
また,オンライン配信を残すメリットとして,録画を公開(後に視聴可能と)することで地学教育に役立つのでは,というコメントも寄せられた.講演やパネルディスカッションの録画を容易にアーカイブできることはオンライン配信を行うメリットの1つである.今回のシンポジウムでは,準備段階から録画を公開することを前提とせずに,講演者や司会者に資料を準備してもらった.シンポジウム当日には,YouTube画面の撮影や録音・録画をSNS等にアップしないように呼びかけていた.シンポジウム終了後に参加者からの要望があったため,後日登壇者全員に許可を取り,参加者に短期間だけ限定公開することにした.アーカイブ動画を長い期間公開する場合には,登壇者に事前に許可を取って,資料の準備段階から公開を前提として準備を進める必要があるだろう.
5.まとめ
hotspot2プロジェクトは,2010年度から2014年度の新学術領域プロジェクト「気候系のhot spot:熱帯と寒帯が接近するモンスーンアジアの大気海洋結合変動」(中村 尚氏代表,通称「hotspot1」プロジェクト)の後継プロジェクトである.2024年度からは,岡 英太郎氏が代表の学術変革領域研究(A)「ハビタブル日本:島嶼国日本の生存基盤をなす大気・海洋環境の持続可能性」プロジェクト(通称「hotspot3」プロジェクト)が発足した.今回のシンポジウムは,hotspot2までの成果の報告であるとともに,これまでに新たに浮き彫りになり,今後hotspot3プロジェクトで明らかにされるべき課題を一般に示す役目を果たすものとなった.
最後に,事務局側からのまとめを述べる.今回,参加者は現地参加よりもオンライン視聴者の方が多かった.こういった状況で,参加者の高い満足度が得られた要因として,会場の配信環境の良さと,事務局スタッフ1名(小坂)の経験や事前の入念な配信テストが挙げられる.また,JAMSTECの広報スタッフによる,利用可能なYouTubeチャンネルの事前準備も要因の1つであった.ハイブリッドでの開催は,参加者からの要望が大きいことが挙げられたが,事務局への負担は現状では大きい.配信についてのハード・インフラ面での効率性の向上や,ハイブリッド開催についての知見の蓄積が必要である.
宣伝関係については,事務局スタッフに気象学会教育と普及委員(川瀬・山崎)がいたこと,地学オリンピックに関わりの深いスタッフ(関澤)がいたこと,そしてJAMSTECの広報スタッフがSNSなどを使った宣伝に協力的であった点を言及したい.
シンポジウムの内容について,質の高い講演やパネルディスカッションを行った講演者・バディ8名の貢献が,シンポジウムを成功に導いたことは言うまでもない.また,初めてバディシステムを導入したシンポジウムで,参加者の高い満足度を維持しつつタイムスケジュール通りに進行ができたのは司会者の多森氏の力量が大きい.
今回のこの報告記事が,今後気象学会や関連するプロジェクトなどが実施する公開シンポジウムの運営のための一助となること,そして後援学会である日本気象学会・日本海洋学会・日本地球惑星科学連合に貢献できることを著者一同望む.
謝辞
この公開シンポジウムは,科学研究費補助金新学術領域研究「変わりゆく気候系における中緯度大気海洋相互作用hotspot」の一環として開催されました.日本地球惑星科学連合(JpGU),日本海洋学会,日本気象学会からの後援を受けました.シンポジウムの広報に関して星川右子さん(JAMSTEC)と川合秀明さん(気象研究所),内容に関して毛利亮子さん(国立極地研究所)からアドバイスをいただきました.中学・高校や教育委員会への宣伝について,教育と普及委員会の荒川知子さん・髙田久美子さん・徐健青さんの助言をいただきました.YouTubeでのストリーミング配信の準備について荻田善之さん(JAMSTEC)のサポートを受けました.投稿原稿についてコメントをいただいた編集委員の大島 長さんに感謝いたします.
参考文献
・木戸晶一郎,山崎 哲,野中正見,見延庄士郎,2021:オンライン会合でのGatherの利用.天気,68,602–610.