2017年9月号:干ばつが進むインドネシアとオーストラリア

写真:水不足が問題となっている南アフリカ(写真はケープタウンのCamps Bay)

気候変動と感染症のプロジェクトで、しばらく南アフリカを訪問してきました。南アフリカは南半球に位置するため、季節は春になりますが、今年の冬は特に雨が少なく、水不足が問題となっています(写真)。インド洋を挟んでインドネシアオーストラリアでも、深刻な干ばつが発生しています。こちらは、季節ウォッチでこれまでお知らせしてきたように、インド洋の熱帯域で現在発達している正のインド洋ダイポール現象の影響と見られます。

一方、先月の日本の天候ですが、西日本では太平洋高気圧が西に張り出したことで気温が平年より高く、北・東日本ではオホーツク海高気圧が強まり太平洋側でヤマセ(山背)が吹いたことで気温が低くなりました(気象庁:8月の天候)。世界各地で異常天候が続いており、心配が絶えません。これからの季節、日本を含む世界の天候は一体どうなるのでしょうか?

SINTEX-Fの季節予測によると、今年の9-11月は、カナダ西部、アメリカ西部を除く世界の多くの地域で気温が平年より高くなりそうです。また、東アフリカやインド、フィリピン、メキシコ南部では雨が平年より多く、インドネシア、中国東部、ブラジル西部、ヨーロッパ南部、西アフリカなどでは雨が少なくなる見込みです。

原因の1つとして挙げられる熱帯域の気候変動現象ですが、太平洋では中央部から東部で海面水温が平年よりわずかに低くなる弱いラニーニャ現象の状態が続き、一方、インド洋では、現在発達中の正のインド洋ダイポール現象がピークに達しそうです。このため、インド洋東部から海洋大陸にかけて対流活動が弱まり、特にインドネシアでは著しい干ばつが続く可能性があります。

今年の9月から11月の気温と降水量は?

図1 2017年9月から11月までの地上気温の平年差(ºC)。 予測開始日は9月1日。

今年の9月から11月までに予測される世界の気温です。SINTEX-Fの予測によると、世界の多くの地域で気温が平年より高くなりそうです(図1)。一方で、カナダ西部やアメリカ西部では、気温が平年より低くなる見込みです。

図2 2017年9月から11月までの降水量の平年差(mm/日)。予測開始日は9月1日。

次に、今年の9月から11月までに予測される世界の降水量を見てみましょう。SINTEX-Fの予測によると、東アフリカやインド、フィリピン、メキシコ南部では、雨が平年より多くなりそうです(図2)。一方で、インドネシア、オーストラリア、中国東部、アメリカ西部、ブラジル西部、ヨーロッパ南部、西アフリカでは、雨が平年より少ない見込みです。

また、日本の9−11月は、気温が平年より高く、雨が多くなりそうです。ただし、中高緯度の予測精度には限界がありますので、今後の予測情報に注意してください。

図3 2017年9月から11月までの海面水温の平年差(ºC)。予測開始日は9月1日。

日々の天気と異なり、季節を決める気候の変動には海面水温が大きく関わっています(参照:季節予測とは?)。特に、熱帯は他の海域に比べて海面水温が高く、わずかな海面水温の変動が世界の気候に影響をもたらします。

SINTEX-Fの予測によると、今年の9月から11月まで熱帯の太平洋は、平年並みの状態が続くという先月の予測から一変して、中央部から東部にかけて海面水温が平年よりわずかに低い、弱いラニーニャ現象のような状態が続く見込みです(図3)。一方、熱帯のインド洋は、東部の海面水温が平年より低く、西部の海面水温が高くなる正のインド洋ダイポール現象がピークに達する見込みです。

図4 2017年9月以降に予測される、エルニーニョ指数とインド洋ダイポール指数(ºC)。予測開始日は9月1日。青線が観測値、灰線が9つの異なる初期条件で計算した予測値、赤線が9つのグレーの予測値の平均値。

これらの気候変動現象は今後どのように発達していくのでしょうか?そこで、熱帯域の気候変動現象が最もよく現れる海域で平均した海面水温の平年差を見てみます。エルニーニョ指数を見ると(図4上段)、来年の春まで海面水温が平年よりもわずかに低い、 弱いラニーニャ現象のような状態が続きます。その後、来年の夏には平年並の状態になりそうです。弱いラニーニャ現象のような状態は、他の研究機関の予測結果でも見られます(IRI ENSO Forecast)。一方、インド洋ダイポール指数を見ると(図4下段)、現在発達中の 正のインド洋ダイポール現象は秋にピークに達し、冬には減衰する見込みです。

日本を含む世界の気候には、太平洋に発生するエルニーニョ現象やラニーニャ現象だけでなく、インド洋に発生するインド洋ダイポール現象なども大きく影響を及ぼすことが分かっています。今年の9月から11月は、インド洋で現在発達中の正のインド洋ダイポール現象がピークに達し、特にインドネシアでは著しい干ばつが続く可能性があります。海洋起源の気候変動現象がこれからどのように変動し、世界の気候にどのような影響を与えるか、今後注意してみていきましょう。