暖水渦のプランクトンへの影響 (親潮ウォッチ2020/5)

まとめ

    • 北海道・東北沖の時計回りの暖水渦Aの影響が残っており、沿岸寄りの親潮の南下①(親潮第一分枝[1])がしにくい状況です。予測では暖水渦が弱まり南に後退すると予測している一方、別の暖水渦が近づくとも予測しており、南下は弱い状態が続きそうです。
    • 沖側の親潮の南下②(親潮第二分枝[1])は暖水渦を回りこみ、平年より強くなっています。予測では、平年より強い状態から、別の暖水渦が近づくことで平年なみになりそうです。
Fig1

図1: 親潮状態の説明図。

 

見通し(長期予測)

海洋予測モデルJCOPE2Mで、約2か月先までの予測を行っています。図2はJCOPE2Mによる水深100メートル[2]での5月8日の水温(色、℃)と流れ(矢印)です。赤色が黒潮の影響を受けた暖かい水温で、青色が親潮の影響を受けた冷たい水温です。親潮の影響を受けている範囲の指標として、水温5°Cに太い黒線を引いています

北海道から東北沖のに暖水渦Aが存在しており、水温5°C線(黒太線)は暖水渦Aのために平年の位置(青線)より北にあり、暖水渦の影響で沿岸寄りの親潮の南下①が弱いことを意味しています。一方、暖水渦Aの東では、水温5°C線(黒太線)は平年の位置(青線)より南にあり、、沖側の親潮②は平年より南下しています。

図3は図2に対応する2020年5月8日から7月17日までの予測をアニメーションにしたものです。暖水渦Aは南下しながら弱まるとは予測しているものの、別の暖水渦が近づき、沿岸寄りの親潮の南下は弱いと予測しています。沖側の親潮の南下は、新しい暖水渦が近づけば、平年並みになりそうです。

日本海を見ると、水温5度線(黒線)が平年(青線)より平年並みです(図2)。予測でも平年並みの状況が続きます(図3)。

Fig3

図2: JCOPE2Mによる2020年5月8日の水深100メートルでの水温(色、℃)と流れ(矢印)。赤色が5°Cより高い黒潮の影響を受けた暖かい水温で、青色が5°Cより低い親潮の影響を受けた冷たい水温。親潮の影響を受けている範囲の指標として水温5°Cに太い黒線を引いた。細い青線は1993-2018年平均の水温5°C線で平年の親潮の影響範囲。

 


図3: 図2に対応する2020年5月8日から7月17日までの予測のアニメーション。クリックして操作してください。途中で停止もできます。

暖水渦のプランクトンへの影響

図4はJAXAのJASMESマップモニター[3]で表示させた人工衛星で観測された4月下旬のクロロフィルaの量(植物プランクトンの量の指標)です。「海に花咲く季節」で解説したように、北海道沖から東北沖では親潮域に春にプランクトンが大増殖することが知られています。実際に、図4を見ると、図2(あるいは下の図5)と比較すると、親潮域でプランクトンが多く発生しています。一方で黒潮続流域や、そこから派生した暖水渦ではプランクトンが少なくなっています。このように海流はプランクトンの発生に影響を与えています。

fig4

図4: JAXAのJASMESマップモニターで表示させた人工衛星で観測された(TerraとAquaのMODISセンサー)、4月下旬のクロロフィルaの量。

 

詳細(短期予測)

より高い水平分解能のモデルJCOPE-T DAで短期予測(約10日先)も行っています。毎日更新されるJCOPE-T DAの予測は、JAXAが提供を開始した可視化サイトで見ることができます。図の見方は「JAXAと共同で新しい海洋予測を開始」で解説しています。

図5は「1. 人工衛星「ひまわり」観測とJCOPE-T DAを比較するサイト」で親潮付近を見たものです。時間は2020年5月11日10時台(日本時間)の1時間平均で、左が気象衛星「ひまわり8号」による海面水温の観測、右がJCOPE-T-DAによる海面水温の推定値です。

暖水渦Aによって親潮の流れが影響している様子が見られます。左の「ひまわり8号」の図では雲で見えなくなっている領域が多いですが、右のモデルの図はそれを補っています。

Fig5

図5: 「人工衛星「ひまわり」観測とJCOPE-T DAの比較するサイト」で親潮付近を拡大した図。時刻は2020年5月11日10時台(日本時間)の1時間平均。左が気象衛星「ひまわり8号」による海面水温の観測。灰色でデータが無い場所は雲などで観測できなかった所。右がJCOPE-T-DAによる海面水温の推定値。

 

図6は2020年5月11日午前9時から5月21日午前9時までの予測のアニメーションです。左が海面、右が水深100mです。右の水深100mの図には、親潮の勢力の範囲の指標として、水温5℃線を黒太線線にしています。JCOPE-T DAは潮の満ち引きも計算しているので、1時間ごとの図でアニメーションにしています。

最新の予測は上記JAXAの可視化サイトでご確認ください。JAXAの可視化サイトでは、「ひまわり8号」が観測したクロロフィルaの量も見ることができます。


図6: 2020年5月11日午前9時から5月21日午前9時までの1時間ごとの予測のアニメーション。左が海面、右が水深100m。矢印(ベクトル)が海面の流れの向きと強さ(メートル毎秒)。色が海面水温(℃)。温度の等温線も2℃ごとに白色で加えてある。水深100mの右の図には親潮の勢力の指標として水温5℃の等温線も黒太線で加えている。クリックして操作してください。全画面表示にしたり、途中で停止したりできます。

 

 


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黒潮親潮ウォッチでは、親潮の現状について月に一回程度お知らせします。親潮に関する解説一覧はこちらです。 JCOPE-T-DAによる短期予測はJAXAのサイトで見ることができます。 4日毎に更新されるJCOPE2Mによる親潮の長期解析・予測図はJCOPE のweb pageで見られます。親潮関係の図の見方は2017年1月18日号2017年2月1日号で解説しています。

  1. [1]親潮第一分枝・第二分枝については親潮はどんな流路になっているの?で解説しています
  2. [2]天気の影響を受けやすい海面よりも海流の状態を反映していると考えられます。
  3. [3]https://www.eorc.jaxa.jp/JASMES/index_map_j.html