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研究者オススメの一冊

【第4回】 巨大地震のしくみ

記事

新型コロナウイルス感染拡大防止のために外出自粛を続けている若者のみなさんへ、いま読んでほしい一冊を海と地球の営みを探究するJAMSTECの研究者たちに聞きました。
46億年の地球の歴史をたどる物語や不確実な自然のしくみを紐解くドラマ。科学者、技術者を目指したエピソードなど海と地球を探る人々の思いを紹介します。

オススメする人

オススメする人:伊藤 亜妃 研究員
海域地震火山部門
 
学生時代に出会った海での観測に魅せられて二十年。これまでに日本近海からチリ沖に至る太平洋の海底に多数の地震計を設置してきた。「地球の中は、まだまだ謎だらけ」と感じながら毎日を過ごす。専門はプレート沈み込み帯の地殻構造推定。
聞き手:豊福 高志 主任研究員
(海洋科学技術戦略部 部長)
 
静岡大学大学院博士(理学)取得。主な研究テーマは海洋に住む有孔虫という小さな生物が炭酸カルシウムの殻を構築する過程の解明。2019年度から研究開発の社会連携や広報活動などを担っている。

豊福:みなさん、こんにちは。JAMSTECの豊福です。今日は海域地震火山部門の伊藤さんにお薦めの一冊をご紹介いただきます。今回もテレワーク中にZoomインタビューでお話を伺います。伊藤さん、こんにちは~。

伊藤:こんにちは。よろしくお願いします。

豊福:実は、お久しぶり、なんですよね。以前に一緒に船(=調査船)に乗ったことがありましたよね。

伊藤:あの時はお世話になりました(笑)船が、すごく揺れて!

豊福:そうでしたね!

伊藤:豊福さんに(船酔いを)心配していただいたのを覚えています。

対談する二人(左:伊藤、 右:豊福)

豊福:さて、伊藤さんは、いまどんな海の研究をされていますか。

伊藤:私は、海底に地震計を設置して、それで記録した地震のデータを使って地球の中・・・つまり、地面の下の構造を調べる、という研究をしています。

豊福:ずいぶんと大きなものを調べているんですね(笑)私は有孔虫という非常に小さな生き物を研究していますが、一方の伊藤さんは、地球そのものを研究しているということで微小から巨大まで。

伊藤:そうですね(笑)

この地球上で、日本ってけっこう特殊なロケーションにあると思うんです。

豊福:さて、今日は、どんな本をご紹介いただけるのでしょうか?

伊藤:はい、こちら。(と、図鑑のような一冊を手にもって)『巨大地震のしくみ』という本を紹介したいと思います。

1冊目の本を手に紹介する伊藤

伊藤:これは、全部で3巻シリーズになっています。そのうちの、第1巻と第2巻を、私たちが監修させていただきました。第1巻のサブタイトルは『地震はなぜ起きるの?』です。みなさん、よーくご存じだと思いますが、日本では地震がすごくたくさん起きますよね。

豊福:ええ、そうですね。

伊藤:そもそも、どうして地震が起きるのか?さらに、なぜ日本でこんなにたくさん起きるのか?そういう、基本的な疑問について、簡単かつ丁寧に、わかりやすい一冊になっています。

豊福:これは、子供向けの本?

伊藤:そうですね。小学校高学年くらいのこどもたちが読めるようにちゃんと漢字にはルビがふってありますし。イラストも多くって。あと、おっきい字で書いてあって、とても読みやすいです。

豊福:伊藤さんのように地震を研究している人たちは、いろんな人たちに読んでほしいという気持ちでこの本を監修されたんですね。

伊藤:はい。この地球上で、日本って、けっこう特殊なロケーションにあると思うんです、地震学的に。地球は、うすーいプレートというものが、何枚か表面を覆っています。

豊福:ええ、太平洋プレートとか北米プレートとかですよね。

日本列島周辺のプレートの配置

伊藤:日本周辺には、プレートが4~6枚もあるっていわれています。そのプレートの動きによって地震が起きるんですけども、そもそも、私たち自体が、そういう特殊な場所に生きている。

豊福:うん、うん。

伊藤:だから、なんというか。地震が起きるのは、避けられない、というか。まず知っていただきたくて。そういう場所に、わたしも、日本全国のみなさんも住んでいるというのを私は、みなさんに知ってほしいと思っています。

私たちが実際にどうやって海で地震波を観測しているのか?ということがこの本で紹介されています。

伊藤:地震学って聞くと、地震そのものを調べるって思いますよね。

豊福:まあ、そうですよね。

伊藤:でも、私が取り組んでいるのは地震で発生した振動(地震波)を利用して、地球の中のプレートがどうなっているのか、を調べる研究なんです。医療のCTスキャンがありますよね。

