藤元明「陸の海ごみ」
トークショー「海流とごみの本当の話」
イベントレポート
10月10日(木)18:30~ 竹中工務店東京本店2階Aホールにおいて、トークショー「海流とごみの本当の話」が開催されました。
講師は保坂直紀さん(サイエンスライター・東京大学特任教授)、古恵亮さん(海洋研究開発機構主任研究員)、藤元明さん(アーティスト)です。
モデレーターは青木邦弘さん(海洋研究開発機構研究員)です。
トークショー開始30分前の控え室では、すでに海ごみ対策についての話が盛り上がっていました。
いよいよトークショーが開演。
まずは展示 「藤元 明『陸の海ごみ』」が開催されているGallery A4の白川裕信館長よりご挨拶がありました。
青木邦弘さんの挨拶
研究者である青木さんは、最先端の研究成果を多くの人にダイレクトに伝える方法を思案していたそうです。そんな時にアーティストの藤元さんに出会いました。藤元さんにアートを使ったアウトリーチができないか相談し、この企画がたてられたとのこと。
「最近、海洋プラスチックの話題をよく耳にしますが、会場のみなさんはどんな印象があるでしょうか?答えは出ないかもしれませんが、今日は海洋プラスチックについてどんどん話していきましょう」との挨拶で講演会がスタートしました。
保坂直紀さんの挨拶
科学の「知」を有効に使うにはどうしたらよいか? 「共感」することが大切で、それが行動につながるとのこと。そして共感には、美術や音楽やアートが重要な役割を果たすそう。
そもそも我々にはプラスチックごみの知識があるのでしょうか? プラスチックの作り方の知識は多いものの、実は捨て方の方法はあまり分かっていないようです。保坂さんは「プラスチックごみをなくすために科学はFactを提示しなければならない。しかし、Factの提示だけでは世間は動きません。『我がこと』として考えないと問題は解決しないのです。きちんとした世論を作って市民が共感すれば社会が動きだすのです」と語りました。
古恵亮さんの挨拶
「ひいた話になるけれど・・・、保坂さんのいうFactの提示と共感について、何に共感を得るかは、だれがどうやって決めるのでしょう?」との投げかけから始まりました。
「プラスチックごみは本当に悪いことなのでしょうか? 科学がいえることはプラスチックが分散しているということだけです。汚染されているとか人体に影響があるというのは、事実ではなく価値判断を含む見方です。ものごとを見る時は断片的にしか見れません。いろんな見方から丁寧に検討し、総合的に判断する知力が必要です」とやや辛口な挨拶でした。
藤元明さんの挨拶
アーティストの藤元さんは、本物を見ないと気が済まない。そのためフィールドへはよく出かけるそう。今回の展示会の題材となった長崎県五島列島では、現地の方々の話や現場を体験されました。
衝撃的だったのは現地の高校生に話を聞いた時で、「海岸に打ち上げられた他人のごみをなぜ拾うのか?」という質問に、「大人たちが出したごみを自分たちの子どもに引き継ぐわけにいかない。自分たちがやらないと」という回答だったそうです。
今回の展示には、藤元さんが「美術によってごみでも価値がでるとしたら」との思いからつくられた作品がたくさんあります。
対談の様子
自己紹介のあとは、青木さん、保坂さん、古恵さん、藤元さんによる対談が行われました。
- プラスチックのストローをやめる、エコバックを使うなどの行動がどのくらい効果があるのだろうか?
- 日本だけでなく、プラスチックごみを大量に排出している国が取り組まなければ意味がないのではないか(日本のゴミが発展途上国に渡っているとの話もあるらしいが)?
- 大量にプラスチックを使うようになったのはここ50~60年。どのくらいで分解されるのか本当はよく分かっていない。
- 海を漂い続けるプラスチックごみはなくならない。海流学者として言えることはありますか?
などなど話題はつきませんでした。
最後に、現地の方の話では、海ごみが増えたとは感じていないそう。「海ごみはあって当然のもの。そこに住んでいない私たちの『海はきれいなもの。パーフェクトビーチであってほしい』との願望が、海のプラスチックごみに対して敏感になっているのかもしれない」と藤元さんが締めくくりました。
予定の時間をオーバーしてもなお答えは出なかったものの、さまざまな視点からプラスチックごみを考える機会になったのではないでしょうか。
(サイエンスコミュニケーター 藤井 友紀子)
国立研究開発法人 海洋研究開発機構
付加価値情報創生部門 アプリケーションラボ 研究員
北海道大学大学院博士課程修了。北海道大学理学研究院、同地球環境科学研究院および東京大学理学部で研究員を経て現在に至る。海の物理現象を中心とした数理科学的研究を展開する。