2022年5月号 今年の夏は?

写真:満開のツツジと松風荘(フィラデルフィア)

皆さま、いかがお過ごしでしょうか?季節が春から夏に変わりつつあります。筆者が滞在する米国プリンストンから車で南へ1時間、フィラデルフィアの日本庭園ではツツジ(Azalea)が満開となっております(写真)。時折激しい雨が振り、日本の梅雨を思い出させるような湿気を感じる日もあります。これから季節が変わりますが、夏の天候が気になりますね。

SINTEX-Fの季節予測によると、今年の6月から8月は、世界の多くの地域で、気温が平年より高くなる見込みです。一方で、アラスカやカナダ西部、南米北部、オーストラリア西部、インドなどでは、気温が低くなる見込みです。

また、北米、ラプラタ、チリ、中央アフリカ、地中海北部、中国西部、インドシナとユーラシアの一部などでは雨が平年より少なく、アラスカ、カナダの北部と西部、中央アメリカ、オーストラリア、エリトリア、エチオピア、インド、ネパール、インドネシア、インドシナと中国とユーラシアの一部などでは、雨が平年より多い見込みです。

原因の1つとして、海水温の変動が挙げられます。太平洋の熱帯域では、中央部から東部で海水温が平年より低く、西部で高くなる、ラニーニャ現象 のような状況が続く見込みです。インド洋の熱帯域では、東部で海水温が平年より高く、西部で低くなる、負のインド洋ダイポール現象 が発生し、極めて強く発達する見込みです。

今年の6月から8月までの気温と降水量は?

図1 2022年6月から8月までに予測される地上気温の平年差(ºC)。予測開始日は5月1日。

今年の6月から8月までに予測される世界の気温を見てみましょう。SINTEX-Fの予測によると、世界の多くの地域において、気温が平年より高くなる見込みです。一方で、アラスカやカナダ西部、南米北部、オーストラリア西部、インド、インドネシアとアフリカの一部の地域では、気温が平年より低くなる見込みです(図1)。

 

図2:2022年6月から8月までに予測される降水量の平年差(mm/日)。予測開始日は5月1日。

 

次に、今年の6月から8月までに予測される世界の降水量を見てみましょう。SINTEX-Fの予測によると、北米、ラプラタ、チリ、中央アフリカ、地中海北部、中国西部、インドシナとユーラシアの一部などでは雨が平年より少なくなる見込みです(図2)。一方、アラスカ、カナダの北部と西部、メキシコ西部、中央アメリカ、ベネズエラ、ギアナ、オーストラリア、エリトリア、エチオピア、インド、ネパール、インドネシア、インドシナと中国とユーラシアの一部などでは、雨が平年より多い予測となっています。

また、日本の夏は気温が平年より高く、降水量が平年より少なくなる見込みです。ただし、中高緯度の予測精度には限界がありますので、今後の情報に十分に注意されてください。

今年の6月から8月までの海面水温は?

図3:2022年6月から8月までに予測される海面水温の平年差(ºC)。予測開始日は5月1日。

日々の天気と異なり、季節を決める気候の変動には海水温が大きく関わっています(参照:季節予測とは?)。特に、熱帯は他の海域に比べて海面水温が高く、わずかな水温の変動が世界の気候に影響をもたらします。

SINTEX-Fの予測によると、今年の6月から8月まで太平洋の熱帯域は、中央部から東部で海水温が平年より低く、西部で高くなるラニーニャ現象のような状況が続く見込みです(図3)。一方、インド洋の熱帯域は、東部で海水温が平年より高く、西部で低くなる、負のインド洋ダイポール現象が発生する見込みです。

図4:2022年5月以降に予測される、エルニーニョ指数とニンガルーニーニョ指数(ºC)。予測開始日は5月1日。黒線が観測値、複数のカラー線が36個の異なる条件で計算した予測値で、紫線が36個の予測値の平均値。

 

それでは、これらの海水温の変動が今後どのように発達、減衰していくのでしょうか?そこで、海水温の変動が最もよく現れる海域で平均した海水温の平年差を見てみましょう。熱帯太平洋のエルニーニョ指数を見ると(図4上段)、6月から8月にかけて-0.5度を下回り、ラニーニャ現象 のような状況が続く見込みです。こうした傾向は、他の研究機関の予測結果でも見られています。SINTEX-Fの予測によると、秋頃に-0.5度を上回り、徐々に減衰していく見込みです。

 

一方、インド洋の海水温の変動ですが、インド洋ダイポール指数を見ると(図4下段)、6月から-0.5度を下回り、負のインド洋ダイポール現象が発生する見込みです。特に、振幅が大きいことから、極めて強い負のインド洋ダイポール現象へと発達する見込みです。こうした傾向は、他の研究機関の予測結果でも見られています。

 

日本を含む世界の気候には、太平洋に発生するエルニーニョ・ラニーニャ現象だけでなく、インド洋や他の海域の水温変動もまた、影響を及ぼすことがわかっています。海洋起源の気候変動現象がこれからどのように変動し、世界の気候にどのような影響を与えるか、今後注意してみていきましょう。