2017/18年冬の予測の“答え合わせ”

全国で桜の開花のニュースも聞こえてきましたね。満開の桜の木を愛でるのが待ち遠しい季節です。一方で寒暖差が激しい時期でもありますので、体調管理にはくれぐれもお気をつけください。本投稿では季節ウオッチの“答え合わせ”第七弾として、2017/18年の冬に注目します。

 まずは熱帯太平洋から見てみましょう。図1は、エルニーニョ現象やラニーニャ現象が発生しているかどうかを判断する際によく使われる指標Nino3.4(熱帯太平洋東部で領域平均した海表面水温がどのくらい平年値からずれているか(偏差と呼びます)を示す数値。単位は°C)の現在までの推移です。青色の線が観測値、つまり実際の値です。2017年8月頃には0ºC近くだったNino3.4指標は、その後ぐんぐん下がり、9月頃には-0.5ºC近くに達しました。ラニーニャ現象が発生した状態だと言えます。その後も下がり続け、2018年2月には-1ºC近くに達しました。3月に入っても熱帯太平洋は、ラニーニャ現象が発生している状態だと言えます。2017年11月1日時点でのアプリケーションラボの予測シミュレーションの結果は赤色の線で示してあります。予測初期の11-12月では、赤色の線と青色の線がよく一致していますね。1月から2月にかけて、青色の線が赤色の線の下になり、予測は1月から2月にかけてのラニーニャ現象の“発達具合”を過小に予測していたことがわかります。

少々専門的な話を付け加えます。上記の話は、僅かに異なる条件で計算した9つの予測値の平均値についての議論です(アンサンブル予測と呼ばれます)。確かに9つの予測の平均値(アンサンブル平均値)では過小予測ですが、9つの予測の内、3つは1-2月のラニーニャ現象の振幅を的確に予測していました。季節ウオッチの“答え合わせ”記事は、主に、アンサンブル平均値と、観測との比較に基づくものですが、いずれ別の記事で、確率論的な予測についても詳しく解説したいと思います。

エルニーニョ/ラニーニャ現象の指標Nino3.4(単位は°C)の現在までの推移と2017年11月1日から開始した予測値の比較。青色の線が観測値、グレー色の線が僅かに異なる条件で計算した9つの予測値、赤色の線が9つの予測値の平均値。

次に、2017/18年冬(2017年12月から2018年2月の平均)における海表面水温の平年値からの差を見てみましょう。図2(左)は実際の状況(正確には米国NOAA/OISSTの観測データ)で、暖(寒)色が平年より水温が高(低)いことを示しています。図2(右)が2017年11月1日からの予測値です(つまり11/1時点から2-4ヶ月先の将来予測)。概ね予測に成功していると言えますが、よく見ると、熱帯太平洋東部(西部)の平年より低い(高い)水温が、予測では過小評価されています。これは前述した通り、ラニーニャ現象の予測の過小評価によるものでしょう。

図2: 2017/18年冬(2017年12月から2018年2月の平均)における海表面水温の平年値からの差(単位はºC)。左図は実際の状況(正確には米国NOAAから配信される観測データ)で、右図が2017年11月1日からの予測値。

次に、地上気温の平年値からの差を見てみましょう。図3(左)は実際の状況(正確には米国NCEP/NCARから配信される再解析データ)で、暖(寒)色が平年より気温が高(低)いことを示しています。図3(右)が2017年11月1日からの予測値です(つまり11/1時点から2-4ヶ月先の将来予測)。実際の状況をみると、ユーラシア大陸の中央部から東部に渡り広い範囲で、低温傾向が目立ちますね。日本列島の低温傾向についても皆さんの記憶に新しいところだと思います。また、米国北部からカナダにかけても低温傾向でした。残念ながら、これらの低温傾向については予測が外れています。一方で、ユーラシア大陸西部、アフリカ中央部、中国南西部、豪州東部、南アメリカ大陸北部、中央アメリカ、米国南西部などの高温傾向や、インドシナ半島、北欧、サウジアラビアの低温傾向については予測が成功していますね。2017年と2018年の冬季前半における日本付近の寒さと雪についてはJAMSTECコラムもご参照ください(コラム記事)

図3: 2017/18年冬(2017年12月から2018年2月の平均)における地上気温の平年値からの差(単位はºC)。左図は実際の状況(正確には米国NCEP/NCARから配信される再解析データ)で、右図が2017年11月1日からの予測値。

最後に降水量の平年値からの差を見てみましょう。図4(左)は実際の状況(正確にはCMAPと呼ばれる観測データ)で、緑(茶)色が平年より多雨(少雨)であることを示しています。図4(右)が2017年11月1日からの予測値です。熱帯太平洋の降水分布はよく似ています。これは、前述した通り、ラニーニャ現象の予測が成功していたことと関係しているでしょう。一方で、熱帯インド洋の降水分布は外れています。陸上では、中東付近の乾燥傾向、中国東部から日本南部にかけての乾燥傾向、米国西部の乾燥傾向、ブラジル中央部の多雨傾向は比較的良く予測できました。一方で、アフリカ南部の乾燥傾向、豪州東部の乾燥傾向、南アメリカ大陸南部の乾燥傾向などは予測できませんでした。

図4: 2017/18年冬(2017年12月から2018年2月の平均)における降水量の平年値からの差(単位はmm/day)。左図は実際の状況(正確にはCMAPと呼ばれる観測データ)で、右図が2017年11月1日からの予測値。

この「答え合わせ」記事も七回目となりました。他の記事(例えば、2017年夏の予測の“答え合わせ)のあとがきでも触れましたが、予測の検証は、更なる予測精度の向上に向けて重要な作業です。今後も季節の変わり目(3ヶ月に1度程度)に、このような「答え合わせ」記事を掲載する予定です。