2023年5月号 夏の天候は?

写真:新緑に囲まれた研究所の庭(NOAA/GFDL)

 

皆さま、いかがお過ごしでしょうか?米国プリンストンは、青空の広がる爽やかな季節となりました。晴れた日には、新緑に囲まれた研究所の庭で、研究者や学生らがよく議論しています。これから夏になりますが、天候が気になりますね。

 

SINTEX-Fの季節予測によると、今年の6月から8月は、世界の多くの地域で、気温が平年より高くなる見込みです。一方で、アラスカの沿岸部などでは、気温が低くなる見込みです。

 

また、アメリカ南部、ハワイ、南米北部、オーストラリア東部、東アフリカの一部、インドネシア、インドシナ、フィリピンなどでは雨が平年より少なく、アメリカ北東部、メキシコ、ベネズエラ、西アフリカ、中央アフリカ、スリランカ、インドシナ沿岸の一部などでは、雨が平年より多い見込みです。

 

原因の1つとして、海水温の変動が挙げられます。太平洋の熱帯域では、中央部から東部で海水温が平年より高くなる、が発生する見込みです。また、インド洋の熱帯域では、東部で海水温が平年より低く、西部で高くなるが発生する見込みです。これら2つの現象の発生に伴い、特にインドネシアとオーストラリア東部では、雨が平年より少なくなる見込みです。

 

今年の6月から8月までの気温と降水量は?

 

 

図1 2023年6月から8月までに予測される地上気温の平年差(ºC)。予測開始日は5月1日。

 

今年の6月から8月までに予測される世界の気温を見てみましょう。SINTEX-Fの予測によると、世界の多くの地域において、気温が平年より高くなる見込みです。一方で、アラスカの沿岸部などでは、気温が平年より低くなる見込みです(図1)。

図2:2023年6月から8月までに予測される降水量の平年差(mm/日)。予測開始日は5月1日。

 

次に、今年の6月から8月までに予測される世界の降水量を見てみましょう。SINTEX-Fの予測によると、アメリカ南部、ハワイ、南米北部、オーストラリア東部、東アフリカの一部、インドネシア、インドシナ、フィリピンなどでは雨が平年より少なくなる見込みです(図2)。一方、アメリカ北東部、メキシコ、ベネズエラ、西アフリカ、中央アフリカ、スリランカ、インドシナ沿岸の一部などでは、雨が平年より多い予測となっています。

 

また、日本の夏は気温が平年より高く、沖縄を除いて降水量が平年より多くなる見込みです。ただし、中高緯度の予測精度には限界がありますので、今後の情報に十分に注意されてください。

 

今年の6月から8月までの海面水温は?

図3:2023年6月から8月までに予測される海面水温の平年差(ºC)。予測開始日は5月1日。

 

日々の天気と異なり、季節を決める気候の変動には海水温が大きく関わっています(参照:季節予測とは?)。特に、熱帯は他の海域に比べて海面水温が高く、わずかな水温の変動が世界の気候に影響をもたらします。

 

SINTEX-Fの予測によると、今年の6月から8月まで太平洋の熱帯域では、中央部から東部で海水温が平年より高くなるが発生する見込みです(図3)。一方、インド洋の熱帯域では、東部で海水温が平年より低く、西部で高くなるが発生する見込みです。これら2つの現象の発生に伴い、特にインドネシアとオーストラリア東部では、雨が平年より少なくなる見込みです(図2)。

 

図4:2023年5月以降に予測される、エルニーニョ指数とインド洋ダイポール指数(ºC)。予測開始日は5月1日。黒線が観測値、複数のカラー線が36個の異なる条件で実験した予測値で、紫線が36個の予測値の平均値。

 

それでは、これらの海水温の変動が今後どのように発達、減衰していくのでしょうか?そこで、海水温の変動が最もよく現れる海域で平均した海水温の平年差を見てみましょう。熱帯太平洋のエルニーニョ指数を見ると(図4上段)、今年の6月には0.5度を上回り、が発生する見込みです。その後、エルニーニョ現象は発達しますが、予測値(36個のカラー線)の振幅にばらつきが見られるため、今後の情報に注意されてください。こうした傾向は、他の一部の研究機関の予測結果でも見られています。

 

一方、インド洋の海水温の変動ですが、インド洋ダイポール指数を見ると(図4下段)、5月から0.5度を上回り、が発生する見込みです。その後、正のインド洋ダイポール現象は発達しますが、予測値の振幅にばらつきが見られるため、こちらも今後の情報に注意されてください。こうした傾向は、他の一部の研究機関の予測結果でも見られています。

 

日本を含む世界の気候には、太平洋に発生するエルニーニョ・ラニーニャ現象だけでなく、インド洋や他の海域の水温変動もまた、影響を及ぼすことがわかっています。海洋起源の気候変動現象がこれからどのように変動し、世界の気候にどのような影響を与えるか、今後注意してみていきたいと思います。