最近の海洋熱波・寒波(2023/10) 高い水温が一部解消

最近の水温の状況

最近の日本周辺の海面の水温の状況を見てみます。

図1は、先月9月22日と今月10月20日の海面の水温の平年との差を見たものです[1] 。平年より高い場所が赤っぽい色、低い場所では青っぽい色になっています。図2は、同じく水深100mの図です。水深100mでも海面と同じ変化が見られれば、水温の平年との差が天気だけでなく海流の影響を受けている可能性が高くなります。

日本周辺の海面で多くの海域が平年より高い水温になっていますが、先月と比べると、台風14号・15号が通過した地点で水温が平年を下回っています(図1) 。北関東から南東北沖太平洋沖では黒潮続流の北上のために水温が高くなっていますが、北東北から北海道太平洋沖では親潮が入ってきているために水温が低くなっていることころも見られます。(黒潮の影響が強いが、親潮も入る(親潮ウォッチ2023/10)参照) 。日本海は平年より水温が高くなっています。

海面下(図2)では、海面より黒潮大蛇行の冷水渦で平年よりかなり冷たい水が存在がはっきりしています 。また、黒潮大蛇行の影響で黒潮が関東・東海沖近くを流れ、沿岸で平年より温度が高くなっているのは海面でも海面下でも見られます[2]

今後の日本周辺の水温については、「季節ウォッチ」も参考にしてください。

2023/10/26追記
気象庁は日本周辺の9月の平均海面水温が、統計を開始した1982年以降で9月として最も高く、平年差が+1.6℃だったと発表しています[3] 。また、海面水温の監視を行っている日本近海10海域のうち7海域で、平均海面水温が9月として最も高かったと発表されています。

Fig1

図1: 海面の温度の平年との差(℃)。[上段]2023年9月22日。 [下段] 2023年10月20日。台風14号・15号の経路を加えた。台風経路のデータはデジタル台風から。

Fig2

図2: 図1に同じ、ただし水深100m。

 

海洋熱波・海洋寒波

海洋熱波とは、数日以上極端に海水温が上昇する現象です。その発生頻度は近年に大幅に増加しており、海洋生態系に与える影響が危惧されています([プレスリリース] 北海道・東北沖で海洋熱波が頻発していることが明らかに)。

図3は、海洋熱波でよく用いられている基準[4]を使って日本周辺の海面での海洋熱波・寒波の発生状況を見たものです。同じく、図5は水深100mでの海洋熱波・寒波の発生状況です。

数字が1以上になっている所が統計的に10%以下しか発生しない高い温度である海洋熱波が発生している所です。数字が大きいほど強い海洋熱波であることをしめしています。図1,2(b)が平年よりどれだけ水温が高いのかを温度差でしめしているのに対し、図4,5はその中でもまれな温度変化をしめしています。

海面(図3)で目立つ海洋熱波は東北沖太平洋沖、日本海、東海沿岸です。特に黒潮続流の影響を受けている東北沖太平洋沖はレベル3「厳しい」以上の海洋熱波が見られます。

水深100m(図5)では、日本海でもレベル3「厳しい」以上の海洋熱波が見られます。日本黒潮大蛇行の冷水渦では極端な海洋寒波になっています。

Fig3

図3: 2023年10月20日における日本周辺水深1mの海洋熱波と海洋寒波の発生状況。

 

Fig4

図4: 図3に同じ、ただし水深100m。

  1. [1]この記事では、今年の値はJCOPE2Mを使っています。平年の値はJCOPE2M再解析の1993~2020年の平均を使っています。JCOPE2M再解析データは学術研究利用では無償で公開しています。
  2. [2]黒潮大蛇行で夏の関東蒸し暑く」(杉本周作、新学術研究領域・気候系のHOTSPOT2研究成果紹介)
  3. [3]日本近海で記録的に高い海面水温が続いています。~9月は特に記録的~」気象庁2023年10月2日
  4. [4]JCOPE2Mの1993~2020年のデータを使い、統計的に10%以下(90パーセンタイル)の高温が5日以上続いた場合に海洋熱波としています。平年との差が海洋熱波の基準(90%タイルと気候平均の差)の2倍以上である場合は2,3倍以上である場合は3とカテゴリー化しています。逆に統計的に10%以下(10パーセンタイル)の低温が5日以上続いた場合には海洋寒波としています。