更新日:2023/03/22

US CLIVAR Mesoscale-airsea interactionワークショップ出席+NCAR/University of Colorado訪問

概要

2023年3月6-8日にかけてアメリカ合衆国・ボルダー(コロラド州)において, 国際ワークショップ“Mesoscale and Frontal-Scale Air-Sea Interactions Workshop“ が開催されました。本ワークショップはUS CLIVARによって主催され, 海洋の渦/前線スケールでの大気海洋結合過程に関する理解を深めるべく, 世界各国から多くの研究者が参加し(現地・オンライン参加合わせて合計150名), 本分野の最新の知見の共有および議論が行われました。Hotspot2からはA02-7班の中村 尚代表(東京大学)が講演を行ったほか, 合計6名の若手研究者が現地参加し, ポスター発表を行いました。また, 一部の若手研究者はワークショップの前後に(同じボルダーにある)NCAR(アメリカ大気研究センター)やコロラド大学ボルダー校を訪問し, 研究成果の報告および議論も行いました。以下では, Hotspot2の旅費支援のもとワークショップに出席した若手研究者による参加報告およびその他の参加者の声を紹介します。

Boulder滞在記(木戸 晶一郎/A02-6班, JAMSTECポスドク研究員)

2/27: 成田からBoulderへ

乗り継ぎ先のサンフランシスコに着陸後, 雷雨による影響により1時間半近く機内で待たされるというハプニングはあったものの, 特に問題なく入国/乗り継ぎも完了し, デンバーへとたどり着きました。ホテルには空港からバスに1時間ほどで到着し, 翌日以降のスケジュールに備えました。Boulderに来るのは大学院在学時以来5年ぶりでしたが, 美しい山々に囲まれた落ち着いた街並みはほとんど変わっておらず, とても懐かしい気分になりました。

2/28: NCAR訪問

到着後初日はNCAR(アメリカ大気研究センター)のMesa Labを訪問し, セミナー発表および議論を行いました(動画はYouTubeにも 公開されています)。まずは午前中に約1時間のセミナーを行い, 我々が開発を進めてきた準全球海洋再解析JCOPE-FGOの概要を紹介したほか, それを用いて行った黒潮/メキシコ湾流域における渦やジェットの予測実験の結果について発表しました。 NCARには高解像度海洋・気候モデリングを専門とする研究者が多く在籍していることもあり, システムの今後の発展/応用可能性や予測実験の解釈などについて様々な興味深いコメントをいただいた他, 我々のプロダクトを使ってみたいという声もいただきました。

また, 午後にはNCAR/UCARのOceanography Sectionに所属する研究者たちと個別に議論する時間を割いていただき, セミナーの内容についてより突っ込んだ議論を行ったほか, 今後の共同研究の可能性なども話題となり, 非常に刺激的かつ有意義な時間を過ごすことができました。

NCARの入口にて

3/1-3: University of Colorado Boulder訪問

NCAR訪問の翌日からは3日間, コロラド大学ボルダー校(CU Boulder)を訪問しました。CU Boulderには大学院在学時, 海外インターンシップで2ヶ月間ほどお世話になったWeiqing Han教授が在籍しており, その縁で滞在用のデスクスペースを用意していただきました。Hanさんの主な専門は熱帯域, 特にインド洋の海洋・気候変動であり, 現在私がメインで行っている研究テーマとは多少異なるものの, これまで進めてきた共同研究の今後の展開について詳細に話し合うことが出来たほか, 今後のキャリアに関するアドバイスなどもいただきました。また, Hanさんの研究室に所属するメンバーと彼らの研究について一対一でじっくりと議論する機会も設けていただき, より近い世代の学生・研究員から大いに刺激を受けることができました。

今回いただいたオフィス

滞在最終日にはグループ内のセミナーにて,熱帯海盆間相互作用に関する研究成果について発表を行いました。CU Boulderの教員/学生以外に加え, (同じBoulderにある)NOAAやNCARに所属する研究者も一部参加していただき, Mesa Labでのセミナーと同様に多くの有益な議論を行うことが出来ました。

3/4-5: 週末

土日はHanさんの研究室に所属するポスドクの方々にRocky Mountain National Parkに連れて行っていただき, コロラドの冬景色を堪能したり, Boulderに留学生/研究員として滞在されている日本人の方と食事に行ったりしました。こちらも研究とは異なる新鮮な刺激を受けることができ, 月曜日からのワークショップに向けて十分リフレッシュすることが出来ました。

Rocky Mountain National Parkから眺めた, コロラドの山々

3/6: 国際ワークショップ1日目

朝はホテルのフロントで他のHotspot2からの参加者と合流し, 会場に向かいました。会場には朝からコーヒーや簡単な軽食が提供されており, それをつまみながら様々な方とお話しすることが出来, ワークショップに向けた「準備運動」を行うことが出来ました。

午前中のセッションは, 中規模渦のスケールにおける海面水温偏差と海面熱・運動量フラックスの関係や, 海面水温フロントが対流圏の大気循環や移動性低気圧に与える影響など, 中緯度大気海洋相互作用の話題でよく出てくるトピックについて, 最新の知見が紹介されていました(Hotspot2からも, A02-7班の中村先生がオンライン講演されていました)。 これらの話題については今回のワークショップの主催者が中心となって執筆したレビュー論文(Hotspot2からも, A03-9班の見延先生が共著に入られています)にも詳細にまとめられていますが, 現地で直接専門家たちから話を聞くことで, より理解を深めることが出来ました。

