2016年10月23日から11月20日の予測を検証します

毎月、過去1カ月の予測を検証する予定です。今回は2016年10月29日号の、10月23日から11月20日までの予測を検証します。

図1上段は、10月23日から予測した11月20日の黒潮の状態です。10月29日号の予測のポイントは、黒潮は南北に大きく動くものの、11月後半の段階では、八丈島の北を流れる接岸流路になりそうということでした。実際、黒潮が北寄りに移動するという点では予測が当たっていました(図1下段、接岸傾向e)。ただし、位置は八丈島付近にとどまり、接岸流路とまではなりませんでした。このことについては、図4以降で詳しく解説します。

10月29日号の予測のもう一つのポイントは、四国・足摺岬から紀伊半島・潮岬にかけて、接岸とやや離岸の小刻みな繰り返しが続きそうということでした。その点は、多少のタイミングのずれを除けば、良く予測できていたようです。

11月20日頃の実際の様子については、図2の「ひまわり8号」による海面水温(※1)も参照してください。接岸傾向eによる黒潮の北上による八丈島付近の高い水温や、それに続き黒潮の南下をもたらしそうな離岸傾向fによる海面水温低下がはっきりと見えています。

図3は2016年10月23日から11月20日までの予測値(上段)と実際(下段)の比較をアニメーションにしたものです。

Fig1

図1: [上段]2016年10月23日から予測した11月20日の予測値。[下段]観測値を取り入れて推測した11月20日の解析値。矢印は海面近くの流れ(メートル毎秒)、色は海面高度(メートル)。赤は八丈島の位置。アルファベットc,d..は接岸・離岸傾向の波(11月25日号の現状・予測参照)。

図2: 「ひまわり8号」が観測した2016年11月20日の一日平均海面水温(°C)。JAXA提供の1時間データを合成した。白の空白は雲がかかって観測できなかった所。赤星()は八丈島の位置。アルファベットc,d,,は図1下段の接岸・離岸傾向の波に対応。

 


図3: 2016年10月23日から11月20日までの予測(上段)と実際(下段)の比較のアニメーション。クリックして操作してください。途中で停止もできます。

kurokatsu


八丈島付近の黒潮流路について、詳しく見てみましょう。過去の解説で(※2)、伊豆諸島付近の黒潮流路を判断するには、八丈島での海面高度(潮位)を見れば良いことを説明しました。流れの強い黒潮をはさんで、本州に近い方は海面高度が低い、逆の沖側では海面高度が高いという関係があるからです(図1参照)。このため、黒潮が本州に近づいて島の北を流れる接岸流路であれば、島周辺の海面高度は高くなります。逆に、黒潮が島の南を流れる離岸流路が発達すれば、島周辺の海面高度は低くなります。

図4は、JCOPE2Mで観測値を取り入れて再現した八丈島の海面高度(★による点線)と、その予測(青線、緑線、赤線)です。

10月29日号の10月23日からの予測では(青線)、いったん離岸傾向dの影響でいったん離岸方向(海面高度がやや減少)にむかってから、接岸(海面高度の大きな上昇)すると予測していました(11月1日号の検証も参照)。実際には(★による点線)、離岸傾向dは予測よりも発達し(海面高度の減少)、その後の変化に影響を与え、接岸流路の発達を抑えたようです。次の週の10月31日からの予測(緑線, 11月5日号)からは、現実の離岸傾向dの発達を取り込み、接岸流路の発達はなさそうという正しい予測になっています。

最新の予測(赤線、11月25日号の予測)では、接岸傾向eによる黒潮のやや北上(海面高度のやや上昇)の後(図1,2参照)、離岸傾向fによる南下(海面高度の減少)、その後も南北への移動(海面高度の上下)を繰り返すという予測になっています。

Fig4

図4: JCOPE2による八丈島周辺の海面高度の予測の2016年10月1日からの時系列。青線が10月23日からの予測。緑線が10月31日からの予測。赤線が11月20日からの予測。★による点線が観測値を取り入れて推測した現実に近いと考えられる値。

 

観測を確認してみましょう。図5は、過去の解説でも使用した、東京大学大気海洋研究所の「潮位データを用いた黒潮モニタリング」から、八丈島での海面高度(潮位)の今年の変化をグラフ作成したものです。おおむね図4で説明した通りの動きをしています(①離岸傾向d、②接岸傾向e、③離岸傾向f)。

図5: 東京大学大気海洋研究所「潮位データを用いた黒潮モニタリング」の「各潮位データの図示」から、「期間: 2016年までの 1年間」で、「八丈島」でグラフ作成。単位はセンチメートル。矢印と字で注釈を追記した。図5が1地点の観測値であるのに対し、図4の値はモデルの分解能の約9km四方の平均であり、0の値の基準点も違うので、図4と図5の値は完全には一致しません。上昇と下降の変化の傾向を主に見てください。

 


予測の難しかった離岸傾向dはどのようなものだったでしょうか?図6の上段は、離岸傾向dが発達した11月4日の「ひまわり8号」による海面水温(※1)です。離岸傾向dにともなう冷たい水の南下は、非常に細長く伸びており、黒潮は極端なS字型の蛇行をしていました。このような極端な形が予測を難しくしたようです。

しかし、いったん「ひまわり8号」による観測が届くと、予測モデルJCOPE2Mはその情報を取り込めます。図6の下段の色は、観測値を取り込んでJCOPE2Mが再現した海面水温です。図6上段の「ひまわり8号」の海面水温の様子を良く再現できています。以前の予測モデルJCOPE2ではここまで海面水温をうまく再現できていませんでしたが(図略)、JCOPE2Mでは「ひまわり8号」のデータをうまく取り込めるように改良されています。これにより、いったん予測が外れ始めても(図4の青線)、次の予測では現実に合わせて修正する能力を持っています(図4の緑線)。今後も、この新しいJCOPE2Mの検証・改良を行っていきます。

Fig6

図6: [上段]「ひまわり8号」が観測した2016年11月4日の一日平均海面水温(°C)。JAXA提供の1時間データを合成した。赤星(★)は八丈島の位置。アルファベットdは離岸傾向d。[下段] 観測値を取り入れてJCOPE2Mが再現した11月4日の解析値。色は海面水温(℃)。矢印は海面近くの流れ(メートル毎秒)。


※1 「ひまわり8号」の海面水温については、2015/10/9号・気象衛星「ひまわり8号」で見た黒潮を参照。JAXA提供の「ひまわり8号」海面水温データは、2016年8月31日からバージョン1.2にバージョンアップしています。過去の「ひまわり8号」の水温データを使った解説一覧はこちら

※2 過去の八丈島水位の解説一覧はこちら