2017年2月号:春のかほり

写真:杉田梅林とメジロ

先月から関東では、晴れの日が続いています。梅が勢いよく咲き、メジロが花の蜜を吸いにやって来ています(写真)。気象庁の発表によると、1月の天候は平年より暖かく、西日本で日照時間が長かったそうです(気象庁:1月の天候)。このまま続けば、この冬は予測通り!?平年より暖かかった、ということになるのでしょうか。来月の季節ウォッチで検証してみます。

それでは、今年の春(3月から5月)に予測される世界の天候のまとめです。SINTEX-Fの季節予測によると、カナダやブラジルを除く世界の多くの地域で気温が平年より高くなりそうです。ブラジルやアフリカ南部では平年より雨が多く、一方、インドネシアやヨーロッパでは平年より雨が少なくなりそうです。世界の天候に影響を及ぼす太平洋とインド洋の熱帯域の海水温ですが、平年並みの状態となる見込みです。

えっ、平年並み?と思いますが、それからの季節が注目です。今年の夏(6月から8月)の予測によると、太平洋でエルニーニョ現象が、インド洋で正のインド洋ダイポール現象が発生して、世界の天候に影響を与えそうです。あとで詳しく解説しますが、2つの現象が同時に発生するのは1997年と2015年以来で、世界の多くの地域で気温が高くなる可能性が出るので、注意が必要です。

今年の3月から5月の気温と降水量は?

図1 2017年3月から5月までの地上気温の平年差(ºC)。 予測開始日は2月1日。

今年の3月から5月までに予測される世界の気温です。SINTEX-Fの予測によると、世界の多くの地域で気温は平年より高くなりそうです(図1)。一方で、カナダ北西部、ブラジル東部では、気温は平年より低くなりそうです。

図2 2017年3月から5月までの降水量の平年差(mm/日)。予測開始日は2月1日。

次に、今年の3月から5月までに予測される世界の降水量です。SINTEX-Fの予測によると、ブラジル東部、中国東部、アフリカ南東部では、雨が平年より多くなりそうです(図2)。一方で、中国南東部、インドネシア、ヨーロッパでは、雨が平年より少ない見込みです。

また、日本は平年より暖かく、雨が多い春になりそうです(月ごとに見ると、3月は平年より雨が少ないようです)。ただし、中高緯度の予測精度には限界がありますので、今後の予測情報に注意してください。

図3 (上段)2017年3月から5月までの海面水温の平年差(ºC)。(下段) 2017年6月から8月までの海面水温の平年差(ºC)。予測開始日は2月1日。

日々の天気と異なり、季節を決める気候の変動には海面水温が大きく関わっています(参照:季節予測とは?)。特に、熱帯は他の海域に比べて海面水温が高く、わずかな水温の変動が世界の気候に影響をもたらします。

SINTEX-Fの予測によると、今年の3月から5月まで熱帯の太平洋は、昨年の夏から発生していた弱いラニーニャもどき現象が終わり、平年並みの状態に戻る見込みです(図3上段)。一方、熱帯のインド洋は、昨年の夏から秋にかけて発生していた負のインド洋ダイポール現象が終わり、こちらも平年並みの状態に戻りそうです。

しかし、その3ヶ月後を見てみると、様子が変わります(図3下段)。今年の6月から8月は、熱帯太平洋の中央部から東部にかけて海面水温が平年より高くなっています。皆さんがよく知っている、エルニーニョ現象が発生しそうです。一方で、熱帯のインド洋は、東部の海水温が平年より低く、西部の水温が高くなっています。インド洋もまた、正のインド洋ダイポール現象が発生する見込みです。

この2つの現象が同時に発生すると、例えば日本の夏は、北日本で平年より気温が低く、西日本で気温が高くなる「北冷西暑」と呼ばれる天候になります。エルニーニョ現象の影響で小笠原高気圧の勢力が弱まり、北日本では不順な天候となります。一方、西日本では、正のインド洋ダイポール現象の影響が及んで、エルニーニョ現象の影響を打ち消し、気温が高くなりそうです。2つの現象が同時に発生した年は、過去に1997年と2015年があります。

図4 2017年2月以降に予測される、エルニーニョ指数とインド洋ダイポール指数(ºC)。予測開始日は2月1日。青線が観測値、灰線が9つの異なる初期条件で計算した予測値、赤線が9つのグレーの予測値の平均値。

そうすると、エルニーニョ現象とインド洋ダイポール現象が今後どのように発達するか、気になりますね。そこで、2つの現象が最もよく現れる海域で平均した海面水温の平年差を見てみましょう。エルニーニョ指数を見ると(図4上段)、4月から0.5度を超え始め、7月には1度を超えて発達しそうです。エルニーニョ現象が発生すれば、熱帯の太平洋がここ10数年ほど続いた「地球温暖化の停滞(参考1, )」の原因である長期のラニーニャ現象のような状態から、長期のエルニーニョ現象のような状態に変わった可能性があります。そうすると、これから長期に渡って地球温暖化がより強く現れることになるので、注意が必要です。

一方、インド洋ダイポール指数は(図4下段)、しばらく平年並みの状態が続きますが、7月には0.5度を超えて発達し、秋にはピークに達する見込みです。ただし、9つの予測値(灰線)のばらつきが大きいので、振幅には注意が必要です。

日本を含む世界の気候には、太平洋に発生するエルニーニョ現象やラニーニャ現象だけでなく、インド洋に発生するインド洋ダイポール現象なども大きく影響を及ぼすことが分かっています。今年の3月から5月は、太平洋とインド洋の熱帯域は平年並みの状態に戻りますが、6月から8月にかけて、太平洋ではエルニーニョ現象が、インド洋では正のインド洋ダイポール現象が発達する見込みです。海洋起源の気候変動現象がこれからどのように変動し、世界の気候にどのような影響を与えるか、今後注意して見ていきましょう。