海洋プラスチックという大きな問題。
「みんなで力を合わせて解決しよう!」と動き出す前に、
ちょっと立ち止まって考えて見たい。
そもそもどういう問題なんだろうか?
どう向き合えばいいのだろうか?
科学はどうあるべきなんだろうか?
建前も啓発も宣伝も一切なしの大真面目トーク
『海流とごみの本当の話』を振り返ります。
* * *
青木 | トーークショーお疲れ様でした。 |
藤元 | いやぁ、楽しかったですね |
青木 | 楽しかったですけど、僕はずっと緊張してました。ドキドキじゃなくて、気が抜けないっていうか。一応モデレーターということになってたんで、進行もしなきゃいけないし、かといって、盛り上がってるところで話を止めたくもない。会場のみなさんに楽しんでもらえてるかとか、ずっと不安でした。でも、終わってから、「すごく楽しかった」とか言ってくださる方がいて、それで少し気が楽になりました。 そうした方々が言うには、科学者と元新聞記者とアーティストという異色の組み合わせが良かったらしいです。みんな視点が違うところがいいと。 |
藤元 | そうですよね。のっけから、登壇者みんな海ごみ問題を一歩引いて見てる。保坂さんが、かろうじてちょっと引っかかってくれてる。かろうじてね(笑)。 |
青木 | でも一歩引いてるからこそ、突っ込めるんですよね。古恵さんも言ってたように、海ごみがあるということと、海ごみで汚染されている、は全然違いますよね。前者は、客観的でいわゆる科学的な見方、後者は主観的で見る人の価値判断による。見方を固定すると判断を誤る可能性がある。こういう大事なことって、普通のシンポジウムじゃ議論に上がらない。 |
藤元 | 僕はよく言うんですけど、「海ごみをなんとかしよう!」とかいうマインドセットってデザインなんですよ。海ごみは汚いからみんなで無くそうってことで結論まで持っていくのが全体としてデザインになってる。登壇した僕らは、「そもそも、ゴミってなんだ?」、「海洋プラスチックはゴミなのか」、ってところから始めてる。 |
青木 | その辺は科学と似てますね。一つ一つ検証して積み上げていく。でも海ごみ問題は科学の方もマインドセットされてるところがあるように思うんです。九大の磯辺さんらが、この問題をきちんとした科学のフィールドに乗せてくれて、今はマイクロプラスチックの空間分布を数値モデルである程度計算できる時代になった。それで、今度は、じゃそれに生態系モデルを組み込んで、マイクロプラスチックがどのように生態系に入っていくかという研究が始まろうとしている。プラごみの影響を調べることだけを動機として。でも、マイクロプラスチックができるメカニズムとか、その粒径分布の理論的説明は全然できてないんですよね。本当はそこやらないと。 |
藤元 | 青木さんが言ってましたけど、色んな形のプラスチックがどうやってマイクロプラスチックになっていくのか、まじめに考えていくと、難しい問題だと思います。だから、今回のアートを通じて、アーティストの僕としては、研究者が何をどう考えてるのか知りたかった。今回は海洋学だったけど、それはもっと派生して、結局、経済的、社会循環的な話を含めて考えていかないと、海洋プラスチックの問題に向き合えないと思うんですよね。この先の展開として、そういう人たちとのトークもありえるかなと思ってます。 |
青木 | なるほど。色んなフィールドの人たちを巻き込んで行くと。 |
藤元 | 海ごみ清掃って、血税使って人件費にして、だと割りが合わない。誰が出したゴミかわかんないのに、なんで俺らが金払わなきゃいけないの?って話になる。じゃ、どうしたらいいか。色んな分野の研究者と協力しながら考える必要があるんじゃないかな。磯辺さんみたいに数値化して基準を作る人がいないと、何も始められない。海ごみ問題って、色んなプレイヤーが同時に活躍しないといけないと思うんです。しかも国境を越えて。既成事実を作るためだけのポーズとか、企業イメージをあげるためじゃなくて。そういう「“ちゃんちゃん劇”をいつまでやってんだ?」みたいなところって、実はみんな気づいてる。気づいてるのに世の中なにも変わらない。 |
