梅雨空が続き蒸し暑い日々が続いておりますが、変わらずお過ごしでしょうか。北関東では空梅雨で水不足である一方、九州地方では豪雨被害が多発しております。梅雨期も後半に入りますが、目立った被害が出ないことを祈っております。
梅雨が明ければいよいよ夏ですね。夏休みの予定を立てている方も多いでしょう。先週の記事の通り、ラニーニャ現象と負のインド洋ダイポール現象の発生に要注意です。この組み合わせは過去最悪の熱中症被害が出た2010年と類似していますので、この夏の熱中症には十分お気をつけください。
さて、本記事では少し過去に戻って、2016年春の予測の”答え合わせ”をしましょう。このように、過去のある時点で実施した予測実験を、観測から得られた実際の状況と比較し、その成否を検証することは、季節予測の更なる精度向上のために必要不可欠です。
まずはエルニーニョ予測から見てみましょう。下図は、エルニーニョ現象やラニーニャ現象が発生しているかどうかを判断する際によく使われる指標Nino3.4(単位は°C)の2015年からの現在までの推移です。指標Nino3.4は、熱帯太平洋東部で領域平均した海面水温がどのくらい平年値からずれているか(偏差と呼びます)を示す数値です。青が観測、つまり現実の値です。2015年のエルニーニョ現象は、春過ぎからグングン成長し、昨年末には1997年に発生した観測史上最強の現象と同じ程度にまで 発達しました。年が明けて、その勢力は次第に弱まり、今年5月には終息しました。2016年1月1日時点でのアプリケーションラボの予測シミュレーションの結果は赤線で示してあります。青線と赤線が似ていることが一目瞭然ですね。過去最大級のエルニーニョ現象が晩春には終息することを、見事予測できました。2016年後半にはラニーニャ現象の発生を予測していますが(昨年の11月の時点で、既に指摘していました。参考: サイト)、このまま行くとその予測もズバリ当たりそうですね (アプリケーションラボのエルニーニョ予測シミュレーションが二年先まで有能であることは学術的に認められています。参考: Luo et al 2008)。
(追記: アプリケーションラボのシミュレーションでは複雑な自然現象の不確定性を考慮するために、初期値やモデル設定を僅かに変えた予測実験を9回実施しています(アンサンブル予測と呼びます)。灰色はそのアンサンブルの各予測値で、赤線はその平均値です。アンサンブル平均値の方が、それぞれのアンサンブル値より予測精度が高いことがわかっています)
次に、2016年春(3-5月平均)における地上気温の平年値からの差を見てみましょう。下図左は観測データ(正確には米国NCEP/NCARから配信される再解析データ)で、暖(寒)色が平年より気温が高(低)いことを示しています。右図が2016年2月1日からの予測値です(つまり2/1時点から2~4ヶ月先の将来予測)。世界のほとんどの地域で予測に成功しています。例えば、アフリカ北部、中東、ロシア、中国、インド北部、東南アジア、北米大陸西部、ブラジル、南米大陸北部、豪州、そして日本が平年より高温であることが予測できています。欧州西部や南米大陸南部が平年より低温であることも予測できていますね。しかし、残念ながらナミビアを中心としたアフリカ南西部、北欧、中国北東部、インド南部、カナダ西部、米国東部などの予測は外れています。
”答え合わせ”は如何だったでしょうか?予測の成功は我々研究者にとっては非常に嬉しいものです。しかしこのような予測の”答え合わせ”は決して一喜一憂するためのものではありません。予測が外れた理由を追求し、その現象がそもそも予測可能だったのか?あるいはその現象を予測するためにはどのようにシミュレーションを改善すればいいのか?を明らかにし、その精度改善の努力を続けています。