「ちきゅう」のための海流予測4 (4) 黒潮大蛇行はずっと続いている

この記事は「ちきゅう」のための海流予測4の連載第4回目です。

黒潮大蛇行は続いている

前回の記事から間があいてしまいました。「ちきゅう」のための海流予測はずっと続けていますし、「ちきゅう」には継続的にレポートを送っているのですが、黒潮親潮ウォッチで記事を書くほどには何も海流の大きな変化はなかったのです。

図1の背景は、「ちきゅう」のための海流予測に使っている予測モデルJCOPE-T DAで推定した海流です。JCOPE-T DAは黒潮の短期予測に使っている予測モデルです。灰色の陰影で海流の流れの強さ、流線で流れの向きを表現しています。今回の「ちきゅう」の航海中は、継続して黒潮が南に大きく蛇行して流れています。

「ちきゅう」の掘削地点は大蛇行にともなう時計回りの海流の渦の中にあり、流れが弱い所になっています。図の赤線は、「ちきゅう」が掘削地点に到着した直後の昨年10月14日から、今年の2月1日までの「ちきゅう」の動きで、がスタート地点、が最終地点になっています。とは言っても、ずっと掘削地点にとどまったままです。掘削しているので、ずっと掘削地点にいるのは当たり前のようですが、もし黒潮が近くを通って海流が強かったらそういうわけにもいきません。以前に書いたように2016年3-4月の航海の時は黒潮が強く、黒潮の危険を避けるために必要な時以外は黒潮の外に待避するような動きが必要でした。今回は流れが弱いので、「ちきゅう」は掘削に集中出来ています。12月3日には、科学掘削におけるこれまでの掘削深度記録(海底下3058.5m)を更新しています。

Fig1

図1: 2018年10月14日から2019年2月1日12時日までの「ちきゅう」(赤線)の航路。がスタート地点、が最終地点。背景は予測モデルJCOPE-T DAで推定した水深15mの期間平均の海流で、灰色の陰影で海流の流れの強さ(ノット)、流線で流れの向き。点線の緯度・経度の交点が掘削地点。

 

「ちきゅう」公式twitterより

「ちきゅう」の観測した流速

図2は昨年10月13日から今年2月1日までの、「ちきゅう」が観測した水深15mの流速です。小さな流速が続いており、多くの期間で1ノット以下、大きくても1.5ノット強程度におさまっています。このような流速が弱い状況の下で掘削が続けられています。上記の記録を更新した孔は状態が悪化したため、別の孔で掘削が続けられています。

Fig2

図2: 黒太線は「ちきゅう」のドップラーによる15m深の流速(ノット)の時間変化。横軸が時間で、例えば「10/24」は10月24日の0時(日本時間)。縦軸が流速の強さ(ノット)。

 

「ちきゅう」公式twitterより

 

支援船は3隻体制

今回の観測には支援船も参加しています。支援船は、「ちきゅう」に紀伊半島の新宮港から物資を補給したり、「ちきゅう」の上流から強い海流が来ないかを警戒したりすることで、「ちきゅう」の観測を助けます。前回までに紹介した「第八明治丸」「あかつき」に加えて、昨年11月26日からは「新潮丸」も加わっています。

図3は支援船3隻の今までの航路です。掘削地点の「ちきゅう」の側にいるか、物資補給のために掘削地点と和歌山の港との間を往復しています。図にあるように、掘削地点と紀伊半島の間の流速は、反時計回りの渦のために掘削地点よりも大きくなっています。実際、支援船は最大2ノットを越えるの流速を観測しています。その観測値に関しては別の機会に。

Fig3

図3: 2018年10月14日から2019年2月1日12時日までの「第八明治丸」(青線)、「あかつき」(緑線)、「新潮丸」(黒線)の航路。がスタート地点、が最終地点。背景は予測モデルJCOPE-T DAで推定した水深15mの期間平均の海流で、灰色の陰影で海流の流れの強さ(ノット)、流線で流れの向き。点線の緯度・経度の交点が掘削地点。

 

「ちきゅう」公式twitterより


予測の答え合わせ

流速はどれくらい予測できていたでしょうか?

図4の黒線は、図2の「ちきゅう」の観測と同じですが、潮の満ち引きなど短時間の変化を落とすために、1日平均の時間変化にしたものです。青線がJCOPE-T DAで予測した流速です。毎日更新される予測をすべて図にしているので、複数の線があります。前々回前回も書きましたが、JCOPE-T DAの流速は2倍ほど大き過ぎます。海の真ん中の1点の流速を、大きさまで正確に予測するのは難しいようです。

Fig4

図4: 黒太線は「ちきゅう」のドップラーによる15m深の流速(ノット)の1日平均の時系列。薄い青線は、JCOPE-T DAによる海面近く(15m深)の流速(ノット)予測結果。毎日更新される予測をすべて重ねた。

 

流速の大きさをぴったり予測するのは難しいとして、流速がこれから大きくなりそうか、小さくなりそうかという面ではどうでしょうか?

図5では、図4と同じ図を、大きさはそろえるために予測を0.5倍しています。こうして見ると、赤矢印でしめしたように、流速がこれから下降期にあるか、上昇期にあるかという予測はある程度できていました。ただ青矢印でしめしたような時のように、外れが大きい時期もありました。ここで使っているJCOPE-T DAは、昨年の11月から正式に運用し始めた予測システムで、まだ改良の余地がありそうです。

Fig5

図5: 図4と同じ。ただし予測に0.5倍した。

 

私たちは、予測の改良の努力を続けています。図6はその改良の例の一つで、改良したモデルによる再計算(赤線)と「ちきゅう」よる観測(黒線)を比較した物です。モデル計算の流速が2倍ほど大きいのはあいかわらずなので0.5倍する必要はありますが、変化の様子は良くなっています[1]

Fig6

図5: 改良したモデルによる再計算と「ちきゅう」の観測流速の比較。ただしモデル計算の値は0.5倍した。

 

今後の予測

長期予測では黒潮大蛇行が続くと予測しており、このまま掘削地点では小さい流速が続くと考えられます。その小さい流速の中で、短期的には流速がやや上昇期にあると予測しています(図5)。

「ちきゅう」の動向については、「ちきゅう」公式twitterや、ちきゅうレポートをご参照ください。

「ちきゅう」公式twitterより

2月12日追記: 目標としていたプレート境界断層への到達は不可能である見込みになっています。

  1. [1]モデルの改良とともに、モデルの計算に必要は大気の状態が予測の時より正確にわかっていることも影響していることも考えられます。