この記事は「ちきゅう」のための海流予測4の連載第5回目です。
掘削地点の移動
地球深部探査船「ちきゅう」プレート境界断層に向けた掘削を行っていましたが、残念ながら断念し、予備サイトに移動することになりました。予備サイトでの掘削は、本研究航海の予備プランとして予め検討していたもので、「ちきゅう」による掘削とその長期孔内観測データにより近年存在が明らかになった海溝軸付近でのスロー地震と巨大地震(高速滑り)の関係等を解明することを目的とし、「南海トラフ地震発生帯掘削計画」でこれまでに得られた科学成果を補完・補強するために実施されます。
2019年3月1日プレスリリース: 地球深部探査船「ちきゅう」による国際深海科学掘削計画(IODP)第358次研究航海「南海トラフ地震発生帯掘削計画:プレート境界断層に向けた超深度掘削」におけるC0002地点での掘削の終了と今後の予定について
「ちきゅう」は3月2日までは図1の●地点(C0002)で掘削していましたが、3月4日からは●地点(C0024)で作業を行っています。
図1の背景は、「ちきゅう」のための海流予測に使っている予測モデルJCOPE-T DAで推定した海流です。JCOPE-T DAは黒潮の短期予測に使っている予測モデルです。灰色の陰影で海流の流れの強さ、流線で流れの向きを表現しています。今回の「ちきゅう」の航海中は、継続して黒潮が南に大きく蛇行して流れています。新しい掘削地点は、大蛇行を作っている渦のさらに中心に近く、海流の強さが弱いことが期待できる場所です。

図1: 「ちきゅう」は●(C0002)から●(C0024)に移動。背景は予測モデルJCOPE-T DAで推定した水深15mの2019年2月1日から3月15日の平均の流れで、灰色の陰影で海流の流れの強さ(ノット)、流線で流れの向き。
「ちきゅう」公式twitterより
【Daily Report for IODP Expedition 358】3.4, 2019(日本語版)
次の掘削地点に到着し、掘削同時検層編成の準備をおこなっています。今日の写真:以前のサイトで得られたサンプルの物性分析を行う研究者#EXP358 #IODP #ちきゅう #Chikyu #JAMSTEC pic.twitter.com/qzrQJQ2IXW
— CHIKYU 地球深部探査船「ちきゅう」 (@Chikyu_JAMSTEC) 2019年3月5日
C0002地点での予測の答え合わせ
移動前のC0002地点で流速はどれくらい予測できていたでしょうか?前回の続きを見てみましょう。
図2の黒線は2月1日から3月2日までの、「ちきゅう」が観測した水深15mの流速です。黒潮大蛇行のため、小さな流速が続き、多くの期間で1ノット以下、大きくても1.5ノット強程度におさまっています。
青線がJCOPE-T DAで予測した流速です。毎日更新される予測をすべて図にしているので、複数の線があります。前回までに予測の流速を0.5倍した値に観測値が近いということがわかっているので、0.5倍にしてあります。こうしてみると、予測は2月中旬までは流速が上昇して、その後下降するという傾向を予測出来ていたようです。

図2: C0002地点での比較。黒太線は「ちきゅう」のドップラーによる15m深の流速(ノット)の1日平均の時系列。薄い青線は、JCOPE-T DAによる海面近く(15m深)の流速(ノット)予測結果。毎日更新される予測をすべて重ねた。ただし予測の流速を0.5倍している。
新しい掘削地点では?
C0002地点では予測は悪くありませんでしたが、移動した後のC0024地点では、どうでしょうか。
図3は3月4日以降の観測(黒太線)と予測(ただし0.5倍、青線)を比較したものです。流速の増加を過大に予測しています。これは、先月の短期予測の検証でも見たように、「ちきゅう」のための海流予測に使っている予測モデルJCOPE-T DAでは、黒潮大蛇行をつくる反時計回りの渦の東側の北向きの流れを西寄りに予測してしまう癖があり、そのために北向きの流れがC0024地点を直撃するように予測してしまうためです。C0024地点はJCOPE-T DAの弱点が出てしまいやすい海域であり、今後の改良が必要です。
今後の予測
長期予測では黒潮大蛇行が続くと予測しており、このまま掘削地点では小さい流速が続くと考えられます。図3の予測は過大である可能性が高いです。
「ちきゅう」の動向については、「ちきゅう」公式twitterや、ちきゅうレポートをご参照ください。