最近の水温の状況
先月から今月にかけての日本周辺の海面の水温の状況を見てみます。
図1は、10月4日と11月7日の海面の水温の平年との差を見たものです[1]。平年より高い場所が赤っぽい色、低い場所では青っぽい色になっています。図2は、同じく10月4日と11月7日の、水深100mの図です。水深100mでも海面と同じ変化が見られれば、水温の平年との差が天気だけでなく海流の影響を受けている可能性が高くなります。
日本海の水温が平年よりかなり高くなっています(図1b, A)。水深100mでも見られることから海流の影響がありそうです(図2b, A)[2]。日本海の水温が高いと日本海側の雪が増える可能性があり(「対馬暖流が強く大雪?」参照)、注目点です。
北海道から東北の東方沖で見られる平年より特に高い温度(B)は、海面(図1)だけでなく水深100m(図2)でも見られることから、海流の影響を受けていることがわかります。暖水渦が弱まるか (親潮ウォッチ2019/11)で解説したように、黒潮からの暖水渦の影響です。暖水渦の間をぬけて冷水渦の形で親潮の水が入っているところでは平年より冷たい水も見られます(C)。
黒潮南岸沖では黒潮大蛇行による冷水渦があります(図1b D)。先月(図1a)よりはっきりしています。、海面下ではよりはっきりと見えます(図1b D)。一方で、大蛇行の東側では黒潮が北上して岸に近づくので、関東から東海沿岸では平年より水温が高くなっています(図1,2 E)。台風19号の時に各地で高潮・高波の被害がありましたが、静岡県から紀伊半島東部にかけては高い水温に対応して通常より15~20cmほど潮位が高くなっていました(「最近の水温と海面高度の状況(2019/10) 台風19号が近づく」参照)。
今後の日本周辺の水温については、姉妹サイトの「季節ウォッチ」も参考にしてください。
台風19号の影響
10月4日から11月7日の間に、台風がいくつか通過して水温にも影響を与えました(図1bに台風の経路図)。特に台風19号の影響は大きいものでした。
黒潮親潮ウォッチの短期予測で使用しているJCOPE-T DAの図を使って、台風通過の影響をさらに見てみましょう。JAXAと共同で運用しているJCOPE-T DAは、JAXAの記事「シリーズ衛星データと数値モデルの融合(第2回)衛星海面水温を用いた「海中天気予報」システムの運用を開始しました」でも取り上げられているように、人工衛星では観測出来ない台風通過時の雲の下の海洋状態も推定することができます。JAXAのサイトで公開されている画像の見方は、「JAXAと共同で新しい海洋予測を開始」で解説しています。
図3では人工衛星「ひまわり」観測とJCOPE-T DAを比較するサイトを使って、台風19号通過後の10月13日の状況を見てみました。
図3の左側は、「ひまわり」で観測したクロロフィルa濃度(プランクトン量の指標)に設定しました。図3の右側はJCOPE-T DAで推定した海面水温です。
水温を見ると(図3右)、台風の通過した所に沿って(点線)、水温が下がっています。特にa,b点などで水温の低下がはっきりしています。c点はもともと黒潮大蛇行の影響で水温が低いところでしたが、台風の通過によってさらに水温が低下しています。
水温が低下している場所に対応して、クロロフィルaの濃度が上昇しているのが見られます(図3左)。台風が通過し栄養塩が深層から上昇することで光合成が増加しプランクトンの量が増えた可能性もありますが、台風通過後に時間を置かずにすぐに増えていることから、海面下のプランクトンが上昇してきた可能性もあります。
JAXAのサイトでは台風の影響に限らず海洋状態とプランクトンの分布の関係が見られるので、いろいろ試して見ると面白い発見があると思います。「最近の水温の状況と台風の影響(2019/8)」にも記事を書きました。
今では台風19号の影響影響は残っておらず(図1b)、全体的に平年より水温が高くなっています。
- [1]この記事では、今年の値はJCOPE2Mを使っています。平年の値はJCOPE2M再解析の1993~2018年の平均を使っています。JCOPE2M再解析データは学術研究利用では無償で公開しています。↩
- [2]日本海の暖かさについては、「暖水渦が弱まるか (親潮ウォッチ2019/11)」の記事にも追記しました。↩