黒潮大蛇行はまだまた続く!? (2019年春の状況)

2017年に始まって1年6か月以上経過した黒潮大蛇行の状況を検討します。海面でも深層でも黒潮大蛇行を作る渦はむしろ強くなっています。東に流される気配もなく、むしろ西に寄っています。これらのことから、黒潮大蛇行はまだ続きそうだと判断しています。

海面での大蛇行の大きさと強さ

図1は、黒潮長期予測で使っている黒潮の図を、前回2004-2005年の大蛇行期間中の2005年2月28日、2017年に始まった今回の大蛇行期間中で1年前の2018年2月28日、今年の2019年2月28日で比較したものです。前回の2004-2005年の大蛇行は2004年の7月から2005年の8月まで1年2か月続いた後に終わりました。2005年に黒潮大蛇行が終わる様子は「黒潮大蛇行が終わる時: 2005年の場合」で解説しています。一方、今回の黒潮大蛇行は2017年の8月末に始まってから1年6か月以上経過していますが、まだ終わっていません。

今の黒潮大蛇行の様子を見ると(図1c)、2005年の同時期(図1a)よりも蛇行が大きくなっています。また、昨年の同時期(図1b)と比べると、黒潮大蛇行の大きさは同じくらいですが、大蛇行の強さは強くなっています。図1の色は、海面の高さをしめしていて、大蛇行を作っている反時計回りの渦の中では高さが低くなっています。これは気象で言えば低気圧のようなもので、その低さで渦の強さがわかります。今の反時計回りの渦の海面高度(図1c)は昨年(図1b)と比べても低くなっており(濃い青)、渦が強くなっていることがわかります。

 

図1: (a) 2005年2月28日の黒潮の様子。矢印(ベクトル)は海面近くの流れの向き(メートル毎秒, 長いほど速い流れ)、色は海面高度(メートル, 相対値)。赤丸()が八丈島の位置。海面高度が低いところは海面水温が低いおおまかな関係があります。(b) 同じく2018年2月28日。(c) 同じく2019年2月28日。

 

 

海面での大蛇行の位置

黒潮大蛇行が終わる時: 2005年の場合」で解説したように、通常の黒潮大蛇行の終わり方は、大蛇行を作る反時計回りの渦が東に流され、伊豆諸島よりも東に移動して終わります。

前回の大蛇行の2005年2月28日の段階(図1a)では、大蛇行を作る反時計回りの渦は伊豆諸島のまだ西にあり(図1の赤丸が伊豆諸島の八丈島の位置)、反時計回りの渦の東が伊豆諸島に接しています。その後に春ごろから東に流されて大蛇行が終わりました。

黒潮大蛇行が終わる時: 2005年の場合」で、反時計回りの渦の位置を見るには八丈島での海面高度(潮位,)を見れば良いことを説明しました[1]。図1で見たように、反時計回り渦の中心は海面高度が低くなっているからです。図2aは、「黒潮大蛇行が終わる時: 2005年の場合」でも使用した、東京大学大気海洋研究所の「潮位データを用いた黒潮モニタリング」から、八丈島での海面高度(潮位)の2003年から2005年の変化をグラフ作成したものです。八丈島の潮位は黒潮大蛇行が始まった時は高くなっていますが、2005年になってから徐々に低下しています。これは、黒潮の大蛇行を作る反時計回り渦が次第に東に移動して、八丈島を通過したからです。このように黒潮大蛇行が終了していく様子が八丈島の潮位でとらえられています。

今回の大蛇行はどうでしょうか?図2bは八丈島での海面高度(潮位)の2017年から2019年の変化をグラフにしたものです。八丈島の水位は2017年の大蛇行の発生の後に何度も低下しています。これは大蛇行を作る反時計回り渦が何度も八丈島を超えて東に移動しそうになっていたことをしめしています。この様子だけ見ると2004-2005年の黒潮大蛇行よりも早期に大蛇行が終了しそうでした。しかし、2018年の後半からはそうしたこともなくなり、八丈島の水位は高い状態が続くようになりました。