午後のセッションは, 海面風応力や海上風に対し, メソスケールの海流がもたらすインパクトを取り扱った発表が中心でした。海面での風応力は海上風と海面での海流の相対差に比例することから, メソスケール/サブメソスケールの海洋渦に伴う海流の効果を考慮しているかそうでないかによってその見積もりが変わり, 結果として海洋渦自体の強さにも影響を与える, といった結果が次々と紹介されていました。ただ, こうしたインパクトを取り出すためのモデル実験の手法は研究ごとに微妙に異なるため, その結果評価が十分に定まっていないという指摘もなされており, まだ解決すべき課題も多いように感じました。

Plenaryセッションの後はポスター発表が行われ, その後全体を15人ほどの小グループに分けて様々な課題を議論するブレークアウトセッションへと移りました。ポスター発表は1時間とやや短めに設定されており, 全ての聞きたい発表を回れなかったのは若干残念でしたが, 多岐にわたる発表を聞くことが出来ました。また, ブレークアウトセッションでは渦/前線スケールの大気海洋相互作用を理解するために解決すべき課題やそれに向けて必要な取り組みなどについて, 参加者から様々な意見が出されていました。

ワークショップ会場の入口

3/7: 国際ワークショップ2日目

2日目はまず, 昨日各グループに分かれて行われたブレークアウトセッションのまとめが行われた後, 午前中は最新のモデリング手法に関するセッションが行われました。全体としては, (Hotspot2でもよく話題になる)海洋中規模渦(空間スケール数10-100km)スケールにおける大気海洋相互作用よりも, フィラメントや混合層不安定といった, さらに細かいサブメソスケール現象(空間スケール数km)に焦点を当てた発表が多く, またそれに伴う議論が盛り上がっていたことが個人的には大変印象的でした。

ランチの後は渦/前線スケールの大気海洋現象を理解するための観測手法に関するセッションが行われました。こちらもモデリングセッション同様海洋のサブメソスケールに着目した講演が行われたほか, 大気海洋間の熱/淡水/運動量フラックスの計測を精緻化しつつ, 大規模に展開する必要性を強調した発表も多く見られました。特に海の真ん中にエレベーターも入るような巨大なタワーを建てて, 大気/海洋境界内層をシームレスに計測するという野心的なアイディアの壮大さには大いに驚かされました。

セッションの後は昨日同様ポスター発表およびブレイクアウトセッションが行われました。昨日の教訓を踏まえ, 自分の発表は予め話を聞いていただきたかった何人の方にピンポイントで声をかけていたので, それらの方々からコメントをいただくという目的は概ね達成できたものの, やはりもう少し時間があると余裕があってよさそうに感じました。ブレークアウトセッションの方は前日とは異なるグループ構成のもとで, 今後活用していくべき観測やデータ解析/モデリング手法の方向性について, 前日同様活発な意見交換が行われていました。

会場での議論の様子

3/8: 国際ワークショップ3日目

まず朝から行われたPlenaryセッションでは, 渦/前線スケールの大気海洋現象に焦点を当てた,観測・モデリングが一体となったいくつかの大規模プロジェクトの紹介が行われました。その後は最後のブレークアウトセッションとして, 前の2日間とは異なる独特なスタイルでの個別議論へと移りました。このセッションでは10人ほどの小グループに分かれた参加者が会場に用意されたポスターボードを順番に移動し, それぞれに掲示されている質問(将来の観測/モデリング手法に関する提案など)に対し自分なりの意見を書き込んだり, 賛同する意見にシールを貼ったりという形で, 今後の研究の方向性に関するアイディアを幅広く集めていました。今回の試みは実験的なものだということですが, 前2日以上に多くの意見が多数の参加者から出ており, 我々としても大変参考になるスタイルだと感じました。これらのセッションで出た意見を集約し, 全体のワークショップの取りまとめが行われたのち, 2日半の濃密なワークショップは閉会となりました。

ポスターを用いたブレイクアウトセッションの様子

ワークショップ自体は午前中で終わりだったのですが, 午後はCUでのセミナーを聞いて下さったNOAAの研究者の方からお誘いいただき, Boulderのダウンタウンにあるコーヒーショップで議論を行いました。特に具体的なトピックを決めないカジュアルな会話でしたが, 研究に対しさまざまな励ましの言葉や提案をいただくことができ, とても有意義な時間を過ごすことが出来ました。

3/9: 帰国-全体の感想

毎日が刺激の連続だった約10日間の滞在を終え, Boulderを離れDenver経由で日本へと戻りました。今回は私にとってコロナ禍を経て3年ぶりとなった海外出張でしたが, 研究に関する意見を交換したり, 新たなアイディアを立案したりするのはやはり対面で顔を合わせて行うのが一番であると実感したとともに, 多くの方との議論・会話は今後研究を進めていく上で大きな励みとなりました。野中さんをはじめ, このような素晴らしい機会を提供して下さったHotspot2の関係者のご厚意・ご支援に改めて感謝申し上げます。