豊福:はい、あのCTですよね。

伊藤:CTスキャンは、人間の体の中を調べるために体の周りからX線を飛ばして、それを受信点で信号を受けて、体の中がどうなっているのか調べます。

豊福:うんうん。

伊藤:地球みたいな、おっきいものを調べるときも同じ原理なんです。

豊福:そのたとえは、わかりやすいですね。

伊藤:実は、地震は世界中で、すっごいたくさん、あらゆるところで起きています。特にプレート境界が多いんですけど。数多くの地震計で地震波の信号を記録すると地震が起きた地点と受信点の間にある地下の岩石の情報が分かるんです。

豊福:ああ、なるほどー。それじゃあ、地震計の間隔が少なければ少ないほどたくさんの情報が細かく得らえる、ということですね。

伊藤:そうなんです!そうそう!(喜)だから、海で観測する意味があるんです。地球の表面って、海が7割を占めていますよね。陸上には地震計を、いっぱい密度も高く配置することができるんです。でも、海に地震計って、なかなか設置できないですよね?

豊福:簡単じゃないですよ。

伊藤:でも、そもそも地球の表面の7割を海が占めているということは、その海に受信点を置かないと地球の内部、CTスキャンでいうと体の内部が、わからないんですね。なので、海底に地震計を設置して、なるべく細かく地球の中を調べようとしています。そこで、この第2巻が『調査の現場を見にいこう!』です。(と、シリーズ第2巻を手に取って。)

2冊目の本を手に紹介する伊藤

伊藤:こちらは、実際に私たちが海でどういう風に観測をしているか、具体的に書いてあってですね・・・観測装置の写真も載せてますし、イラストも詳しく描いてあるので。実際にどう調査しているのかが、よく分かると思います。

豊福:確かに、地球の構造はこうだよ、と書いてある本は多いけど、こうやって調べているんだよ、という一般向けの本はあまり見たことがないですよね。

伊藤:そうそう、ないですよね。特に海底観測なんかに特化した本なんて、ないかなと思いますよ(笑)

この装置が、ずっと海底で、黙々と、地震のシグナルを拾ってくれるんです。

豊福:ところで、インタビュー画面のバーチャル背景に映っているのは何ですか?

伊藤:これですね!(よくぞ聞いてくれました!)これが、私たちが使っている海底地震計なんです。まさに今から海に地震計を投入しようとしている写真です。

バーチャル背景に映る海底地震計を紹介する伊藤

豊福:調査船から海底まではすごく遠いですよね?

伊藤:水深が4000~5000メートルもある深海に設置することもあります。その場合は、海底に設置されるまでに30~40分くらいかかりますね。

豊福:4~5キロメートルの距離を30~40分かかるというと人が歩くよりも少し速いくらいのスピードですね。

伊藤:そうですね。分速90メートルくらい。これ、調査船から自由落下で海底に落とすんですよ。

豊福:へえ、重力で落とすんですね。4キロメートルというと、歩いてもけっこう大変ですからね。

伊藤:はい、遠いですよね(笑)

豊福:しかも、海中だと水圧がどんどん増えていくから。

伊藤:そうですね。この装置が、ずっと海底で、黙々と、地震のシグナルを拾ってくれるんです(と、いとおしいまなざし)

豊福:この一冊は、こどもにわかりやすいようにビジュアルブックになっていますが、お話を伺うと、大人の方でも楽しめそうな本ですね。

伊藤:特に第2巻の『調査の現場を見にいこう!』は大人でも十分に楽しめるというか・・・マニアックなんです、ちょっと、内容が(笑)監修した本人が言うのもなんですが(笑)

豊福:(笑)

伊藤:でも、興味がある人にとってはたまらない!

豊福:このインタビューでは、いつもマニアックな本をご紹介いただいているので大丈夫です(笑)

伊藤:じゃあ、よかったです(笑)JAMSTECでは、深海調査船というイメージが強いと思うんですけど本当にいろんな研究がされています。だから、こういう本を通じて、興味を持ってくださればと思います。

豊福:本当にそうですね。今日はどうもありがとうございました。

伊藤:ありがとうございました!(笑顔)

いま読んで欲しい2冊!

伊藤亜妃 研究員のオススメ

いつ?どこで?巨大地震のしくみ ビジュアル版
① 地震はなぜ起きるの?  ② 調査の現場を見にいこう!
佐久間博/編著 JAMSTEC/監修 汐文社

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