今年の夏、愛媛県の宇和海では、広範囲で赤潮が発生しました。漁業への被害額は約3億7200万にのぼると言われています。愛媛県は9月11日をもって赤潮の終息を宣言しています(愛媛県:宇和海で発生した赤潮の終息について(最終))。終息の理由の一つとして、8月下旬以降に流入した「急潮」により湾内の海水交換が促進されたこと、が挙げられています(※1)。急潮は黒潮の水が沿岸に入りこむことによって起こる現象で、黒潮が四国・足摺岬に近づいた時に起こりやすいことが知られています。黒潮と急潮、赤潮との関係は2015年5月8日号「続・海流と生態系の関係は?」でも解説しています。
ここでは、8月の四国付近での黒潮の様子を振り返って見ましょう。図1上段はJCOPE2で計算した8月1日の黒潮の状態です。当時、九州東岸から四国沖には小蛇行(8月7日号の図1参照。当時小蛇行2と呼ばれていた小蛇行)が存在しており、黒潮は大きく離岸していて、宇和海と黒潮との水の交換は起こりにくい状態でした。その後、8月下旬の22日(図1下段)には、小蛇行は黒潮下流に移動し、黒潮は足摺岬に接岸していました(8月28日号の図1参照)。8月下旬は、確かに急潮が起こりやすい状況だったと言えます。黒潮親潮ウォッチでは、このような状況を予測し、8月14日号の段階で、「急潮が発生しやすくなります」と述べています。
残念ながら、現在のJCOPEではモデルの分解能が十分でなく、急潮自体の再現や予測は困難です。そのため、地元の人とも情報交換しながら、より高分解能のモデルによる予測システムの開発を進めています。
黒潮の四国・足摺岬への離岸・接岸の様子を観測でも確認して見ましょう。図2左は足摺岬沖に位置する黒潮牧場13号ブイ(位置は図1の赤丸)(※2)で測られた海面近くの海流の1日毎の時間変化です。縦軸が日付になっていて、矢印は、方向が流れの向き、長さが流れの強さになっています。折れ線グラフは東西向きの強さで、赤で塗っているのが東向き、青で塗っているのが西向きを意味しています。8月上旬は、流れが弱く、向きも西向きでした。これは、足摺岬付近に小蛇行が存在していたことによります(図1上段参照)。その後、流れは東向きに転じ、8月下旬に向けて流れが強くなっています。黒潮が足摺岬に近づいている証拠です(図1下段参照)。
その後の変化も見てみましょう。9月3日ごろを最小に流れが弱くなっており、黒潮はやや離岸していたことをしめしています(前回現状参照)。その後、流れが再び回復傾向で、黒潮が接岸に向かっている様子が見えます(今回現状参照)。(残念ながら黒潮牧場13号ブイでは9月13日以降、流速データが得られていません)。
13号ブイ(図2左)に見られる離岸、接岸、離岸、接岸の交替は、今週号予測記事の離岸・接岸傾向の波d,e,f,gに対応しています。13号ブイの東に位置する(位置は図1の青丸)室戸岬沖の黒潮牧場10号のデータを見ると、離岸・接岸が13号ブイに遅れて変化していることがわかります。これは、離岸・接岸傾向の波が黒潮の下流に移動しているためです。このように13号ブイと10号ブイのデータを見ることで、黒潮の接岸・離岸の動きをとらえることができます。
※1 本稿では急潮が発生したことを前提に話をすすめますが、赤潮の解消には、8月前半に高かった海水温(8月21日号解説)が、8月後半に低下した(9月4日号解説)ことが貢献した可能性もあるように思われます。
※2 黒潮牧場のデータは2015年2月13日、3月6日、4月24日、5月29日の記事でも使用しています。
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