観測
東シナ海
東シナ海3隻同時集中観測
暖流である黒潮は大気へ水蒸気を大量に供給することで、梅雨期の豪雨の「源」の一つであるとされています。黒潮が梅雨期の降水に与える影響についての研究はこれまで多く取り組まれていますが、その多くは数値実験や人工衛星データを用いた研究です。近年豪雨被害が頻発している中、「黒潮から大気へ水蒸気供給量を知り、それを“系”として理解する」ことがとても重要になっています。そのために、現場での直接的な観測データを取得し、実際の大気・海洋構造を理解することが望まれます。
2022年6月中旬~7月初旬、東シナ海黒潮水温前線付近で長崎大学、鹿児島大学、三重大学の練習船による3隻同期格子点大気海洋移動観測が行われました(図1)。3 隻の船で同時にラジオゾンデ観測、XCTD(投下式水温・塩分・深度計) 観測および SST(海面水温) 観測を実施し、1 時間かけて次の観測点へ移動、再び 3 隻同時に大気海洋観測を実施する、ということを繰り返しました。最終的には図1のよう に尺取り虫のような航路で移動し、ほぼ正方形の格子 点 72 点を約 1 日で観測しました。観測した海域の 南側約 1/3 の格子点が暖かい黒潮海域でした(図2)。
陸から離れた船では、受け取ることのできる情報が限られます。そこで、京都大学防災研究所で気象や海洋の情報を整理し、数枚の画像にコメントをつけたメールを送信する「陸上支援」を行いました。観測期間中毎朝オンラインで行った陸上支援には、全国の大学院生も参加し作図や議論を行いました。皆さんの熱心な支援が通じたのか、同期観測は大雨という「好天」に恵まれました。
激しい雨の中で観測が行われ、黒潮水温前線付近では特に激しい現象を捉えることに成功しました。水温前線が梅雨期の降水をより強めている可能性が示唆されています。今回の観測で得られた大気と海洋の高解像度な観測データは現在、様々な視点で解析が進められています。今後新たな知見が続々と得られることが期待されます。
また今回、コロナ禍ということもあり限られた人数の中での観測で大変だった部分もありましたが、多くの学生が参加し、激しい気象・海洋現象に触れたこと、そんな中で協力して観測を遂行できたことは、とても良い経験になったのではと感じています。
三重テレビ放送 気象らぼ(Youtube)
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- 西川はつみ(東京大学大気海洋研究所)