図1で見ても、昨年の同時期(図1b)には反時計回り渦の東が伊豆諸島の八丈島に接していましたが、今(図1c)は渦が西寄りになっており、渦の東は伊豆諸島の八丈島に接していません。このように現在の黒潮大蛇行は東に流されることによって終わる気配がありません。

Fig2

図2: (a)東京大学大気海洋研究所「潮位データを用いた黒潮モニタリング」の「各潮位データの図示」から、「期間: 2005年までの 3年間」で、「八丈島」でグラフ作成。単位はセンチメートル。赤線が黒潮大蛇行の期間。(b) 同じく「期間: 2019年までの 3年間」で作成。

 

深海での大蛇行の大きさと強さ

黒潮長期予測では、「深海から黒潮大蛇行のこれからを予測する」で解説したように、深海での水温でも黒潮大蛇行の強さを見ています。黒潮が大蛇行している影響は水深1000mにまで及んでおり、水温3℃以下の冷たい海域が東海沖に大きく広がっっています(図3)。この水深3℃以下の冷たい海域の面積が広ければ、黒潮大蛇行が強いことをしめしています。比較すると、最近(図3c)は冷水の面積が2005年の同時期(図3a)よりも広く、昨年の同時期(図3b)に比べても広くなっています。広さだけでなく、水温が冷たいほど大蛇行が強いことを意味しています。最近(図3c)は水温がとても冷たくなっており(濃い青)、以前と比べると強くなっていることがわかります。

深海の冷水の面積の時間変化を見たのが図4です。2004-2005年の大蛇行(薄い黒線)の場合は、2004年の7月に大蛇行が始まってから冷水面積が増加した後、2005年になってから減少し始めて黒潮大蛇行が終わりました。

一方、今回の大蛇行(濃い黒線)の場合は、2017年の8月に大蛇行が始まって増加した後、2018年になって減少し始めたところまでは前回の大蛇行に似ていましたが、2018年の7月に再び増加を初めて、今はピークに近い値になっており、それが続いています。

これらの図から、深海で見ても黒潮大蛇行はむしろ強まっていると言えます。

Fig3

図3: JCOPE2Mで推定した水深1000mの水温分布。(a) 2005年2月28日。(b) 2018年2月28日。 (c) 2019年2月28日。

 

Fig4

図4: JCOPE2Mで推定した冷水面積(図3の点線枠で水温3℃以下の海域の面積)の1日毎の時系列。単位は104平方キロメートル。薄い黒線が2004-2005年。濃い黒線が2017-2019年。

深海での大蛇行の位置

深層の冷水の位置はどうでしょうか? 図3の印のように水温3℃以下の冷水位置の重心を決め、その東西位置の時間変化を見たのが図5です。

前回の2004-2005年の黒潮大蛇行の場合(図5の薄い黒線)、深層の冷水位置も海面での反時計回り渦のように徐々に東に移動することで黒潮大蛇行が終わりました。

一方で、今回の大蛇行の場合(図5の濃い黒線)、始まった時はむしろ前回の大蛇行よりも東に位置していましたが、徐々に西に移動しています。東に流されて黒潮大蛇行が終わりに向かう様子が見られません。

Fig5

図5:水温3℃以下の海域の重心の東西位置(経度)。薄い黒線が2004-2005年。濃い黒線が2017-2019年。横軸が経度。縦軸が下から上に時間経過。

結論

海面でも深層でも、黒潮大蛇行を作る反時計回りの渦は、弱まるどころか、むしろ強まっています。位置で見ても、東に流されて終わる様子が見えるどころか、むしろ西に寄ってきています。このことから、黒潮大蛇行はまだまだ続きそうだと結論づけられます。

  1. [1]過去の八丈島水位の解説一覧はこちら