高分解能モデルで黒潮の沿岸(宿毛湾)への影響を見る

2015年9月18日「宇和海で急潮発生?」では、2015年8月下旬に黒潮が足摺岬に近づき、沿岸に黒潮の水が入り込み、沿岸の海洋環境に影響を与えた可能性について解説しました。このことについて、もう少し詳しく見てみます。

2015年9月18日号で解説したように、8月22日を前後として黒潮が足摺岬に近づいていました。黒潮予測で用いているJCOPE2のデータで、8月22日の海面温度と流速を見たのが図1左です。黒潮は海面温度の高い帯として見えています。しかしながら、そこから温度の高い黒潮の水が沿岸にどのように入り込んでいるかは、ぼんやりとしか見えません。JCOPE2は黒潮の流路を予測するのには向いていても、沿岸への影響を見るには分解能(約9km)が足りないからです。

沿岸への影響を見るために、我々のグループでは分解能がより高いモデルを開発しています。ここではJCOPE2より高い分解能(約3km)を持つJCOPE-Tのデータ(※1)を見てみます(図1右)。黒潮からどこを通って沿岸に温度の高い水が入っているかが、JCOPE2(図1左)よりもJCOPE-T(図1右)の方がはっきりわかります。

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図1: 海面温度(℃;色)と流速(メートル毎秒; 矢印)。流速は南北に3グリッド毎にプロット。(左図)JCOPE2の8月22日(日平均)の解析値(観測を取り入れて現実に近いと考えられる値)。(右図)JCOPE-Tの8月22日9時(日本時間)の解析値。

 

図2では、宿毛湾に設置された(位置は図1の赤★印)ブイで観測された水温と、モデルで再現された水温を比較してみました。観測(赤線)では、8月22日(赤矢印)を前後として、黒潮の接近にともなうと見られる温度上昇が見られます。分解能が低いJCOPE2で再現した温度(黒線)は、ぼんやりとした温度上昇は見られるものの、8月全体で温度変化が少なく、観測に比べて温度が低すぎます。分解能が高いJCOPE-Tでは(青線)、これらの点が改善しています。

とは言え、まだJCOPE-Tもまだ改善の余地がありそうです。例えば、観測(赤線)では8月18日を前後として温度が低下していますが、JCOPE-T(青線)では温度低下が小さく、その後の温度上昇とのメリハリが弱くなっています。そのため我々のグループではさらに高い分解能(約200m)のモデルを宿毛湾周辺で、地元の関係者とも情報交換しながら開発しています。

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図2: 赤線は宿毛湾に設置されたブイで観測された海面(深さ1m)水温の2015年8月の日平均の時系列。データは水産総合研究センター・リアルタイム海洋情報収集解析システムから取得した。黒線と青線はJCOPE2とJCOPE-Tでそれぞれ再現された対応する海面温度。

 

図3は、図1と同様の図を8月17日日本時間9時から8月27日日本時間8時までをアニメーションにしたものです。この間、黒潮は足摺岬に近づき、その後離れていきます(9月18日号参照)。JCOPE-Tは、高分解能であるだけでなく、潮汐(潮の満ち干き)も計算しています。そのため、JCOPE2は結果を日平均だけ出力しているのに対し、JCOPE-Tは一時間毎に出力しています。アニメーションでは、JCOPE2の変化は一日1回ですが、JCOPE-Tの変化は1時間毎です。JCOPE-Tでは、潮汐の様子(流れの逆転)が、四国と九州の間の豊後水道から瀬戸内海にかけて見えています。また日射による影響のため、JCOPE-Tでは昼間に水温が上昇する様子も見られます。

図3: 図1と同様の図の8月17日日本時間9時から8月27日日本時間8時までをアニメーション。クリックして操作して下さい。途中で停止することもできます。

kurokatsu


※1 JCOPE-Tのデータは、2015年3月13日号「JAMSTECが渦について新発見をしたと聞いたけど?」、7月24日号「台風の通ってきた海」、10月16日号「台風23号接近で高潮発生」、10月23日号「離岸流路は続くか?」でも使用しています。