青木 | 海ごみ問題ってある意味、色んなところで起きてる問題の縮図みたいになってますよね。SDGsだって、言ってることは正しいけど、なんかふんわりしてて中身が分からない。持続的に発展が可能かどうか誰も問わない。色んな世界規模の社会課題があって、そこに研究者も巻き込まれて行くんだけど、そもそもの課題の意味だとか意義だとか動機だとか、本当はきっちり考えないと本質を見失う。僕らのアートは海ごみをテーマにしてるけど、実は、海ごみというExampleからそうした様々な課題に迫ってるのかも知れないですね。課題の本質に迫っていくには、課題が対象とする事柄についての明確なイメージを持つことが必要で、そのためには現実を見なきゃいけないと藤元さんはおっしゃってますよね。 |
藤元 | そうですね。なんとなくで捉えるんじゃなくて、現実を見ることが大事だと思います。 |
青木 | 実は、後日、来場者の方から「海ごみを見に行きたくなりました」というメッセージを頂いたんです。 |
藤元 | 嬉しいですね。見た方がいいです。リアルは大事です。僕もリサーチで行きましたけど、浜に落ちてる太いロープのゴミとか、同じ場所にあっても踏むとすぐに粉々になるものもあれば、絶対に切れない堅牢なものもある。そういうのを実際に見てみると、〜年経過してプラスチックがマイクロプラスチックになるという話も幅を持って考えざるを得ない。それを物理的にどう考えていくのかとか、やっぱ見ないといけないですね。 |
青木 | トークショーでは、保坂さんが科学知見の有効化のための「共感」を提案し、古恵さんが客観的事実と価値判断の混同を批判し、藤元さんが現実を直視することの大切さを指摘しましたね。「共感」というプロセスは世論形成のどこかで必ず出てくると思うんですが、今までは、その共感が、現実のほんの一部に基づく一方的な価値判断から生み出されていた。現実の色んな側面と色んな捉え方を知らなきゃいけないと思うんですが、そう言う意味でも「海にごみはあるもの」というあの海女さんの言葉は印象的でした。 |
藤元 | そう。あの海女さんの言葉には救われましたね。すとんっとはまった感じがありました。彼女にインタビューするまで、海は本来綺麗なものだと僕は思い込んでました。ところが、彼女は「海ってあんなもんじゃないの?子供の頃からごみはあるけど、特に気になったことない」と言ってくれた。海を綺麗にしなきゃという考えって、どこかパーフェクトな世界をイメージしてるんです。海は元々汚いものだと考えれば、パーフェクトビーチなんて、そんなありもしないものを目指さなくていいんだって思える。逆に言うと、目指すものがはっきりする。 |
青木 | 展覧会が始まるつい二週間前の出来事ですよね。 |
藤元 | そうです(笑)。 |
青木 | 何度聞いても深みがあります。それじゃ、トークショーと同じく、このエピソードが出たところで終わりにしましょう。海女さんに感謝して。今日はどうもありがとうございました。 |
藤元 | ありがとうございました。 |
(終わり)
2019-OCT-16
『陸の海ごみ』藤元 明 展
2019.10.4 fri – 2019.11.14.thu
Gallery A4 にて開催中
トークショー「海流とごみの本当の話」
2019.10.10 thu 18:30 – 20:00
竹中工務店東京本店2階Aホール
講師:
古恵 亮(海洋研究開発機構 主任研究員)
保坂 直紀(サイエンスライター・東京大学特任教授)
藤元 明(アーティスト)
モデレータ:
青木 邦弘(海洋研究開発機構 研究員)
終了しました。ご来場ありがとうございました。
対談「アーティストの社会的役割」
2019.10.31 thu 18:30 – 20:00
竹中工務店東京本店2階Aホール
日比野 克彦(現代美術家)
藤元 明(アーティスト)
→申し込みはこちらから
国立研究開発法人 海洋研究開発機構
付加価値情報創生部門 アプリケーションラボ 研究員
北海道大学大学院博士課程修了。北海道大学理学研究院、同地球環境科学研究院および東京大学理学部で研究員を経て現在に至る。海の物理現象を中心とした数理科学的研究を展開する。