更新日:2021/08/02

観測

冬季日本海

2022年1月19日-1月30日に実施
耕洋丸第96次航海 日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)集中観測

耕洋丸第96次航海が2022年1月19日~1月30日に行われました。船は下関港を出港し,日本海を北上しオホーツク海へ,そして津軽海峡を抜けて横浜港へ入港しました。

冬季に日本海上で発生するJPCZ(日本海寒帯気団収束帯)は,日本にたびたび豪雪をもたらします。JPCZの構造や形成メカニズム,また,JPCZに対する対馬暖流の影響についてはいくつかの考えが提唱されていますが,冬季日本海の厳しい気象状況下での観測が難しいこともあり,現場観測データはほとんどありません。この航海では,JPCZの詳細な構造,及び,海洋からの影響を明らかにすべく,高頻度な大気海洋観測を行いました。

冬の間,JPCZは常に日本海上に発生しているわけではありません。そのため,JPCZの発生と航海期間のタイミングが合うことがまずは重要でした。今回幸運なことに,下関出港直後に南下中のJPCZに遭遇することができ,日本時間19日21時から20日9時まで1時間毎の高頻度なラジオゾンデ及びXCTD観測を行うことにより,詳細なJPCZ内部の構造や海洋構造を捉えた非常に貴重な観測データの取得に成功しました(立花ら,プレスリリース)。JPCZ付近の観測では,強い風で船は揺れ霰が降り,JPCZ内部の“激しさ”を身をもって感じました。一方で,“冬の日本海=極寒”というイメージで臨んだ観測でしたが,水温約14℃の温かい対馬暖流上では思いのほか寒くなかったことも,面白い体験でした。

航海期間中,JPCZと遭遇できたのは19日~20日の1回のみでしたが,その後は日本海を北上しながら,大和堆周辺や北海道石狩湾沖,オホーツク海の海氷縁近傍での大気海洋観測を行いました。これらの大気・海洋データも,観測の少ない冬季日本海で取得できた貴重なデータであり,これらの解析結果も今後とても楽しみです。

耕洋丸第96次航海航路図

下関港に停泊中の耕洋丸(水産大学校)

JPCZを観測するためのラジオゾンデ観測の様子。風が強いので,大勢でバルーンを抑えています。観測時には,耕洋丸の乗組員や水産大学校の学生にも多大なご協力をいただきました。ありがとうございました。

JPCZ中心付近でのラジオゾンデ放球。強い風の音と,ものすごい勢いでバルーンが横に流されていく様子から,JPCZ中心付近の激しさが伝わります。

JPCZ中心付近は特に激しい気象条件だったため,バルーンが破裂してしまうなどの失敗も。

観測したデータを描画して,研究室にペタペタ。空き時間にいろいろと議論できて楽しいです。

北海道石狩湾沖に広がる雪雲。この中で観測しようと船を走らせるも,なかなか追いつけない…雪雲速い…

追いかけるのはあきらめ,後方にいた別の雪雲を待ち構えて雪の中での観測。風は弱く,船の揺れもほとんどない穏やかな状況でした。放球時には晴れ間がのぞき,青空にラジオゾンデが飛んでいく様子がキレイです。(雪雲の中に飛んでいってほしいのですが,雪雲の動きが速くなかなか難しい…)

オホーツク海の海氷にも接近しました。水温は結氷温度の-2℃。海氷のあり・なしの状況での観測データも取得できたので,こちらも結果が楽しみです。

利尻島沖で研究者記念撮影。オホーツク海の海氷を抱えながら

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西川はつみ(東京大学大気海洋研究所)